0 おわり、そして……
「――ぁ」
ドスリ、と。
背中に衝撃を受け、体がぐっと仰け反った。
自分の腹部から突き出している刃が、独特な……しかし良く知っている形状である事に微かな苦味みを感じる。
その持ち主について、不審な行動が目立つと報告を受けたのはいつだったか。
険しい表情の部下に向かって、信じてやれ、と。そう言ったのは私だ。
刃が抜かれ、勢い良く飛び散る赤。
甘い判断をしたと、そんな事は自覚している。だが、後悔は無い。
視界の端に映る、苦しそうな顔。
お前が、そんな顔をしてくれるとは思わなかった、な。
めったに表情を変えず、会ったばかりの頃は機械人形のような奴だと思ったものだ。
迷ってくれたのだろう?
だから、こんな中途半端な事になった……お前ほどの実力があれば、もっと綺麗に片付けられただろうに。
腹の中を焼かれる様な痛みとは裏腹に、ふっと表情が緩む。
知っていたよ。全てでは無いけれど、こうなると推測できるくらいには。
こうするしか、なかったのだろう?
なら、立ち止まるな。後悔などするな。
「はやく、行け」
長く留まれば、捕まるぞ? 私の部下は、有能揃いだからな。
「――馬鹿がっ!」
おい、最後の最後に言う言葉がそれか。
「何故避けなかった! 何故、何故そんな顔をする! アンタはいつもそうだ……これ以上俺を惑わせるな!」
私が、お前を、惑わせた?
そうか。すまなかったな。だがそれは……むしろ褒め言葉だ。
ぽたり、ぽたり、頬に降る涙。
あぁ、残念だ。泣き顔を見てやりたかったが、もう、視覚が機能していない……
そろそろ、だな。
元より、病に犯されたこの体に残された時間は僅かなものだった。病に殺されずとも、どこぞの戦場で討たれていただろうさ。
どのみち、碌な死に方はしないだろうと思っていたのだが……
お前の手による死、か。それは、なかなか
「……悪く、ない、終わり方、だな……」
血が抜けきり、白く、冷たくなった体から魂が離れていく。
この世と引き離される最後の一瞬、もはや感覚など無いはずなのに、唇に感じたのは――――