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昔のことって、覚えてますか?

***Side ヴィオレッタ



昔から、先ほどヘンリーはそう言った。

彼の言う昔とは、私とヘンリーが共に過ごした2年ほどの月日を指している。



私は幼い頃、家の前に倒れていたヘンリーを拾ったのだ。ぼろぼろで薄汚れた子供なんて今まで見たことがなかったから、私は彼を助けたいと両親に願い出た。



両親はやっと産まれた一人娘の私に非常に甘く、戸惑いながらもヘンリーを家にあげ、看病をした。回復した頃、孤児院に入れることも検討したが、両親は情に弱いところもあってヘンリーをうちで育てることにしたらしい。



両親はいつかはヘンリーを使用人として雇う算段だったが、私があまりに彼を可愛がるものだから、とりあえずは家庭教師に倍の金額を払い、授業を受けさせることにした。私たちは暫く平穏に過ごしていたのだけれど、ある日我が家に激震が走った。



それは貴族の子供が8歳になると受ける魔力検査の日のこと。私が検査を受けるのと同時に、ヘンリーも検査を受けた。



「…これは」



長年さまざまな子どもをみてきている検査師の顔が青ざめたことは今でも覚えている。結果は私たちには知らされず、お父様だけが別室へと呼ばれた。ヘンリーの魔力の強さは規格外だったのだ。彼1人でこの王国を壊滅させることができるほどに。



それからは早かった。たった1日で王家の遣いがきて、あっという間にヘンリーを連れて行ってしまった。



私の隣の席で真剣に授業を受けているヘンリーを盗み見る。金色の髪は暗闇でもキラキラと光を放ちそうだし、前髪から覗く緑色の瞳はどんな女の子も虜にしてしまいそうだ。

昔から綺麗な顔立ちとは思っていたが、まさかここまでとは。ただ、綺麗な薄い唇を結んでいるときには不思議と昔の面影を感じる。



私の視線に気がついたヘンリーは、こちらに目をやって口角をにっとあげた。



…これが、違和感があるんだよなあ。ヘンリーが綺麗だから、作り物のようだと感じている可能性はある。ただ、昔は、本当に笑わない子だったのだ。そもそも、感情表現に乏しく、私は彼を喜ばせようと必死に色々なことをしたものだ。10年あれば性格も変わるものだけれど、私はどうも昔の彼を恋しく感じてしまう。



彼の視線はなんだか居心地が悪くて、私は手元のノートに視線を戻したのだった。



***Sideヘンリー



僕の人生は、ヴィオレッタと出会った日から始まっている。それまでは両親に売られて、奴隷商から逃げただけの、全く価値のないものだ。



ヴィオレッタの両親は変わり者だと思う。いくら娘が望んだからと言って、僕を治療しようだなんて普通は思わない。だけど、そんな両親だからこそヴィオレッタのようなまっすぐで優しい女の子が育ったのだと思う。



あの頃の僕はヴィオレッタにも彼女の両親にも感謝も伝えられないような子供だったが、それでも彼女は僕にたくさん話しかけて、愛情を注いでくれた。もしかしたら、彼女からしたらおままごとのような気持ちだったのかもしれないが、それでも僕は彼女が好きで、いつか気持ちを伝えたいと思っていた。



それをすぐにしなかったのは、いつまでもこの日々が続くなんて甘い考えをしていたからだ。



彼女との別れは突然だった。



「ヘンリー、よく聞きなさい」



彼女の父親は、僕だけを呼び出して言った。



「君の魔力はとても強い。ここで育てるには強すぎて、ヴィオレッタに危険が及ぶ可能性があるんだ。…だから、すまない」



要は、僕の魔力が暴走して周囲に危険が及ぶことを懸念しているらしい。ヴィーと離れるのは苦しかった。だけど、ヴィーの父親の判断はこの領地を守る領主として至極当然だ。何より、僕がヴィーを傷つけるわけにはいかない。王宮で暮らすという案に僕が反抗するなんてできるはずがなかった。王家が僕を手元に置きたい、そんな話はどうでも良かったけど、ヴィーや父親を思えば、ここにいるべきではないのだ。



それから僕は、彼女との思い出に縋りながら、これまでをただ生きてきたのだ。




彼女に会いたい。学園にきた理由はそれだけ。だけど、いざ会うと欲はよりいっそう深くなる。僕はヴィーに、僕だけを見て欲しいのだ。

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