第七話
***Side ヴィオレッタ
「ヴィー、リラックスしすぎじゃない?」
今日も今日とて、ヘンリーの部屋でくつろいでいる。最初こそ遠慮してソファに縮こまって座っていたが、何度か訪問を繰り返すうちに、今ではすっかり慣れてベッドに転がって本を読むまでになった。
その間ヘンリーも本を読んだり、少し飽きたら2人でおやつを食べたり、世間話をしたりしている。なんなら、最近お昼寝もしている。
「あ、ごめん。最近つい居心地が良くて」
確かにいくら親密とはいえ、家族でもない人の前で寝転がるのは失礼だったな。慌てて身を起こして、ベッドの上で背筋を伸ばす。
「男の前でとる態度には気をつけた方がいい。とくに2人きりの時はね」
「それって相手が私に下心がある人の時の話でしょう?」
「僕にないとでも?」
「…あるの?」
ヘンリーははあ、とため息をついてソファから移動して私の横に座った。
「ヴィー、僕がわざわざこの学園に来た理由は最初に言ったよね?」
無表情のまま、ヘンリーは私の顔を覗き込む。近すぎる距離に驚いて、すぐには言葉を発することができなかった。だから私が答える代わりに、ヘンリーが続ける。
「ヴィーに会いたかったから」
「それって私が幼馴染だからじゃ…」
「昔から好きだったからって言ったらどうする?」
「えっと…びっくりする」
どうする、と聞かれたから素直に自分の気持ちを答えてみたが、それはヘンリーの求めるものとは違ったらしく、彼は苦々しい顔をした。一方で私は、部屋に流れていた緊張感が弾けたことで少し安心した。
「ヴィー、僕は君が好きなんだよ。君は鈍いからあえて言っておくと、恋愛的な意味だ。ヴィーに触れたいし、僕だけを見て欲しいし、誰にも見られないようにとじこめたい」
あまりに淡々と告げられるから、頭が追いつかない。告白にしては少し不穏だ。なんと言うべきかも当然わからずにいると、ヘンリーに「今日は帰る?」と聞かれた。
「あ…か、帰ります」
「そう、分かった。じゃあまた会いたくなったら僕を呼んで」
ヘンリーはそう言ってそっとピアスに触れて、そのまま冷たい手で私の頬を撫でた。私のほぼゼロの経験値ではなにもできず頷くと、ヘンリーはくつくつと笑って指を鳴らした。転移魔法の合図だ。
次の瞬間には私はもう女子寮の自分の部屋にいて、熱い頬を何度も叩いたのだった。
***Sideヘンリー
「ヴィー、リラックスしすぎじゃない?」
ヴィーと僕の部屋で何度も過ごすうちに、彼女はすっかり僕に対する警戒心をといた。居心地が良さそうに眠ったり本を読んだりする彼女に嬉しい気持ちがある一方で、複雑な気持ちでもある。
そんな気持ちを抱き始めたのは、ヴィーの周りにいた邪魔だと思っていた男---ルーベンに「ヴィオレッタにはストレートに言わないとわからない」と忠告されたことがきっかけだった。
話してみると本当にヴィーのことは友人だと思っているらしく、彼女のこの学園での恋愛について教えてくれた。ヴィーは今まで何人かに告白されているものの、「恋愛感情ってわからない」とぼやいていたらしい。
つまり、僕はヴィーに対して僕の抱いている気持ちを公表した上で揺さぶりをかける必要がある。まずは恋愛対象として意識させること。それが重要だ。
「男の前でとる態度には気をつけた方がいい。とくに2人きりの時はね」
そう言うと、姿勢を正したヴィーはきょとんとした。
「それって相手が私に下心がある人の時の話でしょう?」
「僕にないとでも?」
「…あるの?」
ここまで意識されていないとは思わず、ため息が出てしまった。これは少し彼女を教育する必要がありそうだ。
「ヴィー、僕がわざわざこの学園に来た理由は最初に言ったよね?」
ベッドの隅に座る彼女に、逃げ場がないように密着をする。そのまま顔を覗き込むと、ぎょっとしたように瞬きを繰り返した。今までに見ていない顔で、僕の中に充足感が広がる。何も答えないヴィーに変わって、言葉を続けた。
「ヴィーに会いたかったから」
「それって私が幼馴染だからじゃ…」
「昔から好きだったからって言ったらどうする?」
「えっと…びっくりする」
幼馴染だと言われるまでは想定していた。だけど、僕が好きだと言ったことに対して「びっくりする」なんて幼い答えが返ってきたから、こちらも面食らってしまった。
この部屋にあった緊張感が消えて、ヴィーは少しほっとしたように息を吐いた。今日はこのくらいにしておくか。そう思ったけど、最後の一押しは必要かなと思い直す。
「ヴィー、僕は君が好きなんだよ。君は鈍いからあえて言っておくと、恋愛的な意味だ。ヴィーに触れたいし、僕だけを見て欲しいし、誰にも見られないようにとじこめたい」
最初に伝えるには少し重すぎるかもしれないが、ここで嘘をついても仕方がない。本当は、この世界には僕と君2人だけでいいとすら思っているくらいだし。パンクしている様子のヴィーにそろそろ帰るかと尋ねると、彼女はか細い声で帰りたいと意思を表明した。
「そう、分かった。じゃあまた会いたくなったら僕を呼んで」
可愛らしいヴィーに止まらなくなって、欲望のまま柔らかい頬に触れる。熱を持つのは僕のせいだと思うと、嬉しくてたまらない。愉快な気持ちで、彼女を転移魔法で自室に返した。
あっという間に彼女の姿は消えて、ベッドにぬくもりだけが残った。きっとヴィーは自室で、慌てふためいていることだろう。僕の行動で、彼女が変わる。それが何より僕の気持ちを満たすのだ。




