第6話:絶望の観測と、賢者の回収
本日は『ざまぁ』の山場です。
王都の最期をご覧ください。
アレスティアの広場には、巨大な「魔導スクリーン」が設置されていた。
普段は国民への告知や教育番組を流しているその画面に、今、映し出されているのは――地獄だった。
「……これが、王都? まさか」
警備局長に就任したばかりのシエラが、呆然と画面を見上げる。
画面越しのエルディア王都は、黒煙と悲鳴に包まれていた。
結界が消滅した西門から、数千、数万という魔獣の群れが街へと雪崩れ込んでいる。かつてアレスを罵った貴族たちが、豪華な馬車を捨てて逃げ惑い、泥にまみれて魔獣の牙に沈んでいく。
「アレス陛下、これは……あまりに惨すぎます」
「シエラ。感情を排して観察しなさい。これはただの『システムエラーの結末』だ」
アレスはコーヒーを啜りながら、淡々と画面の数値をチェックしている。
彼が飛ばした「観測用ドローン(遠隔自律式魔導カメラ)」は、混乱する王都の惨状を冷静にアレスティアへ送信していた。
「見てごらん。王宮魔導士たちが必死に火球を放っているが、狙いがバラバラだ。魔力の変換効率も $10\%$ を切っている。あれでは魔力を浪費しているだけで、魔獣の空腹を満たす手伝いをしているようなものだ」
「助けには……行かないのですか?」
「当然だ。だが、『資産』の回収には行く。カイル、準備は?」
「はい、アレス陛下! 第1魔導工兵連隊、出動準備完了です!」
カイルの声と共に、広場に整列した若者たちが一斉に敬礼した。彼らはアレスから教育を受け、規格化された魔導装備に身を包んだ「新時代の技術者」たちだ。
「よし。目標は王宮地下、第4書庫および古代遺産保管庫。エルディアの王家には過ぎた代物だ。彼らが魔獣の餌になる前に、僕たちの手で有効活用してあげよう」
*
王都、エルディア王宮。
「アレス……アレスを呼べぇぇ!」
エルディア王は、玉座の下で震えていた。
窓の外では、愛用していた庭園がキメラに食い荒らされ、近衛兵たちの悲鳴が途切れることなく聞こえてくる。
「陛下! すべての結界が消失しました! もはや、持ち堪えられません!」
宮廷魔導士団長が、血まみれで駆け込んできた。彼の杖は折れ、誇りだった魔導ローブはボロ布のようになっている。
「なぜだ! アレスがいればこんなことには……! 奴を呼び戻せと言っただろう!」
「陛下……今さら、どの口がそれを仰るのですか……」
魔導士団長の言葉は、突如として響いた「重低音」にかき消された。
ゴォォォォォン――!
空を引き裂くような轟音と共に、王宮の真上に「巨大な影」が現れた。
魔獣ではない。それは、鋼鉄と魔導回路で構成された巨大な飛行船――アレスが秘密裏に建造していた『万能魔導艦アレスティア』だった。
「な、なんだ……空飛ぶ城だと……!?」
王が顔を上げた瞬間、空から数条の光の柱が降り注いだ。
それは無差別の破壊ではない。王宮に群がっていた魔獣だけをピンポイントで蒸発させる、精密な熱線照射だ。
「救助が来た! アレスだ! アレスが助けに来てくれたのだ!」
王は歓喜に叫び、両手を広げた。
だが、飛行船から降りてきたのは、救援物資を抱えた兵士ではなかった。
アレスを先頭とした、工兵たちの集団だ。
彼らは玉座の間の王など一瞥もせず、専用の計測器を手に地下への階段へと向かう。
「待て! アレス! 予はここだ! まずはこの魔獣どもを掃討し、予の身の安全を――」
アレスは足を止め、ようやく王を見た。
その瞳は、道端に転がる石ころを見るよりも冷ややかだった。
「勘違いしないでください、陛下。僕は『ゴミ捨て場』から使える部品を拾いに来ただけだ」
「な、なんだと……?」
「君の命に、救出コストに見合う価値は見出せなかった。……カイル、地下の封印解除を急げ。魔獣の群れが再接近するまで、残り十五分だ」
「了解です! 解除コード入力、演算開始!」
アレスの背後で、かつての農民の息子であるカイルが、王立魔導士すら手が出せなかった古代封印を、数秒でハッキングしていく。
「馬鹿な……予の、予の国を……!」
「国を壊したのは君だ。僕はそれを『清掃』しているに過ぎない。……ああ、そうだ」
アレスは立ち去り際、王の足元に一つの小さな魔導具を放り投げた。
「それは『短距離転移機』だ。座標はザルツの外周、難民収容所に設定してある。使えば命だけは助かるかもしれない。ただし、魔力消費が激しいから、君の贅肉をすべてエネルギーに変換することになるだろうがね」
「あ……あぁ……」
「使うも使わないも君の自由だ。論理的に考えれば、君のような存在が生き延びる確率は限りなく低いが」
アレスは一度も振り返ることなく、地下から運び出される大量の古代魔導書と遺産と共に、飛行船へと戻っていった。
王宮が崩壊し、キメラの咆哮が玉座の間に響き渡る。
かつての王は、震える手でアレスが残した「最後の慈悲」という名の冷酷な選択肢を握りしめていた。
*
一時間後。
王都エルディアは、完全に沈黙した。
アレスティアの艦橋で、アレスは回収した戦利品の目録を眺めていた。
「……よし。これで新国家の『第2期開発計画』に必要なパーツがすべて揃った。シエラ、君の初仕事だ。逃げ延びた民のうち、技術を持つ者と労働意欲のある者を仕分けろ。それ以外は……人道的な範囲で放置して構わない」
「……了解いたしました。陛下」
シエラは、燃える王都を見つめ、静かに敬礼した。
かつて世界を支配した魔法王国は消え、今、一人の「効率厨」が支配する、冷たくも完璧な秩序が世界を塗り替えようとしていた。
ゴミ捨て場(王宮)から必要なものを拾うアレス。
容赦ないですね。
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