ゲーム14
遅く以下略
「いや、別に死んでるわけじゃないと思うけど……」
アイナは複雑そうな顔をする。
「どうしたんだ? 別に俺は生きてるならいいけど……」
どうせ、異世界もののお決まりの、主人公はみんなと違う設定だろ?
そして、この特技を使ってオリジナル魔法を開発して…………魔法?
「気づきましたか、そうです、つまり貴方に魔力が流れていないという事は優希さんは魔法を一切使えないという事です……」
「つまり〜この優希さんに空を飛ぶ魔法を教える人を決めるための戦い自体が〜根本から成り立たなくなるのです〜」
「…………」
「…………」
え?何この空気……俺が悪いの?
「まあ、優希さんを責めても仕方ないですしね」
「むぅ……まあ、ロミーナがそういうなら……」
主人が従者の言葉に流されてる……。
それでいいのか主人……。
「……」
うっ……ヤバイなんかアイナめっちゃこっち見てる……心読まれたか?
「はぁ……」
視線を躊躇いがちに向けると、アイナは憂うようなため息をして視線を逸らした。
「良かった……勘違いか……」
「まあ、とにかく優希さんは魔法を使えないと……」
「そうだね〜ざんね〜ん」
「まあ、いつまでも気にしてても仕方ないわ今日はもうそろそろマズイ時間だからロミーナの作ってくれたご飯を食べて帰りましょ」
アイナは少し急かすように言った。
「そうだね〜そろそろマズイかも……」
「マズイって何が?」
「まぁ……いろいろあるのよ……」
「そうですよ〜世の中には知らなくていいことも沢山あるのです〜」
「ふぅ〜ん」
知らなくていいこと……か、それなら俺が魔法を使えないって事も知らなくていい事だったのかな……。
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この世界に来て二度目の夜。
屋敷の広い風呂から上がり、床に張り付く自分をただ眺める。
あっちの世界にいた頃は夜道で追ってくる黒い自分に恐怖を覚えた物だが、果たしてこの世界では……。
「ハッハッハっ!何だ!結局騙されてこの屋敷の使用人になっちゃったんだ!バッカだな〜!」
「まあ、つまり俺らの演技が上手くいってたって事だな、ありがとうございます」
「殺らないか?」
「だからやかましい!お前らは幽霊なのに静かにする事も出来ないのか! てか、最後のヤツは素でそれなのかよ!」
「なんだい使用人くん、騙されてご機嫌ナナメかい?」
「いやぁ、済まなかったと思っているよ」
「うるさいよ! てか、二人ともキャラ変わりすぎだろ!」
呪いの人素のキャラ明る過ぎだろ!
そして、ヒャッハーの人真面目だし!
「いやぁ、久しぶりに人を騙しがいがあって楽しかったよ使用人くん!」
「俺は迷惑してますけどね!」
「ほんとに済まないと思っているよ、私達の夢の為に結果的に騙すことになってしまって……」
「いや、そんなガチで謝られても……結構こっちの世界も面白いし……って夢?」
幽霊に余りにも似つかわしくない言葉につい聞き返してしまった。
「そうなんだ、俺達には三人とも同じ夢がある」
「おおっ、お前「殺らないか」以外にも喋れたのか……」
「惚れたか?」
「いや全く」
「ぐぬぬ……燃えるじゃないか……」
ホモの幽霊は青い色から赤く染まった
「燃えられても困るし、この世界だとほんとに燃えだしそうで怖い」
「殺らないか?」
「結局それかよ!絶対に掘らせないからな!」
常に後ろを取らせない様に立ち回らなければ……。
「で、結局夢って何なの?」
「それはね、使用人くん!小説家だよ!」
「…………マジで?」
正直、驚きを隠せない。
幽霊の小説家なんて聞いたこともない。
「それに、それが何で人を騙すことに繋がるんだ?」
「まあ、いろいろあるんだけど簡単に言うなら小説にリアリティを持たせるためかな」
「リアリティ?」
「うん、私達は三人とも幽霊だから、ある程度自由に動けるし、思考もある程度固定化されちゃってるの」
