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え、ケイドロ?

どうも、今日は。

新しいの書く時間あるなら低速更新の小説を終わらせろと言われそうな私です。

この小説は、どれだけ短くても極力毎日更新したいと思います(予約投稿にて)

日によっては500文字とかになるかもしれませんがよろしくお願いいたします。


稚拙な内容かもしれませんが、読んでくれると嬉しいです。

「やっべ、遅刻する」


 朝の日差しだけがカーテンの隙間から差し込んでいる薄暗い寮の一室に、彼の焦った声だけが響いた。一気にカーテンを開けると、もう既に登校しようとしている生徒が見受けられる。相当不味いのではないかと時計を見ると、八時を示している。

 入学式が始まるのは九時、そのため新入生は三十分前には集合していないといけなかった。学校までは走れば十分程度で到着するが、準備の時間を考えるとかなり時間は足りない。

 急いで着替えないといけない。すぐに判断した彼ーー楓 秀也ーーの声が響く。クローゼットを開いて、制服を取り出すと新品であるのにも関わらず乱雑に着替え始めた。寝巻きの服を脱ぎ捨て、まだ皺のついていない制服に袖を通す。

 ワイシャツも、上に羽織るブレザーもしっかりと一番上までボタンを締める。入学式という晴れの舞台であるし、学校が学校であるから、きちんとしなくてはならなかった。

 世界中の国が一丸となって創始した、大きな島ひとつを丸々使った巨大な“警察養成”の学校なのだから。服装をただしておかないと教官から怒号が飛ぶとの前評判だ。


「荷物の準備は昨日してたな。後は適当に朝食を……」


 昨晩のうちに荷物を鞄に詰めていた自分を辛うじて彼は褒め称えた。必要なものと言っても、ジャージしか指定されていなかったのだが。

 洗面所に向かって寝癖を直す。黒く染めた自分の髪の毛が乱雑に跳び跳ねているのを水をつけて溶かし、最低限の身だしなみを整えた。顔を洗って眠気を払拭するといつも通りの凛々しい彼になる。

 台所付近のビニール袋から、パンを一つ取り出して包装を破るとすぐさま口に加える。まるで学園ラブコメの主人公の女のようだと彼は自らに溜め息をついた。


「さーて、行くか」


 身支度を何とか十分以内に片付けた彼はリュックサックを手にとって部屋を出た。鍵をかけてすぐさま走り出そうとする彼の背中を叩く手があった。誰だろうかと振り返ると、幼い頃から見慣れた顔があった。


「何だ、氷室か」

「何だとは何よ」


 お前も遅刻なのかと、楓は彼女に呼び掛けた。ショートカットの髪の毛をいじりながら、そんな訳ないでしょうと彼女は答えた。


「寮全体の鍵の管理役なのよ、今週は」


 面倒くさそうにそう告げた彼女は、ただでさえキツい目付きをさらに鋭く尖らせる。さっさとしろと言いたげな顔つきだ。こういう目付きさえしていなければ美人だともてはやされるだろうにと、楓は内心で苦笑した。それを顔に浮かべるとさらに罵倒されるのが目に見えている。

 中学校の時も、その視線の鋭さとキツい性格のために男子受けはよくなかった。そのため、彼女の友達と呼べるのは数人の気の合う女子と楓くらいのものである。楓も、家が近所でなければ絶対にお近づきしなかっただろうと思っている。昔はもう少しましな性格だったものだと懐古し、溜め息をついた。


「後十五分、歩いても間に合うからさっさと行くわよ」


 有無を言わさぬその態度に、楓は従うしかなかった。一応、今までも、この瞬間も理不尽な理由で彼女が怒ったことはない。ただ、その態度があまりに冷たくて固いだけで、彼女は不当な怒りを人にぶつけたことはない。

 日本出身用の寮舎を出ると、まだ周りには他の連中がちらほらと見受けられた。歩いても間に合うというのは間違いではないらしい。ただし、早足で進む必要はあったが。


「そういえば、何で初日からジャージがいるんだ? 体力テストとかか?」

「はあ? あんたちゃんと入学要綱読んだの?」


 大体は読んだはずなのだけれどと、彼は弱々しく弁明する。実際のところ、読んだのは校則や日々の時間割くらいのものである。細かいところにはほとんど目を通していない。


「入学式が終わったらすぐに新入生向けのケイドロの説明会があるのよ。班分けと実際に競技をするのにジャージがいるの」


 なぜ生活面ではこんなに抜けているのかと、氷室は溜め息をついた。勉強だとか、人間関係だとかではそれなりに機転をきかせようとするのに、どうして身の回りのことはこんなにもギリギリなのかと呆れ返っている。

 もう少し、学校については調べてから入学しなさいよと氷室は楓に厳しく言及した。だが、今の楓にとってはそんな事よりも遥かに重要な事項が頭の中に留まっている。


「ケイドロ……というと、あの警察が泥棒を捕まえる鬼ごっこみたいなあれか?」

「それ以外に何があんのよ」


 いやいやいや。そんな風に否定しながら彼は首を横にふる。そんな事あり得るかよと、氷室に諭すように話しかける。


「学校だぞ。そんな事する訳ないだろ」

「だから入学要綱読めって言ってるでしょ」


 苛立ちが頂点に達し、額に青筋の浮かんだ氷室の表情から、嘘偽りは一切含まれていないことを楓は悟った。だが、その事が容易には飲み込めず、何でとどうしてが頭のなかでぐるぐると駆け巡る。


「一番成績に反映される科目だから、気を付けなさいよ」

「成績!? 科目!? え、授業でやんの?」

「もう良い。細かい話は先生に聞きなさい」


 馬鹿には付き合ってられないわと言い残して、一人だけペースをあげて彼女は入学式の会場の体育館へと向かった。現状を理解できていない楓を、ただ一人残して。


「何でケイドロなんか授業でするんだぁっ!」


 疑問に満ちた彼の叫びに答えてくれる人は周囲に一人もいなかった。

 彼の、いや、彼らのケイドロ生活はここから始まるーーーー。

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