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ぷんデレ  作者:
3/8

2 ルートは未定

 さてさて。

 召喚されるにあたり、この姿でというのは何か違う気がするので、人化しようと思う。

 召喚されるのが虎というのは……それはそれでありな気もするが。

 しかし召喚陣から虎が飛び出してきたら、恐慌状態になるんじゃなかろうか。

 いや、神獣的な感じで案外さらっと受け入れられたりするかもしれないが……やはり同じ人の形であった方が意思の疎通もはかりやすいだろうし、ドラマも生まれやすいに違いない。

 ふむ、どんな姿で召喚されようか。

 目を瞑り、真剣に思案する。



 ――――うむ、決めた。



「なぜその姿を選んだ? 求められている存在のイメージとは違う気がするんだが」

 古馴染の魂から不思議そうに尋ねられ、私はキリッとした顔をそいつに向けた。

「もちろん、この姿を選んだのには理由がある。数ある前世を振り返り吟味した結果、女子高生が召喚されるというシチュエーションが一番オイシイと判断しt……」

「意味がわからん。もういいから、さっさと行ってこい阿呆が。この阿呆が」

「……蹴る事はなかろう」

 せっかくの聖服(誤字にあらず。セーラー服をベースに我が趣味をふんだんに盛り込んだスペシャルな一品である)が破損してしまったらどうしてくれるのだ。

 やれやれ。アイツは前世において日本文化(の一部)に触れる機会が無かったようだな。

 ふん、つまらん。

 一見普通の女子高生が実は最強だったりとか、激しく萌えるではないか。

 あぁ、もちろん本当に見たままのスペックしかない女の子が手違いで召喚されて……というパターンもまた良し。


 む。そうこう考えている内に召喚準備が整ったようだな。


 さて、どんな筋書きになるのか。

 今回は“邪神ラスボス”が実際ただのチョケた馬鹿だからな。

 となると、実は本当の黒幕は王様(または宰相)だった的な陰謀ルートは消えるのか?

 では、仲間と徐々に絆を深めつつ旅するRPG王道か、美形に囲まれてキャッキャウフフな逆ハー王道か、はたまた予想外の邪道ルートか……ふふふ。何でも来い、全て受け止めてやろう。

 私の萌えキャパシティーは無限だ!



 現れた召喚陣に躊躇無く飛び込み――――私はその「世界」に降立った。



 ビュオゥ!

 神々しい光を発しながら出現した私を中心に衝撃の波が広がり、その場に居た人々に襲いかかった。

 少々強引に入りこんだ為か、召喚者側への反動が大きくなってしまったようだ。


 仄かに光を発する白い石が敷き詰められた床、アーチ型の天井を支える太い柱、なんとも清廉な空気……ふむ、地下神殿といったところだろうか。


 召喚の余波に襲われ、両手で顔を庇っていた人々が恐る恐るといった様子で手を下ろし、此方を見た。

 驚愕、安堵、警戒、希望、疑念……様々な視線が突き刺さる。


 しばし静寂の時間が流れた後。


 筋骨逞しい兵士達に囲まれ守られていた美青年が、一歩、二歩と此方へ近づいてきた。

「いけません殿下!」

「危険でございます!」

 等の声が方々から聞こえるが、それを押し切る形で歩みを進める『殿下』。

 銀髪に青い目で、何かこう全体的にきらきらしている。あれだな、王子だな王子。


「貴女は……人か? 神、か?」

 そう問いかける声ははっきりと響いたが、じっとこちらを伺う瞳は酷く不安げに揺れていた。


 ふむ……今の状態を人という分類に当てはめて良いものか。

 かといって神とか……日本人として生きていた時に自分や他人をそう評した経験は何度もあるが。まぁ、そういう事では無いだろうな。

 脳内で返答を組み立てようとしたところで、はっとした。

 しまった。私としたことが!


 まだキャラ設定を固めていなかった!

 口調とか性格とかどうするべきだろうか? 反応は? 弱弱しく? 堂々と? 警戒気味? 無邪気? 困惑する? 怒る?

 うーむ、迷うな。

 ここでのチョイスによって後々のルートも…………む?


 くらり、と視界がブレた。


 全身に感じる違和感。

 体から力が抜け、かくりと膝から崩れ落ちる。

 唐突な不調に首を傾げ、そういえば、と思い出す。

 存在を安定させるために、現地の生物の細胞を定期的に取り入れる必要があるんだった。


 どうしたものかと細めた目に、赤い色が映りこむ。

 それは、思いのほか間近にあった。


 おそらくコレが召喚主だろうと思われる。黒いローブを着た、真面目そうというか、硬そうな感じの印象をうける中年男性。

 何というか、こう、『教授』っぽい。研究とか論文とかの単語が似合う感じだ。

 召喚時の衝撃が原因だろう。尻餅をついた状態のまま茫然と目を見開いているその人の頬から、血が流れ出ていた。


 赤い赤い、命の色。


 誘われるように身を寄せ、


 ぺろりと頬の血を舐めとった。


 舌の先から、全身へ。じわりと広がる、何とも言えない熱が心地良い。


 ……うむ、とりあえずはこれで十分だな。

 一舐めしただけだが、先ほどまでの違和感が綺麗に消えている。

 舐めるついでに傷の治癒もしてしおいたのだが……反応が無いな。


 もしや目を開けたまま気絶でもしているのかと、その緑色の瞳を覗きこめば。

「!?」

 教授は頬を赤くしながら、ばばっと大きく後ずさった。

 歳のわりに初心な反応に、ちょっとぐっと来たんだがどうしよう。

 女子高生と中年、か。うむ。私的にはありだな。日本では少々アレだが。

 ……こちらではどうなのだろうか? 後で調べてみよう。

「あぁ、すまん驚かせたか。血が出ていたのでな」

 苦笑しながらそう言い、両掌を相手に見せながら害意は無い事をアピールしておく。

「! ……お気遣い、有難くぞんじます」

 見た目に合った固い口調である。若干声が擦れているのは召喚疲れか、緊張故か……

 まっ赤な頬を突付いてみたい衝動に駆られるが、今は押さえておこう。

 あまりグイグイいくと引かれてしまいそうだからな。

「いや」

 ひらりと手を振って応えつつ、ふと気付いたんだが。


 素で喋ってしまったー!

 くっ、教授の愛らしさに惑わされた! 何と言う罠!

 ……まぁ、良いか。即席でキャラを作ってもボロが出るだろうからな。

 次があれば、もっと設定を練ってキャラを作りこんでから出現する事にしよう。

 ふ、良い教訓になったな。

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