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怪談  作者: 仮名
1/4

「ようっ! どうしたんだよ? 最近見なかったじゃないか」


行きつけの居酒屋で仲間と飲んでいるとバンドをやっていると言う若い男が久々に顔を出した。


「あ、ハイ。ちょっと事故に遭っちゃいまして。入院していたんですよ」


「大丈夫か? 顔色も悪いぞ」


「怪我自体は頭を八針縫ったのと、検査のための入院だったから平気なんだけどさ。その後がちょっと……」


検査入院っていうのは大切だとわかっている。だが、痛みのない入院っていうのは本人からみてみれば退屈なだけだろう。


「なんだよ。看護師のねーちゃんが綺麗過ぎて色々大変だったのか?

まあ、これでも摘まんで話してみろよ」


シシトウと挽肉を餃子の皮で棒状に包んで揚げたお手軽摘みとビールを追加して愚痴を肴に酒を飲む。


「ごちになります」そう言って、なんちゃって揚げ餃子を摘み、豆板醤とお酢・ごま油で出来たタレをくぐらせて口に入れる。

こういった所でビールに合う摘みは箸がなくても食べられるのが最高だと思うんだ。


「人に言っても信じてもらえないんですが、ちょっと怖い思いをしたんですよ。

あ、入院自体はすぐに終わったんですけどね」


「え!? もしかして怖い話? 病院じゃないの?」


「まぜっかえすなよ。静かに聞けって」


「あー、ごめんね。こういう怖い話って病院が定番だからさ」


「いえ。大丈夫っス。俺もあんな目に遭うとは思わなかったですから」


頼んでいた中生が来たのでひとくち飲み先を続ける。




二ヶ月くらい前の突然の雨でずぶ濡れの中、自転車で帰ろうとしていた時にちょっとハンドルを取られた。


雨の中、傘も差さずもちろん合羽など着ていない状態で自転車のバランスを崩すだけでも危ないのに、たまたま自動車が通りかかった。

反射神経はよい方だったために、体を丸めて車の上に乗っかるようにして大きな怪我はなかったのだが、裾が何かに引っかかり右足を傷める事と運悪くワイパーに頭を打ちザックリとやってしまった。


入院中保険の人からは、自転車がぺちゃんこのわりには後遺症もなく運が良かったと言っていたが運が良いのなら事故に遭わないはずだ。


入院中は動かなくても問題なかったが、退院してから買い物へ行ったりすると我慢を強要させられる事があった。

怪我をして汗をかけば、そこを除いてタオルで拭けばまだ我慢が出来る。だが、頭だけは髪があり拭う事はできない。傷口を処置する為に短くしていたが、少しでも汗をかくとすごく不愉快になる。


だから傷がふさがり、洗ってもよいと許可が下りたときはうれしかった。今まで大病などで体を動かす事に制限された事がない自分にとってはもの凄く嬉しかった。


事故前はほとんどシャワーだけで済ましていたのを今日だけは湯船にお湯を張り堪能する事にした。

体を洗い、少しばかりくっついてしまった髪を揉むように洗い少し冷たいシャワーを浴びて、温かいお風呂に入る。

当たり前の事を当たり前に出来る。いや、一度でも快楽を味わったのならば、そこから抜け出すことは難しいのだろう。

湯船に頭の先まで浸かり、摘むことさえ難しくなった髪をかき上げて一息ついていると、違和感が働き出した。





「とまあ、そんなことがあって急いでお風呂場から出て行ったんですよ」


「あー。それはヤバイな。御祓い言ってきたか?」


「ハイ。行こうと思っても邪魔されてたみたいで、今日行って来ました」


よかったよかったと頷いていたら、他の奴らにも呼ばれていたので送り出すと、隣の奴が聞いてきた。


「なあ? どこが怖い話なんだ?」


「わからないのか? アイツは頭を切ったんだぞ。治療するには髪が邪魔になる。

それなのに、汗でくっついた髪を洗ったんだよ。

今は少し伸びているけれど、当時は摘むほどしかなかったって言っただろう」


「え? ああ、そっか。でも、それじゃあアイツが洗った髪って、ダレの髪だ?」







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