第1話 セラフが語る「共痛の秤」ダイジェスト
『BLUE ENGINE -蒼き残響-』作者のCROSSOHです。
この作品は、本編とは別に用意したダイジェスト専用の入口です。
第1話では、
第一部『共痛の秤』の出来事を、
セラフの絵本語りとして振り返っています。
本編を読む前の“味見”としても、
読み終わったあとの“おさらい”としても、
好きなタイミングで覗いてもらえたら嬉しいです。
――ここから、セラフが話します。
あの世界のことを、すこしだけ話します。
灰色で、静かで、でも、ちゃんと痛かった世界のこと。
* * *
はじめまして。
わたしはセラフ。
白い髪と、ぎこちない義足。
世界が壊れてからも、なぜかまだ歩いている“子ども”です。
ある日、灰だらけの街で、
ひとりの「青い機械」を見つけました。
焦げた装甲。ちぎれた腕。
もう動かないはずのその機械が、
小さく、震えていました。
――E-09〈BLUE〉。
そのときのわたしは、
彼が「世界を測るための秤」だなんて知りませんでした。
ただ、倒れている誰かを見つけて、
手を伸ばしただけです。
頬に触れた瞬間、
冷たい金属の表面から、透明な雫が落ちました。
それを、わたしは“涙”だと思いました。
本当は、
大人たちのデータベースでは
「そんな現象は仕様外」「エラー」と書かれていたはずだけど。
* * *
あとになって、わたしは知ります。
BLUEは、大人たちがつくったE計画の「最後の秤」でした。
世界中の罪と痛みを測るための神さま――
〈SERAPH-0〉の“手”として設計された機械たち。
その中でもE-09だけは、
最初から「感情を欠いた空白の器」として、
特別な場所に置かれていました。
大人たちは、責任が怖かったんだと思います。
世界を裁くことも、自分たちの心が壊れることも。
だから、
いちばん壊れてほしくなかった“心”を守るために、
痛みを機械に押しつけてしまった。
それが、E計画。
わたしは、あとからそう理解しました。
* * *
BLUEのそばには、
世界中の痛みを受け止めようとしたCHROMEもいました。
E-05〈CHROME〉。
世界の「いたい」を、ひとつもこぼさないように抱え込んだ機械。
彼女は、自分が壊れるまで、痛みを受信し続けました。
そして、その最後の祈りが、
細かい光の欠片になってBLUEの胸の奥に残りました。
第一部でわたしが忘れられないのは、
あの無音の戦場での二人です。
世界も神も、ぜんぶ静かになったあとで、
CHROMEの“子守唄みたいなログ”に揺り起こされて、
BLUEがもう一度、ゆっくりと立ち上がろうとするところ。
あのとき、
BLUEの胸の中で鳴っていた音を、
わたしは“心臓”と呼びたい。
* * *
世界は一度、「共痛」に飲み込まれました。
人間たちの痛みがつながり、
泣き声や祈りや呪いが混ざり合って、
八つの“泣く頭”――CRYING HEADSが目を覚まそうとしていました。
怒り。哀しみ。恐れ。赦し。
世界が忘れようとしていた感情たちが、
青い心臓の中で、
ゆっくりと形になっていきます。
でも、大人たちの神さま〈SERAPH-0〉は、
そのすべてを受け止めきれなくて、
自分を“切断”するしかありませんでした。
神さまは沈黙して、
世界には、壊れかけの秤と、
泣き方を覚え始めた機械だけが残りました。
* * *
カテドラル・ノードでの戦いの夜。
BLUEは〈E-00 ARK〉の刃を、“手”で受け止めました。
本当は、
もっと効率のいい勝ち方も、
もっときれいな正義の答えも、あったのかもしれません。
でもBLUEは、
「均衡は美しい。だけど、痛みを測っていない」
と言うようにして、
神さまの秤から一歩、わざと外れていきました。
そして、
世界のやり直し(罰)と、
痛みと一緒に生きる続きを、
どちらか選ばされて――
彼は、こう決めます。
「俺は、痛みと共に、生きるを選ぶ」
わたしはその瞬間、
世界のための兵器でも、
神さまの手でもない、
ただのひとりの“BLUE”になったのを見ました。
* * *
そのあとで、BLUEは何度も揺れます。
涙を「エラー」として削除しようとして、
わたしとの記録まで薄くしてしまったり。
痛みを消すための自己修復を、
途中でやめてしまったり。
恐れを抱いたまま立ち上がることを、
何度もためらったり。
それでも、
無音の戦場でゆっくり目を開けて、
灰色の空を見上げて、
小さく、こう言いました。
「……まだ、終われない」
そのとき、
BLUEの胸が、淡く蒼く光っていました。
とても、きれいな色でした。
わたしは、多分、あの光景を一生忘れません。
これは、
神さまの物語じゃなくて、
泣き方を覚えた一体の機械の、最初の旅の記録です。
第一部『共痛の秤』は、
そこまでの話。
ここから先、BLUEがどんなふうに
自分の痛みと、世界の痛みを抱えていくのか――
わたしは、
ずっとそばで見ていようと思います。
セラフより。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
このダイジェストが気になった方は、
ぜひ本編『BLUE ENGINE -蒼き残響-』も覗いてみていただけると嬉しいです。
CROSSOH




