存在し得ないプロローグ
─存在し得ないプロローグ─
僕には才能が無いのだろうか。いや、それとも我慢が足りないだけなのだろうか。自分の意思が弱いだけなのだろうか。何かをしようとしても直にやめてしまう自分に苛立ちを覚えるばかりで、それでもって、そんな自分を変えようともしない自分が大嫌い。
「はあ……」
溜息を吐くと、それはすぐさま白く凍りついた。気付けば季節は十一月。吐く息が白くなるのは当たり前だろう。僕は一人、昔の面影を一切無くした商店街を歩いた。息が白くなるのは約十度以下らしい。だから、今の気温は十度以下だということがわかる。寒いわけだ。僕は手で口を押さ息を手に当てた。暖かい。寒さでやられてしまった手が見る見るうちに温かくなった。その場で立ち止まり空を見上げた。冬の夜明けは遅くて、もう六時だというのに深く重い闇を湛えた空にたくさんの星が輝いていた。
少し歩くと、商店街を抜けた。
後ろに振り返りアーケードを見つめた。
恐ろしく静かだ。まるで死んだように、この商店街が死んでいるように静かだった。
いや……。
死んでいるのかもしれない。
町の中心部にあるこの商店街はすっかり寂れきっている。以前までは賑わいのある商店街だったのだが、近所に大手大型スーパーができてからというもの客足が遠のき、次第に商店街にあった店は潰れていった。かつて色鮮やかに塗られていたシャッターも今やすっかり錆びついてしまい、昼間でも開くことは無い。いや……。永遠に無いのかもしれない。
僕が小さかった頃はこんな風じゃなかった。
母親に手を引かれながら、きた商店街は周りには人が沢山いて、誰もが楽しそうに、忙しそうに歩き回っていた。そんな雰囲気だけで、幼かった頃の僕は楽しく、通り過ぎていく人や活気のある店をキョロキョロと眺めまわっていた。町の中心にある商店街。その通り、昔は賑わいがあり、町の中心だった。
今はもう、面影もない……。
芥川龍之介の短編を元に書いた短編小説【蜜柑】と【羅生門】の登場人物の 彼女と僕
【蜜柑】、【羅生門】のシリーズ化が決定。
【蜜柑】、【羅生門】を読んでくれた皆様、シリーズ化にご協力してくれた皆様有難う御座いました。