「なるほど、つまりこのホモの幽霊はそういう事で……」
「いや、俺のは自分の意思だ」
「なんだよ!ちょっと同情しちゃったじゃないかよ!」
「まあ、中居の事は置いといて、私達が書こうとしているのは人間の物語なのよ、現世への未練っていうかそんな感じの理由で」
「そんな感じって……」
そりゃまたずいぶん適当な夢だな……
「まあ、使用人くんにそう思われても仕方ないかもね」
「あ、すいません……」
どうやらこの世界では心を読むのは一般技能レベルらしい……。
「いいの、いいの、でも一応三人とも真剣に小説家を目指してるの」
「はい」
おちゃらけた声のままトーンだけが落ちていく。
「で、さっき言ったとおり私達は人より自由に動けるし、人より思考が固定化されちゃってるの、つまり、私達は「人」じゃない」
人じゃない、姿形は人でも、生きている時人だったとしても人じゃない。
ならば、この世界の生き物の定義を果たしていない俺は一体……。
「……大丈夫よ、貴方は人私達が保証するわ」
「……何でそんなこと……分からないじゃないですか……」
ついつい意地の悪い返しをしてしまった。
「いいえ分かるわ、だって貴方は悩んでいるもの、自分の存在について、行動の正しさについて、幽霊には出来ないわそんな事、悩むという事は生きているという証よ」
「……ありがとうございます」
最初は怒っていたのに今は逆に励まされている。
これも幽霊故に出来ることなのか…………いや、作家志望で、色々な人を騙し、人間の行動原理を見てきたこの人だから出来たことだ。
だから、俺がこの言葉を発するのもきっと仕方の無いことだろう。
「頑張ってくださいね、夢。 俺で良ければいつでも協力しますんで」
「ぷ……ぷぷぷ……あーっはっはっは! ありがとうございます、そうだね、協力してもらうよ! 私達の「単なる暇つぶし」にね!」
「アッハッハッハ!最高だぜお前!ヒャッハー!」
「殺らないか?」
…………前言撤回。
さっさと成仏してしまえ。
「ねぇねぇ、騙されて今どんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?NDK?NDK?」
「さっさと出てけー!!」
「うわーい!逃げろー」
「ヒャッハーー!」
「…………やらない「やらないよ!」」
「全く……もう二度と騙されねぇからな!」
「あ、最後に使用人くん!」
「あ?」
「「あ?」って怒りすぎ……じゃなくて、私が前言ったこの世界のことだけどね!半分位合ってるよ?」
「え?」
てっきり全部嘘だと思ってた……じゃあアイナに親がいないってのも、ロミーナさんが賞金首ハンターだったって言うのも……。
気がついたら聞き返していた。
「どこら辺が本当だったんですか?」
「うーん、とそれはねぇ……ヤバイ!ごめん今は無理になった、その代わり、この後来る人に聞きなよ!じゃあね〜!」
「あ、ちょっと……」
この後?
一体誰が来るんだろう?
それともまたいつもの嘘だろうか?
しかしどうやら、先程のは咄嗟に出た本当の事だったらしく、五分程経った時、部屋の扉がノックされた。
コンコン……。
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「それにしてもヒャッハー、お前がホントの夢語った時はビックリしたぜヒャッハー!」
「あぁ、今まで誰にも言ってなかったのにな」
「そうだね〜何となく使用人くんになら、話してもいい気がしたんだよね」
「じゃあ何で結局ぶち壊しにしたんだ?」
「そうだぜヒャッハー!応援してくれてたじゃねぇか」
「……」
そうなのだ、夢をそのまま語る気だったのに、使用人くんが応援してくれるってわかった時、突然胸の奥が知らない暖かさに包まれて、慣れない感覚に居心地が悪くなって、台無しにしてしまったのだ。
「なんでだろう?」
「まあ、いいや、そんな事よりさっきの事書いちゃおうぜ!ヒャッハー!」
「そうだね!」
「おう」
次こそはもっと早く……




