リアルが反映するVRMMORPG
時はVR全盛期。
あるところに、天才的なゲームクリエイターが居た。
彼はVRを活用したRPGで思う所があった。
「VRMMORPGでは、キャラクタの敏捷性に割り振らなくても、
プレイヤの反射神経が良ければ敵の攻撃を回避できる」
敵の攻撃に、タイミング良く回避行動を取れば回避成功になる というのが一般的なVRMMORPGのセオリー。
敏捷の能力値が高いと、回避成功と判定される時間が長くなる。
しかし、リアル反射神経に優れたゲーマーは、0コンマ何秒の世界でも回避を成功させてくる。
彼らは、割り振りポイントを筋力にすべてつぎ込み、ダメージの増強に特化させた。
そして、ほとんどの敵を一撃死させるに至った。
ゲームクリエイターはそれに対抗しようとしたが、タイミングをシビアにしようとしたり、敵のHPや防御力を上げると、一般的なプレイヤに影響が出る。
反射神経の良い人間は敵を一撃で倒し、どんどんレベルアップしているのに、自分は弱いまま ではモチベーションは維持できない。
「逆転の発想で、リアルで筋力があるからダメージ強化、頭が良いから魔法が強くなるもアリではないか」
そう考えた彼は、有志を募り、夜も寝ずに企画書を練り上げ、新しいVRMMORPGを作り上げた。
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そのゲームでは、プレイヤはアバターと呼ばれる自分の分身を作り上げる。
アバターの持つ能力値は、筋力、体力、器用、敏捷、知性、精神、幸運の7つ。
プレイヤーは、ゲーム開始時とレベルアップ時に能力値割り振りポイントが得られ、そのポイントを好きなように能力値に割り振れる。
製作者たちは、リアルをどのようにゲームに取り込むかで日々悩んでいた。
リアルの筋力を推定するため、体脂肪率を測る機能がVRの脳と接続機器に追加された。
プレイヤの体をスキャンし、性差を加味したうえで、体脂肪率から筋力を推定する。
いわゆる「マッチョ」な人間であれば、殴って与えるダメージに補正が入る。
重量上げの選手が筋力極でプレイすると、トンデモないダメージが出るようになった。
次は知力。
ゲーム内で定期的に「試験」が行われることになった。
プレイヤの年齢、職業に応じた試験項目が出され、それに正解すると魔法のダメージが上がる。
その他の能力についても、いろいろな計測方法が産み出された。
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大枚をはたいて作り出されたゲームは、大評判となった。
そもそもゲーム自体は、天才クリエイターが作ったものである。
シナリオには感動が詰まっており、出てくる敵も個性的。
たくさんのゲーマーが他のゲームから移動し、ゲームプレイを楽しんだ。
特色として、このゲームでは、リアルを鍛えれば、アバターが強くなる。
「魔法威力ボーナスのアクセサリ」と同様、数学の方程式が解けると、敵に与える魔法ダメージが上がる。
学生プレイヤは、攻略サイトにある「物理学の公式」「英熟語」を積極的に覚えるようになった。
戦士系職種では、寝る前に腹筋とスクワットを3セット行うのが常識化した。
「じゃ、筋トレしてからログアウトするわ」
「逆wそれ順番逆だからw」
が笑い話として流通した。
同時に、プレイヤたちは体脂肪の制御のため、不健康な食生活を改めた。
戦士系だけでなく、魔法使いであってもHPを増強する体力があって損はしないからだ。
そして、大盛況のなか、ゲームはサービス開始から5年が過ぎた。
■5年後■
天才が作り出したゲームは終焉を迎えていた。
その理由は、「卒業」率の高さにある。
このゲームで遊んだプレイヤは、ゲームを極めようとすればするほど、リアルの能力も上がっていく。
ゲーム浸りだった彼らは、体力がついたことで自分に自信がつき、成績が上がった事で、より良い就職先、進学先を見つける事が出来る。
「知性」の試験の中には、時事問題も織り込まれているからだ。
そうなると、ゲームだけではなく、リアルにも目を向けるようになり、ゲームの世界に没頭する事がなくなってきた。
そして、さらに1年後、このゲームはサービスを終えた。
「リアルの持ちこみはやっちゃいけない」という教訓を、ゲーム業界に残して。