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ほら吹き地蔵 第二十一夜 地獄へようこそ

ようこそ、地獄へいらっしゃいました。

私は地獄庁職員、鬼山鬼太郎と申します。

初めて来られました方々へのご案内とお世話をさせていただきます。


ここの評判は、とにかく良くない。

見たことも来たこともない人たちが「まるで地獄のようだ」などと心ない言い方をする。

私たち地獄庁職員は、みな心を痛めているのです。

ここは行き場を失くした死びとを受け入れる、最後の安息の地なのに。


ええ。誰が何を言ったかは、逐一、耳に入って来ますよ。私たち、みんな地獄耳ですから。


人生は、生きている内が地獄です。

快楽殺人の犠牲者の苦痛に満ちた死こそ地獄の中の地獄。

毎朝毎朝、死刑執行人の足音に怯える死刑囚もまた、逃げ場のない生き地獄。

金のために殺し殺されるのは地獄。

人肉を食べて飢えをしのぐのも地獄。

大量破壊兵器で瞬殺された人々は、それが地獄だと感じる暇もなかったでしょう。


死は救いですよ。

誰でも救われます。

裁きは受けますが、有罪判決はありません。だって、ここでは罪が消滅してしまうんですから。早い人なら死後49日で。


でも、たまに救いの手から逃げ出す死びとがいる。

どうしても罪を手放したくない人たちがいる。

赦されて天国に行くくらいなら、罪業まみれになって地獄で痛めつけられた方がいい。


「私は罪人だ。罪人から罪を取ったら、一体なにが残ると言うのか。私の人生はなんだったのか。」


そう考える人たちが、たまにいる。

今日、ここに到着されたあなたも、そのお一人なんでしょう?


そんなに大事に抱きしめておられる罪を、私たちは粗末には扱いません。

我だとか執着だとか言って、否定したりしません。ましてやお説教だなんて!


やがて分かると思いますが、年季の入った罪は熟成した臭気をプンプンさせております。噛めば歯ごたえがあり、すりつぶせば、口の中にドロドロのクリームが広がります。もちろんバイ菌も寄生虫もたんまりいます。

私たち鬼の中でも好みは分かれますが、好きな者にはたまらんのですよ、こんがり焼いた罪の香ばしさが。たまに毒に当たって死ぬ鬼もいますが。

ちなみに私も「好き」の口です。


だから、あなたの罪を、ちょっとだけでいい、私たちにお布施してはいただけませんでしょうか。行き場を失った死びとの熟成した罪は、めったに手に入らない貴重な食材なんです。

もちろん、ちょうだいした罪を決して粗末にはいたしません。

私たちの好む調理方法は、罪の活け造りコース、ミンチ肉コース、炭火焼コース、フリーズドライ・コース、すり鉢コース、串焼きコース、そして銅のずんどう鍋で油揚げコースと、実は私たち、超のつくグルメ揃いなんです。

この調理場のことを、やれ火炎地獄だの血の池地獄だのと、変な風に誤解されておりますが、私たち地獄庁職員が包丁をふるって切り刻み、すりつぶし、火にかけるのは、あなたの罪をであって、あなたに対してじゃありません。

やってほしいのは罪滅ぼし。懲罰を受けて苦しむことじゃありません。


私たちが、あなたの罪を食べて食べて味わい尽くして、あなたの「罪の倉庫」がカラッポになってしまったら、おそらく、あなたは「全てを失くした寂しい人」になってしまうでしょう。

ずっと自分の罪にすがり付いて来たあなたが、すがり付く最後のものを失うのですから。

このワクワクするような地獄ランドですら、あなたには退屈で耐え難いものに思え始めるでしょう。


どうか、ご安心を。地獄は最後のステージじゃありません。

下には下があります。その気になれば、あなたは、いつでも次の町へ行く長距離バスに飛び乗ることができますよ。

逃げるのがご希望なら、あなたは好きなだけ逃げ続けることもできますよ。


おっと、大事なことを言い忘れておりました。

地獄には牢屋も鍵も拘束具もありません。地獄の門はいつでも開けっ放しです。どの部屋にも出入り自由です。

そもそも私たち地獄庁職員は、あなたのことを監視も拘束もしません。

あなたは、いつでも好きな時に、行きたい所に行っていいのですよ、これまでずっと、そうして来たように。そうやってご自分の意志で、この地獄までお越しになられたように。


あまり長い滞在にはならないことを、心からお祈りしています。

もしも、あなたの背中から「罪を失った寂しさ」が漂って来たら、私たちは背後から、そっとあなたの肩に触れましょう。あなたの寂しさを分かちあいましょう。あなたのそばに、ずっといましょう。

もしも、あなたが希望するなら、あなたのことを抱きしめてくれる人を、いつだって、大至急で、最優先で、全力で連れて参りますよ。


え?「なんで、そんな人間みたいな口をきくのか」って?

いやだなあ。私も昔は人間だったんですよ。

不思議なご縁をちょうだいして、今では地獄庁職員と言う、生涯を託するに足る仕事に就いておりますが。


ここで会ったのも地獄のつないだご縁。どうか、よろしく願います。

あ、そうだ。「地獄の沙汰も金次第」って、あれ、昭和までの話ですから。

今では地獄もコンプライアンス、かなりキツ目なもんで、そこの所だけは、どうかお間違いなきよう願います。

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