ゲーム29
前回のあらすじ
なんというか、時系列狂っててすいません……、あ、これ前回のあらすじじゃなかった。
「遅いわね……」
アイナはすっかり冷めてしまった紅茶を見て呟いた。
我がメイド、ロミーナが優希を部屋まで送り届けに行ってから30分、優希の部屋までは歩いても五分とかからないから、そろそろ帰ってきてもいい頃なのに……。
それに念のために優希にかけておいた結界が、完全に壊れてしまっているのも気がかりね。
1回生き返れる程度の魔力は込めていたつもりだったのに……。
流石のロミーナといえど気絶した人間を殺す様な真似はしないし、他の者に殺されたとしても、ロミーナが付いていながらそんなヘマをするとは考えにくい、単純な戦闘能力においてはロミーナは私よりも上なのだ。
という事は考えられる可能性としては、ロミーナは何処かに寄り道をしていて、優希にかけておいた結界は、何らかの偶然で壊れてしまった……と、ううん……有り得ない話では無さそうだけれど、あんまり現実味は無さそうね。
「でも、これじゃない可能性って一体……あれ?」
いつの間にか紅茶から、ほのかに湯気が出ている。
試しにカップの側面を触ってみても、さっきまでは無かった温かみがそこにはあった。
「どういう事かしら……まるで「時が戻った」みたいに……え? 「時が戻った」!?」
触れているカップの温度が上がっていくにつれて段々とその憶測が確信に変わっていく。
時が戻っている、という事はつまり、ファティの憂冷期が進行しているということ。
もしかしてとは思うけど……。
アイナは屋敷中に張り巡らせた魔力に感覚を集中させ、ファティの部屋の様子を伺う。
「やっぱり……しかもかなりまずい状況じゃない……」
ファティの部屋は張り巡らせた魔力が意味の無い程に崩壊しており、そこには世界の理を変えかねないほどの少しだけ大きさの違う、それでも大きな魔力が二つ。
言うまでもなく、ロミーナとファティのものだ。
そして魔力の質から考えて……ロミーナの魔力が小さい方だろう、ロミーナの魔力は決して少なくない、むしろ恐らく殆ど全力の状態だろう、この屋敷さえ一撃で、いや空間ごと破壊してしまう程の魔力をロミーナは纏っている。
しかし、まだ憂冷期は解消させておらず、この屋敷も破壊されていない。
つまり、ファティの魔力の方が大きく、ロミーナの行動を制限、又は相殺しているのだろう。
しかも恐らくファティはまだ完全に本気ではない、こんな所まで魔力がシミ出しているのが証拠よ。
どんな遊びを行っているのかは分からないが、ロミーナも持ってあと40分、いや、恐らくこの後まだまだヒートアップするだろうから、その半分だろう。
まあ、そもそも魔力を限界突破している相手に1人でまともに対峙できるという時点でとんでもない事なのだけどね……。
「あれ? ここまで魔力が届いてるってことは……不味いわ!」
カップの紅茶がポッドの中に戻るのと同時に転移呪文の詠唱を始める。
ファティの部屋からは、私の部屋よりも優希の部屋の方が近い。 つまりそれはこの時戻しの空間、とでも言うべき魔力による干渉がこの部屋よりも早く、強く影響しているということ。
今の私のように魔力を纏っていればこの程度の密度なら何のことはないが、何故か優希に掛けた結界、つまり纏わせた魔力は、全て消費されてしまっている。
つまり、今。 優希はこの魔法の影響をモロに受けてしまっている事になるわ!
「リューリャ!」
優希がいたら怒涛の如く突っ込まれそうな呪文を口にし、優希の部屋へ飛ぶ。
「優希! って、手遅れ……だったわね……」
そこに居たのは、顔までおそらく布団だったであろう羊毛に埋め尽くされ、少し苦しそうにに寝息を立てる10歳くらいの少年だった。
服すらも糸に戻ってしまって、大量の毛に埋もれていた少年は、幸いにも見分けられる程度には面影を残した五年ほど退化した結城優希だった。
「さて、とりあえずこの部屋に魔力の干渉が出来ないようにしようかしら、ついでに屋敷全体にも」
一度魔力を半分ほど解放する。
溢れあがった魔力は、そこにあるだけで中途半端な魔力の干渉などは許さない。
「リュカ二っと……ふぅ、なんとか足りたわね……」
溢れんばかりの魔力を床から流し、防御が二段階くらい上がりそうな気がする呪文と共に屋敷全体に張り巡らせた魔力の量を強化し、時戻しの空間の効力を無くす。
「さて、後は優希をどうするかね、とりあえず優希の時は止めておいたから、これ以上退化することはないとしても、私は時は止めることと、戻す事しか出来ないから、優希を元に戻す事は出来ないわ……、かといってこのままって訳にも……」
残った魔力の殆どを使って苦手な時止めを、優希に施し、これ以上の退化を防いではいるけれど……。
それにしても、やっぱり苦手な魔法のタイプだと、燃費悪いわね……。
基本的に時というものは戻す事や止めることはは出来ても、先送り、未来予知などは不可能なのだ。
何故なら時というのは無数に枝分かれする道のようなもの。
来た道なら戻る事も出来るし、途中で止まることも出来るが、これからゆく道を予知する事は出来ないわわ、
何故なら未来予知というのは「未来の決定」なのだ、常に未来への可能性は増え続けて、枝分かれは止まることはない、時を未来へする。 という事は即ち無限に増え続ける、枝を折り続け、一本を残し全て折るという事にほかならないわ。
そんな事が出来るのはそれこそ、時を操る魔法に特化し、「魔力の限界を超えている者」ぐらいのものだわ。
残念ながら私は時を操る魔法に特化している訳でもないし、憂冷期でもないから限界を突破してもいない。 つまり、今の私にはそれは不可能。
優希をこのままほっておく訳にはいかないし、ロミーナの助けにも早く向かわなければならない、でも屋敷全体と、優希にほぼ全魔力を使っている状態の私がいっても何の役にも立たない。
……これは一つ、賭けてみるしかないわね。
思い付いた一つの可能性。
失敗すればもう魔力は残らず、優希を助ける事もできず、さらにロミーナの助けに行くことも難しくなる。
でも、このままグダグダしていても結局何も出来ないで終わっちゃう……なら!
「優希、また少し血を貰うわよ」
風魔法で小さな小さなカマイタチを作って比較的痛みが少ないと思う耳たぶに向かって打つ。
力加減はなんとか成功したらしく、薄く切れた跡からは、血の滴が一滴、流れ落ちる。
すかさずその血を魔法で捉え、その血を核として、一旦優希にかけていた魔法を解き、その魔力で全力で創造魔法の魔力を練り上げる。
……なんとか成功したわね……。
「貴方とは「初めましてね」結城優希」
少しわかりにくいかもなので、また改稿すると思います
 




