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作戦会議

「小さい割には便利だねー、このインカム」

 支給されたインターカムを耳に付けた夕凪は感心した様子でそのように呟いた。別に誰に言おうとした訳でもなく、ただ驚いたのだろう。彼の独りごとをインカムが拾い、全員へ通信する。

 もう少し声量を抑えろと美波は叱責するが、横のダイヤルで音量を調節できると夕凪は告げる。何となく人差し指で確認してみると、調節用ダイヤルに触れれたらしい。

 そのようにはしゃぐ夕凪とは違い、氷室はというと完全に通信機器としてしか見ていなかった。むしろ、腕に付けた期待の方が気になっているようである。

 画面が大きな腕時計のような機会である。エリアのマップとお互いのメンバーの名前が記されている。捕まった名前は大きくバツ印がつくらしいが、まだ始まっていないために誰ひとりとしてバツ印は付いていなかった。

 何とかしてそれらの機能を覚えようと四苦八苦している。


「対戦相手って女ばっかりなんだな」


ふと、楓が呟く。男は青字、女は赤字で名前が表示されているからそれもすぐに分かるという訳だ。こんなチームで大丈夫なのかと心配になってくる。しかし、一番油断していそうな神道が気を引き締めているのを見て意外に思う。

 どうしたのかと、彼は神道に呼びかけた。


「こいつら、全員特異点なんだよな」


 特異点。それは、遺伝子の突然変異によって生まれた特異な才能を持った人間の総称。分かりやすく言うと超能力者だ。と言っても、あまり大それた事はできない。そして遺伝子の突然変異ではあるのだが、その遺伝子も今や世界中に広まっているため確立としては十六分の一で生まれるという話だ。この話は、また後日座学の授業で教わるんだよなと楓は今後の予定を思い返した。

「でも、正直今は関係ないんだろ?」

 FランクやEランクなど、下位のランクである場合、基礎体力の向上も訓練の一部に含まれている。さらには、素人が特異点の力を使おうものならば危険がつきまとう。そのため、Bランクまで昇格しない限りはその力を使えない様に制限されている。そもそも、そこにたどりつく実力が無ければ特異点の力が使えようと大した戦力にはならないという学園からの厳しい処置だ。


「まあな。にしても結構鬱陶しいなこの地面」


 さらさらした砂の中に埋もれていく足を振り上げて、軽く足をふって砂を払う。砂漠ステージの地面は全てこのような砂で構成されているらしい。思った以上に足が取られて、動きが著しく制限されてしまう。

 元からあまり運動神経のよくない氷室や、平凡な身体能力の高木、本人いわく筋肉質で体重が比較的重い紫表はかなり厳しいようである。

 一方走り慣れている楓はというと、中学の陸上部の頃に合宿で砂浜を走らされた時になれたようで、比較的警戒に動く。ただし、上には上が存在しており、神埼姉弟はもっと身軽に動いていた。

 小柄で体重も軽く、すばしっこくバランス感覚が整っているような連中だ。柔軟性も充分にあるので、このフィールドでも足をあまり取られず自由にはしゃいでいる。スピードがほんの少し落ちている程度だ。

 どういった作戦で行こうかと、高木は全員に提案した。


「相手は女ばっかりだし、一対一で良いんじゃないか?」

「楓の考えでもよさそうだが……抵抗されると厄介だよな」


 特に、走り慣れていない上に腕力の方も期待できない氷室だと相手を捕まえるのは難しい。そのため、本当に七人ともバラバラで行動するのは得策ではないと紫表は言う。


「俺だって走るのは苦手だ。だから複数人でチームを組んで、一人一人捕まえていく方が良いだろう」


 どのみち普通のケイドロとは違って脱走は許可されていない。そのため、一人ずつ着実に減らしていった方が簡単だ。


「マップは見る事ができるけど、誰がどこにいるのかまでは表示されない。だから、一度分散すると合流できない可能性もある。やはりここはチームを組んだ方が良いと思う」


 そう言って、紫表が全体を三つのチームに区切った。


「まず、氷室をカバーする相方だけど、慣れ親しんでる楓に頼みたい」

「分かった」


 単純な速度だとこの中では陸上経験のある楓が最も能力的に高い。氷室は速度やスタミナこそないが、細かい動きならある程度できるので楓が追いつめた敵を最後に捕まえるぐらいならできるだろうとの判断だ。


「次に、今回のこのチームでのエースコンビ。夕凪と美波の二人で行動してもらう。敵を見つけたらそっと忍び寄って、チャンスと分かれば全力で一気に捕まえろ」


 だらだらと時間をかけるよりもすぐさま倒した方が消耗が少なくて済む。それぐらい分かっていると、二人は頷いた。一番動きやすいこの二人組ならばきっと問題はないだろうと残り四人も承諾した。


「最後に俺達三人だ。見たところ神道ならある程度動けるみたいだから、完全に数の利で圧していく」

「オッケー」


 まあ、こんなものだろうと紫表は一旦口を閉じた。感心しきった夕凪が、紫表に小さく拍手をする。


「すごいね。木刀とか持ってるからパワータイプだと思ってた」

「馬鹿野郎。俺だって成績優秀者の一人だ」


 発想力は少し劣るけれど、理詰めならある程度得意だと彼は言う。作戦は決まったなと、高木が一堂に問いかけた。

 協議開始の合図であるサイレンが鳴り響く。ご丁寧にも『残り時間三十分です』という放送まで入った。

 指示通り、七人は三つのグループに分散する。砂に反射した光が、彼らの表情を照らしていた。

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