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いたずら好きの少年


「不意打ちなんてそうそう決まらないわよ」


 自前の武器に七つ道具、特異点の力も制限されているFランクの闘いにおいて、敵の意表を突けるような行動は無いと言っても過言ではない。せいぜい物陰から忍び寄っていきなり押し倒して捕獲する程度だ。

 しかし、今回の砂漠エリアでは、敵の背後に忍び寄れるほどの死角は存在せず、開けた空間である。それだけではなくもう既に夕凪は彼女の前に姿を現している。

 私を甘くみるんじゃないと、自分より小さな少年を睨み付けてサーリャは距離を詰めた。挑発に乗った訳ではない。その自信を叩きおるためだと自分に言い聞かせる。

 しかし、夕凪は慌てない。武器ならある。そう言って口角をあげた。それはまるで、幼い子供が母親にいたずらをするような目付きだった。その子供のような目付きに、サーリャは怯まない。この男なら力ずくで何とかなる。そう思って手を出そうとした瞬間に夕凪は動いた。

 足を振り上げたかと思うと、蹴り出す。足技でカウンター狙いかと思ったサーリャは急ブレーキをかけた。これで相手の狙いは潰せた。後はこの隙に転ばせて逃走すれば良い。この時、まだ彼女は夕凪の本当の狙いに気付いていない。

 振り上げた夕凪の足は空振りするようなことはなく、地面の中に爪先を突き刺す。柔らかな砂の中にその足が潜り込んだ瞬間に、ようやく夕凪の狙いが彼女にも伝わった。本能的に悟ったという方が近いだろうか。

 砂の中に埋もれた足を前方へと蹴りあげる。巻き上げられた砂が彼女に襲いかかった。反射的に目を閉じ、顔を防御したサーリャだが、隙間から砂はまぶたの裏に入ってしまう。顔を襲う激痛に彼女は悶絶する。


「とどめだね」


 しめた。サーリャは声のした方向に夕凪がいると悟る。多少見えなかろうと、方向さえ分かれば殴ることぐらいはできる。まだ目が痛いふりをして夕凪の接近を待つ。足音が自分の正面で止まった瞬間、彼女は咄嗟にその方向に拳を放った。

 確実に当たる。そう信じてサーリャは拳をふりきった。結果、ゴンという鈍い音があたりに響く。しかし、夕凪にその拳は届いていないどころか、ダメージを負ったのはむしろサーリャの方だった。

 金属質のものを全力で殴り付けてしまったため、余計な痛みをその手にもらってしまった彼女はさらなる痛みに苦悶の表情を浮かべる。


「いっ……たぁっ……!」


 自分は何を殴ったのか彼女は見えていない。武器など持ち込めない。どうやって彼は自分の攻撃を凌いだのか。見えない状況で彼女は考える。しかし、何が答えなのか分からない。

 美波よろしく。夕凪は軽い口調で姉に最後の仕事を頼み込んだ。


「あんた、自分の方が小さいのに女の子に手をあげるの苦手だもんね」


 サーリャの両手を背後から掴んだ美波は後ろ手に組ませてその場に組伏せる。自分の体重もかけたので、サーリャはこれ以上抵抗できない。そのまま両方の手首に手錠を素早くかけた。逮捕完了、腕時計型のモニターに目を通すと、サーリャ・シュートは捕獲したということになっている。


「一体何が……」


 美波の水と夕凪の介護によって目の中の砂を洗い流したサーリャが刮目して最初に口にしたのはそんな言葉だった。やはり、自分に何が起こったのか理解していないのだろう。先程殴ってしまった硬質の物質。それが何なのか。

 手当てをしてもらっている途中にようやく彼女は気付いた。自分の拳を防ぐために夕凪が使った盾はこの水筒だったのだと。


「固かったでしょ?」

「思い付いたのが夕凪で良かったわね」


 人によってはそれでぶん殴られてるわよと美波は呟く。その表情を見てゾッとしてしまったサーリャだが、それを目にした夕凪は愉快そうに吹き出した。


「美波だってそんな事しないよ、安心して」


 楽しそうな夕凪の、満面の笑みを目にしたサーリャは顔を紅潮させて顔を伏せた。この反応はよく夕凪は女子から取られるので慣れてしまっている。美波と一緒に意地悪そうな笑みを浮かべてその顔をあげさせる。


「顔色悪いね、大丈夫? あー、熱はなさそうだね」

「大丈夫だから、顔っ! ……近い」


 じゃあ、退場っていう事でと夕凪と美波は彼女に告げる。恥ずかしそうにサーリャは去っていこうとする二人に捨て台詞を投げかけた。


「次闘う時は負けないから」

「はいはーい、お元気で」


 ゆるい返答を投げかけた夕凪だったが、次の連絡によって一気に表情が強張ることとなる。美波の表情も、緊張したものとなっている。その原因は楓たちからの連絡のせいだ。


「ちょっとヤバい、フォンはもうすぐ捕まえられるけど……最後の一人が厄介だ」


 詳しくはフォンを捕まえてからまた連絡する。そう言って楓は通信を切った。どうやら、楓はさらにもう一人捕まえていたようで、残るは風を入れて二人になっていた。

 たちまち、残り一人になる。その名前は見たことがないものだった。ラール・ロラール。アフリカ地区の選手だという事だ。楓の慌てようからして、かなりの人物だと分かる。


「一度全員集合する」


 高木の指示がインカムの向こう側から伝えられたーーーー。

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