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学長の苦労

 前回の続き、53話の途中の話です。

「リリス・スイーパーを卒業させた方が我が学院にとって有益です!」


 珍しく感情的になっている学長の声が部屋に響く。


「しかし、前例が無い。前例が無い分には認められない」


 (だから老害、頑固おじいちゃんって言われんだよ。保守派筆頭のおじいちゃん。学院最古参な為職以上に影響力を持っているのも厄介だ)


 心の中で暴言を吐き出す。


「何事も初めは前例が無い。初の事例に値するだけの力はスイーパーにはある」


「しかし、自分から辞める訳では無いか。そんな奴らに卒業を認めさせていたらキリが無い。優秀な者でも辞めてしまう者も多く居る」


 会議は平行線。

 学長の力でクビにする事や無理矢理卒業させる事も不可能では無い。しかしそれをやると学院の評判が下がり、才能に満ち溢れる者の入学を妨げ、発展を大きく遅らせる事にも繋がる。


 どう転んでも一筋縄で行かない事態に唇を噛んだ。




 (この手はリスクが高くて使いたくなかったが)


「分かりました、この話は一旦置いておいて学内論文コンテストの選考に移りましょう」


「そうだな」


 相手も納得する。


「では先ずはこれから」


 公平を期す為に誰が書いたのか分からない論文を教授陣に配布した。






 暫く経ち、教授陣から続々と感動の反応が出る。


「馬鹿な、大学院の卒業論文レベルだぞ。こんな生徒が我が学院に居るとは。今すぐ国の機関の試験を受けさせても良い」


 老害おじいちゃんの声が聞こえる。

 おじいちゃんの唯一と言っても良い取り柄。それは論文等の成果には錬金術師(アルケミスト)としてしかるべき評価をし、決して他人の成果を奪わない事。ある意味錬金術師(アルケミスト)として真っ直ぐでもある。


 会議室では「誰が書いた?」「教えろ!」と言った声が上がる。


 浮き立つ気持ちを抑えて長年支えている右腕的存在の副学長に目線を送ると「大丈夫です」と目で答えてくれた。


 「勝った、風呂入ってくる」という衝動を抑えて淡々と話し始める。


「この論文は先日退学届を提出したリリス・スイーパーの物です。先程、「大学院の卒業論文レベル」、「今すぐ国の機関の試験を受けさせても良い」と仰っていましたね」


「そんなこと言ったのか?覚えてないな」


 ここまでは想定内。


「ではこちらをどうぞ!」


 大きな声で副学長に合図を送ると魔道具を起動し始めた。


「ザザッ…馬鹿な、大学院の卒業論文レベルだぞ。こんな生徒が我が学院に居るとは。今すぐ国の機関の試験を受けさせても良い」


 顔が真っ赤になるおじいちゃん。

 見ていてとても楽しい。


「これは魔道具《蓄積する鸚鵡返しリフレクション・サウンズ》!発言はここに記録してあります」


 おじいちゃんは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「ここにお集まりの皆様、この度はこちらの都合で会議を乱してしまい申し訳ございません」


 副学長と共に頭を下げた。


「しかし、学院の未来を左右すると言っても過言ではないと判断いたしました。そこでリリス・スイーパーの『早期卒業』について現時点での皆様の意思を確認したいです。『早期卒業』について賛成の方は挙手を願います」


 これまでの行動を丁寧に謝罪して是非を問う。


 あくまでも現時点だが、ここで全員の賛成が得られれば自分の力で無理矢理卒業させてもそれは全員の総意に等しい。

 恐る恐る見渡す。


 無派閥、中立派と学長派は勿論の事、保守派の教授陣も1人を除き全員挙手している。

 保守派筆頭で論文評価に関しては優秀なおじいちゃんの影響が大きい。


 (あとは…)


「エリアス・クローズ教授、どうして賛成しないのですか?」


「さっきも言ったろ!優秀でも辞めた奴は沢山いるしこの先も出てくる。優秀な者全員に卒業資格を渡していたら我が学院の品が落ちると言うものだ」


 深呼吸をして頭を冷静にさせてから口を開く。


「クローズ教授、貴方はこれまでリリス・スイーパー以外に学院在籍中に国の機関の試験を受けても良いような生徒が居ましたか?」


「居ない。こんな生徒居たことがないがこれから出てくる可能性もある」


「そうです。私よりもこの学院に長く居る貴方が見た事ないならば私もありません。リリス・スイーパーを除いて」


 おじいちゃんは渋い表情をする。


「クローズ教授、これはチャンスでもあります。リリス・スイーパーが探索者として名を挙げ、この学院卒業、しかも早期卒業とならばリリス・スイーパーをも超える逸材が入学する可能性も上がります」


「しかし、これからの者はどうするんだ!優秀な者は全て早期卒業させるのか!」


「では、『全教授の90%以上が参加している会議で満場一致』を条件にしてはどうでしょうか?欠席する教授も可能な限り前日までに投票する制度も含めて」


「…分かった。それなら良い。リリス・スイーパーの早期卒業も認める」


「リリス・スイーパーは早期卒業で決定しました。少し休憩を挟みましょう」


 声高らかに宣言する。


 (スイーパー君の頑張りが報われたか)


 安心すると同時に激務とは違う疲労感がのしかかってきた。

 暫く投稿しません。

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