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遭遇


「隠れるところがないはずだけど、中々見当たらないわね」

「うーん……広いからね」


 北方面を担当している夕凪と美波だが、全くと言っていいほど人が見当たらない。所々に散在する丘のせいで死角が生まれてはいるが、それにしても見当たらない。

 隠れる場所などないはずなのだがと、夕凪は砂に手を当てた。かなり熱かったようですぐに手を離す。この感じでは潜って隠れるのは不可能だと判断した。


「ビニールハウスみたいな漢字だね。でも湿度も低いし水は大事に使おう」


 エリアによっては、特別に持ち込みが許可されているものがある。この砂漠エリアでいうと水筒を持ち込むことができるという訳だ。だが、安易に大量に持ち込むと身動きがとりづらいので500ミリリットルを一本だけ持って入っていた。


「どうせ三十分だと思ったけど、慎重に使わないとね」

「……そうでもないみたいだよ」


 ふと、夕凪が目を凝らして奥の方の様子を窺う。美波もその視線の先を追ってみると、何やら小さなオブジェクトのようなものが見えた。その正体を確かめるために近寄ってみると、すぐにそれが何なのか分かった。蛇口である。


「なるほどね」

「美波、これが何か分かるの?」


 簡単な話だと美波は前置き、弟に説明を始める。砂漠にはオアシスが付き物なのだと。さすがに湖のように設置すると衛生上問題があるので仕方なく雰囲気もぶち壊しの蛇口にしているのだろう。


「ここで待ち構えてたら誰か来るかな?」

「ここだけとは考えにくいから逆に来ないかもね。でもこの周りを警戒するのはありかも」


 夕凪は何かを思い至ったかのように、自分の辿ってきた道のりを見返した。じっとその道のりを眺めていた彼だが、すぐさま諦めがついたようで、意気消沈する。その様子が一人芝居にしか思えなくて美波は吹き出した。


「何してんのよ、一人で」

「足跡残らないかなー、とか考えたんだけど」


 砂がサラサラなせいで、すぐに砂の流動性によって歩いてきた痕跡は消されてしまう。足跡を辿って相手を追うこともできないとなると本当に手がかりなど掴めない。

 どうすりゃ良いんだよと彼は肩を落とすが、姉の方はポジティブに考えている。まだ時間はあるといって、水分の補給を済ませてまた歩き出す。


「向こうがこっちを探せないのも一緒よ。刑事は昔は足で犯人を探したものよ」

「まあそっか」


 夕凪も美波に続いて水分補給を終わらせ、次にどちらへ向かおうかと全方位をぐるりと見渡す。丘のせいで見晴らしがいいはずなのに、微妙に見えない。

 どうしたものかと思い悩んでいると、紫表からの連絡が入った。それによると、三人いっぺんに捕まえたという話だ。


「何があったの?」

「速度じゃ敵わないと思ったみたいで、いっそのこと三人で押そうかかってきたんだけど」


 男三人対女三人だ、それはさすがにこちらに軍配があがるだろうと夕凪は考えたが、そうではなかった。最初、紫表一人でのんびりと丘の上で辺りの様子を窺っていた。他の二人も、別な丘の上からじっくりと。

 そんな矢先に三対一となるよう飛び出してきたらしいが、運悪く紫表を狙ったようだ。


「紫表マジですごかったぜ。木刀使ったらもっと強いらしい」

「へー、僕も見たかったな」

「そのうち見せてやれるよ」


 何せ神道は何をやらせようとそつなくこなすため、戦闘の方も図抜けていると判断したのだろう。相手も警官を目指している、しかも特異点という事は最前線の戦闘だろうから身体能力も高かったのだろうが、のらりくらりと紫表にかわされ、最後は全員砂まみれにさせられたらしい。

 高木はというと、神道の選んだ男として警戒されていたようだ。それにしても神道は有名だなと美波は呆れ返る。そのネームバリューには自分達が霞んで見えると。


「バカ言ってんじゃねえぞ、お前ら。お前らは武器を持ってからが真骨頂だろ」

「まあそうね。でもおかげで、ちょっとこのエリアをどうにかする方法が分かったかも」


 周囲の丘をいくつも見比べて、彼女はどの丘陵がもっとも高いのか見切りを付ける。あそこだと言って彼女が指差したのは東側の丘だった。

 どうやって見つけるの? 夕凪に訪ねられた美波は端的に答えた。


「このエリア唯一の死角はこういうデコボコな土地の向こう側。他に隠れる場所はないんだから、高いところから見渡せば隠れる所はないでしょう?」

「なるほど、妙な作戦だけど、尾行しながら丘の陰に隠れればその人は警察から中々見つからないしね」


 その通りであり、事実そのように動いている者が多いだろうと美波は見切りをつけていた。そのため、その言葉をわざと周囲に聞こえるように口にして、じっと自分達の歩いてきた方を眺める。

 ばれている。そう判断したのだろう。その丘の向こう側に、走り行く影が現れたのを彼女は見逃さなかった。


「いた。追うわよ夕凪」

「さっすが美波。了解」


 その影を追って走り出す。その二人に楓と紫表が交互に呼び掛けた。


「罠かもしれない。複数人いる可能性も考えとけよ」

「抵抗される可能性もある。確実に一人ずつ行け」


 分かっている。それだけ告げて二人は走り続ける。幸い走りなれていない人物のようであり、慌てているあまりさらにその動きは鈍重になっている。といっても体の線は細いので、単純に砂漠が苦手なのだろう。

 後ろ姿から分かる情報はピンク色の髪の毛をしているということだけだ。その情報を伝えると、氷室が受け答えた。彼女は複数で行動している可能性が高いと。

 フォン・シュライン・アルート。中国系とヨーロッパ人のハーフだという。元々バスケのポイントガードという司令塔のポジションをしていた有名なジュニア選手らしい。

 人を動かすのはなれているはずだと氷室は説明を続ける。そのため、これは誘い出しの罠の可能性もあるとそのため、振り返ってみるとその言葉は確信に変わった。


「よく分かったわね、冷河ちゃん」

「記憶力だけは良いから」


 謙遜でも自慢でもなく彼女はそう告げた。そんな折りに、フォンを囮としたつもりのもう一人の泥棒が後ろから忍び寄っていた。真っ青な長髪をたなびかせた、夕凪よりかは背の高い少女だった。

 逮捕しちゃうよと、夕凪は呼び掛ける。それは軽い口調だったが、確かな自信が込められていたので飛び出してきた彼女は緊張したようだ。表情を固めて、緊張を隠しきれていない。

 だが、次の瞬間には凛々しく闘う表情に変わっていた。


「このサーリャ・シュート。そう簡単には捕まらないわ」

ちなみにしれっとここで言い添えておきますが敵チームは以前話のなかでちょっとだけ触れた多国籍チームです。


中国名はほとんど知らないのでフォンだけ使わせてもらいました。

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