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異世界ぐーたらゲーム録  作者: 娯楽作品の虜
グダグダ使用人ライフ
35/37

ゲーム30.5

久しぶりです。


別にサボってた訳じゃないです。


ポケモンとかポケモンとかポケモンに……まあ今回はシリアス回です。


 

「ハア、ハァ……」


  乱れた髪、軋む内臓、動く事を拒否する心臓に、感覚のない四肢。 それらを強靭な精神力で無理矢理魔力で支えて、動き続ける。


 そんなことを、もうどれ位続けたのだろう。


「そして、そろそろその魔力も無くなる……と」


 冷静に今の自分の状況を省みるロミーナ。


 ……不味いわね。


  (たたかい)び始めてからもうそろそろ一時間が経とうとしている。


 その間常にフルスロットルでファティさんを追っているけれど、逆にファティさんは疲れるどころか魔力が底無しに上がり続けている。


  「あれ~? そろそろタイムリミットかな~♪」

 

 突然目の前に現れたファティはんは挑発するでもなくただ単純にもう楽しいストレス発散タイムが終わってしまう事に残念がっているように見える。


 目の前のこの少女にタッチするだけで、この鬼ごっこは終わるのに……。


 ロミーナは残っていると言うのもおこがましい程の微細な力を振り絞り目の前の少女に手を伸ばすが、その手は少女を貫通し虚しく空を切るばかりだ。


「やっぱり……これも「時送り」の幻影……」


 最初、始まったばかりはまだ勝機があった、魔力量もほぼ変わらず、お互い特になんの作戦もなく、ただ単純に走っての追いかけっこ。

  そう思ってしまっていた、この時点で今のこの絶望的状況は、ほぼ決まってしまっていたのだろう。



 ファティさんは自分の時を最大まで加速して、私の時を最大まで減速していた。

 しかしそれでも魔力の属性の影響で、僅かではあるが私の方が速かった、だからその時に気づくべきだったのだろう、「ファティさんがまるで部屋全体をなぞるように走っている」という事に。


 二週目に入ったあたりで突然ファティさんが立ち止まり、これを間抜けにもスタミナ切れと勘違いした私は、スピードを緩めてそのファティさんにタッチしてしまったのだ。


 それが「一周目のファティさんの幻影」と、気付かずに。


 それからはこの空間には何時でも何処にでもファティさんが出る事になった。

 姿は遅れて見えるし、音も能力を使って正しく届かせていないようだ。

 そう。 開始数分にして私はいきなり大事な手がかりを、たった一つの勝ち筋を潰してしまったのだ。


「それにそろそろ、本当に時間切れ何じゃな~い?」


 またどこからとも無くファティさんの声が聞こえてくる。

 そう、ファティさんの言う通り、そろそろ私には本当に時間が無いのだ。


 悪用されては困るためお嬢様以外には伏せているが、私の単独活動時間は一時間と十分程が、限界だ。


 それ以上は兎人の、私の種族の性質上、寂しくて死んでしまう。


 そしてこの時、ロミーナは今更ながらファティが鬼ごっこ、という遊びを選んだ理由を理解する。


 私の単独活動の定義は、血の通った、生きていて、私に敵意のない人と触れていない時だ。


 そして今考えてみれば遊びしだいではファティさんは完封する事も出来た筈だ。

 しかしそれでは、勝負が早く終わってしまい、私を取り逃してしまう。


 つまり今回ファティさんが鬼ごっこを選んだのは、私に「勝つ自信があった」という事だろう。

 

 なんという情けない話だろう。

 そして私はなんと愚かだったのだろう。


 お嬢様と、真の意味で仲直りが出来たことで心が緩んでしまったのだろうか? 何が理由かは、今となっては分からないが、私はファティさんが比較的、私に有利な鬼ごっこを選んだ理由を考えずに、あろう事か楽勝だと考えてしまった。


 そう、憂冷期に入っている人相手に、油断をしてしまったのだ。


 今この状況も当たり前の結果だろう。


 全ては私の行動が産んだ、身から出た錆だ。



 だから。


 だからこそ!


「だからこそ、私がここで屈する訳にはいかない……」


 もし私がここで屈してしまえば、この私以上に膨らんだ魔力の行き先は、この屋敷全体だ、私を助けて下さったアイナお嬢様の屋敷全体だ、それだけは絶対に許されない!


