よーこ
2
目の前に人が居る。
いや、あれは敵だ。かつて知り合いだったという名の敵だ。
敵は顔を歪め、怯え、あり得ないと首を振る。
「智恵、やめてよ、冗談でしょ?」
懇願されている。
冗談じゃないよ。これは本物。現実以外の何物でもないんだから。
「ねぇ、智恵どうしちゃったの?」
語尾が震えている。
懇願の次は疑問。自分がとても的外れな言葉ばかり口にしているのがわかっているのだろうか。
暗がりの路地裏。袋小路。逃げ道はない。死角になっているこの場所は滅多なことでは見つからないだろう。
まあ、敵さんが大声を出せば見つかるかもしれないが。
「やめて、やめて、私を殺さないで!」
「殺されたくないなら、―――私を殺せばいいんだよ」
優しく私は教えてあげる。
敵同士として対峙したのなら、それが必然。ほかの選択肢なんてないんだよ。
「やだよ、できないよ。だって友だちでしょ?」
「昔は、そうだったね」
たった半年前のことを昔という自分がおかしくなった。私の中で、この半年は、昔と思えるほどに長いものだったのか。
敵は絶句する。
「嘘でしょ」
だから、本当だよ。
「ほら、早く銃を構えないと死んじゃうよ?」
調子に乗った私は、敵を挑発する。
ぶるぶると震える手で、敵は何とか銃を持ちあげる。
そんなんじゃ当たらないよ。
「さよなら、―――よーこ」
私は引き金を引く。すさまじい衝撃が、私の腕を伝う。
使い勝手はいいけれど、この痛みはどうにかしてほしい。
心臓を綺麗に撃ち抜かれた敵は、もう動かない。
青い空の下に映える赤い血は、ひどくミスマッチだ。
よーこは、私を怨んだかな? 呪ったかな?
そんなことを、私は思う。




