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ヤれる  作者: 機里
5/6

愛ちゃん



 長い時間、長い日々、私は兵士たちと共に訓練をさせられた。いつになったら、戦場に出させてもらえるのかと、イライラし始めてきた頃。

 長期化した戦争は、兵士の枯渇という事態に辿り着いていた。本国から兵士を送ってくることが難しくなり、一般人も戦争に参加しなければならなくなったと。噂話が好きな一人の兵士から聞いた。

 そして、あちら側の国もほとんど同じような状況だと。

 私は歓喜しそうになった。もうすぐ私も戦えると。わざわざ探しに行かなくても、自分の知り合いが戦場に現れると。後は、私が見つけてあげるだけでいい。











 すぐに、私は戦場へと駆り出された。私は、興奮していた。ついにここに立ったのだと。恐怖はほとんどなかった。そして、すぐに一人、人を殺した。よーこを殺した。

 興奮は、それですぐに冷めてしまった。ひどく空しかった。こんなものなのかと、驚いた。

そんな風に、私はすぐに、戦争に慣れていった。

 始めて戦場に出て、数日。私はついに、愛ちゃんに出会った。












「智恵!」


 愛ちゃんは、いきなりそう叫んだ。ここが戦場だということを知らないのかと疑う。


「愛ちゃん」


 私も、名前を呼び返す。泣きそうな笑顔になった愛ちゃんは、私に向かって駆けてくる。

 けど、私は、それを許すわけには行かない。私は、私が殺されないために、私のせいで死んだ稔くんの二の舞にならないために、知り合い全てを、目の前に敵として立つすべての人を殺さなければならない。

 愛に向けて、銃を構える。喉を鳴らし、立ち止る愛。


「なに? どうしたの?」


 なにも、どうしたもないのだ。私は、これ以上ない敵対の姿勢を見せている。


「なんで、私に銃を向けるの?」


 私は、その問いに答えない。私が向けるこの銃が、その答えを明確に語っているから。


「ねぇ、なんでどうして?」


 それでも問いを続ける愛。私はイライラしてくる。

 そうだ、愛の話なんて聞かなくていい筈じゃない。私はこれから愛を殺すのだから。私は、狙いを定める。苦しまないように、心臓を一発で終わらせてあげる。


「なんでなのよ! 家族はみんなバラバラにされちゃうし。稔くんは戦争に行くって勝手に出て行って、帰ってこないし。智恵はおかしくなっちゃうし! 私が何か悪いことしたの!?」


 私の手が止まる。愛は彼のことを知らないのか。私には伝えてあげる義務があるんじゃないのか。そんな、本当はどうでもいいと捨て去らなければならない感情が、私の心の中に広がる。

 そして、そのまま、口を動かしてしまった。


「稔くんのことは知ってる」

「え?」


 愛の目が真摯にこちらに想いを訴えてくる。教えてほしいと。


「彼は……」


 私は何を言いたいのか。私を助けようとして殺されたというのか?いや、そんなことじゃ、私がこれから愛にしようとしていることと釣り合わない。だから―――




「彼は、私が殺したの」




 今度こそ、本当の意味で愛は止まった。その言葉の意味がわからないと、愛は全身で語る。私は、その言葉を全身で受け止める。


「どうして?」


 声が震えている。愛はその問いに、なんて答えて欲しいのだろう。私にはわからない。


「敵だったから」


 端的に答える。それが解答。敵だから倒す。それが真実。


「そんなの、悲しいよ」

「悲しくないよ。今から私が愛も殺してあげるから」


 笑顔で言った、つもりだ。出来ただろうか? 愛の瞳から涙が流れる。それを見ながら、私は改めて銃に力を込める。


「私は智恵を許さない!」


 震える声で、愛は叫んだ。その力強い言葉に私の心は揺れる。どんなことだって大丈夫だと思っていた筈の心が揺れる。


「恨んでやる。死んでもずっと恨んでやる。絶対に私は許さない」


 決意が乱れる。


「稔くんの分も私があなたを怨むから。一生私のせいで悩まされればいい。苦しんで死ねばいい」


 愛の口から憎悪の言葉が漏れる。私は戸惑う。その言葉が怖いのではなく、自分の行為が怖かった。抑えきっていたものが、決壊しそうだった。

 けど、もう後戻りはできない。後戻りするためには私は、行きすぎた。たくさんの人を殺し過ぎた。

 愛の言ったような憎悪を、私は殺したたくさんの人から既にもらっているはずだ。ただ、話しなんてしなかっただけ、言葉なんて聞いていなかっただけ。

 ダメだ、ダメだ、折れちゃ駄目。

 ここで折れたら、ダメだ。

 私が私を保てなくなる。


 できる、ヤれる。


 殺れるんだ!


 自分で、自分に暗示をかける。

 そして、私を惑わす呪詛を吐き続ける敵を排除した。





 ―――パン―――





 すっと、胸の淀みが解かれた。私は、心を縛り直す。重い音を立てて倒れた敵を一瞥する。ただそれだけ、それ以上何も考えない。

 私は、そのまま戦場を駆ける。







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