「仕方ないわね、この方法はやりたくなかったのだけれど……」


 ロミーナは残った魔力を無理矢理命を削って増大させて「部屋の角に一直線に走り出した」。


「とうとうおかしくなっちゃった〜?そこには私はいないよ〜?」


 部屋の四隅の角に辿り着く。


 継ぎ接ぎの合成音声のような声が脳を刺激する。

 しかしそんなことは気にしない。


 大事なことはたった一つ。


「貴方がこの部屋の何処かに居さへしてくだされば、いいのですよ」


 呟いたその音を置き去りにロミーナは反対側の角まで一歩で移動して無理矢理切り返して同じ道筋を少しだけ横にずらしてそれ以上の早さで移動する。


 それの繰り返し、そう、ロミーナが最後にとった行動はローラ作戦。

 それも後ろにすり抜けることの出来ない程の密度で、移動しながら反対側へファティを追いやっていき捕まえるというもの。


 方法としてはこれ以上確実なものはない。


 ただこの方法をするには足りないものが二つ。


 一つは残っている力。


 血液の巡りは限界を超え、どの臓器も動こうとしない。 今はそこを魔力で無理矢理回している状態だ。


 肺は常に破裂しそうなほど膨らみ、心臓は鼓動音が一つの音に聞こえるほどのスピードで鳴り続ける。


 服も無理やりな加速についていけず所々破れ

 筋肉は間違いなく炎症を起こしていて、燃えるように熱い。


 殆どの魔力を足に集めて走っている今、もしこのスピードで転んだりしたら怪我どころか下手したら死すらも有り得る。


 そしてもう一つは時間だ。


 今私に残っている時間は恐らくあと一分もない。

 しかし、究極的に時を遅くされている影響で、恐らくこの部屋をこのローラー作戦で埋め尽くすには二分はかかるだろう、だからある程度追い詰めたらそこからは運のゲームになってしまう。


「そうなればいいんだけどね〜♪」


「っ!」


 ファティの声が耳に届くと同時に突然目の前に大きな床の瓦礫が現れる。

 咄嗟に魔力を腕にまわし、瓦礫を砕こうと腕を振る。

 しかし腕は空を切り、バランスを崩しかける。


 という事は今のは偽物……なるほど。


 今のも時送りの能力の一つだろう、過去にそこにあったものを今あるように見せる能力、今のはそのパターンだったが、この能力の厄介なところは、その逆、つまり今そこにあるものを過去のものに見せるように、つまり無いもののように見せる能力。


 そして今のは警告だ、このままのスピードで走ってもし見えない瓦礫に当たったら……という警告。


 なるほど、それは怖いですね……でも、そんな事よりも怖い事がある。


 それは私がもしここで負けてしまった場合、次に遊び相手となるお嬢様方達が危険に晒されること。


 だけど今ので怯んでしまって残り時間があと三十秒程しかなくなってしまった。


 それに既に今の一瞬で反対側へ移られてしまったかもしれないし、魔力の大部分を生命維持に当てないと数秒後には倒れてしまいそうだ。


「ハァ、ハァ……」


 滴る汗はもう一滴も無く、視界はぐらつき、吐き気も止まらない、一度止まってしまったことでこれ以上走る事が出来ない。


 絶望……か。


 ロミーナは顔を伏せ、魔力を生命維持に回し始める。


「諦め時だと思うな〜 ロミーナさんの足なら、今から全力で逃げればアイナの所へ間に合うんじゃないかな〜? ここで終わってしまうのはとても残念だけど楽しかったよ♪」


 そんなロミーナの状況を察したようにファティはどこからとも無く「自然な」声を響かせる。


 その声を聞いた瞬間ロミーナは今まで「生命維持に使っていた魔力」を全て脚に集中させ声から割り出した位置へこの日最高の速度で駆け抜ける。


 最高に遅くされてなお音を置き去りにする脚力。

 ファティが気づいた時にはもう遅く既にその手はファティの肩に触れ、ゲーム終了。



 ……と、なるはずだった。



「危ない、危なかったよ〜♪」


 背後から聞こえるはずのない、ゆったりとした声がする。

 たった今、命を捨ててまで捕まえに行ったはずの相手の声が。


「あ、あなた一体……」


 ロミーナは肺に残った最後の一欠片の酸素を使い質問する。


「辛いだろうし〜喋らなくていいよ〜簡単な事だよ〜私はまだ能力の全てを出し切ってはいなかったってこと〜♪」


 息切れ一つせず楽しげに語るファティは未だに遊び足りなさそうだ。


 その楽しげに笑う事がロミーナに教えているのは、生命維持を放り出してまで届かなかった。 と言うことに他ならなかった。


 事実上の敗北通告。

 全力を尽くして、命を削って、なお届かない相手。

 もうロミーナは心臓も脈も肺も止まりかけている。


 ファティも勝ちを確信した様子で能力で見せていた幻影を元の荒れ果てた風景に戻す。


 そして部屋を直し終わった所でロミーナの方を見たファティは目を丸くした。


 そしてファティは、緑色の光に包まれ、「立ったまま」のロミーナを見て言う。


「ふふ……なるほど〜間に合ったって訳ね〜♪ 二日ぶりな〜? ねぇ、アイナっちと、優希さん?」


 ファティは扉の奥を見据えて、新しい遊び相手が来た喜びに頬を綻ばせた。

まあネタバレすると次回で台無しにしますwww

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