違和感あるけど、気のせいですか?
***Side ヴィオレッタ
ヘンリーの存在は、あっという間に学園中に広まった。王家お気に入り最強魔法使いというのがこの学園でのメジャーな噂である。あながち間違っていない。おまけに容姿が整いまくっているため、女子生徒からの人気はとんでもなく高いのである。
彼が編入してほんの数ヶ月だけど、彼が人に囲まれていない瞬間はない。今も教室に入ると、彼は女の子から質問責めをされている最中だった。
「よっ、ヴィオレッタ」
ヘンリーを眺めていると、友人が私の肩をトンと叩いた。彼はルーベンという名前で、貴族ではないのだけれど、最近メキメキと頭角を表している商家の跡取り息子で、入学した頃からよく話す気心知れた仲だ。
「今日もすごいね」
ルーベンは私の前の席に座ると、ヘンリーを見ながら言った。
「ね、すごいよね」
「何?気になるの?」
ルーベンは私の顔を覗き込みながらニヤニヤと笑う。
「そりゃね。だって私彼のサポート役に任命されてるんだもの」
応接室に呼び出された日、すんなり受け入れてしまったが、次第に非常に責任が伴うミッションだと気づかされた。王家が気にかけている存在の世話係なんて大役だ。失敗すればお父様の首が飛びかねない。もっとも、当のヘンリーはというと、私のサポートなんて必要ないくらい学園生活に溶け込んで生活している。ありがたいようで、少し寂しい。
「そうじゃなくてさ。ヴィオレッタは好きになったりしないの?あいつのこと」
「へっ?いやいや、ないよ!そういうのじゃないから!」
精一杯否定すると、ルーベンは破顔する。からかわれたのだと気がつき、ムカついたのでとりあえず睨んでおく。くつくつと笑うルーベンに恨み言を並べていると、女の子に囲まれていたヘンリーがこちらに向かってきた。
私たちの隣に腰掛け、手に顎をおいて私を見た。
「楽しそうだね」
「…聞こえてた?」
別に好きとかではないのだけれど、先程の会話がヘンリーに聞かれていたらなんとなく気まずい。
「僕に聞かれたらまずいことだった?」
にこにこと笑みを浮かべているのが余計に怖い。私の記憶の中のヘンリーがほとんど笑わなかったせいなのか、ヘンリーの笑顔にはどうしても違和感がある。
「悪い。俺がちょっとヴィオレッタをからかって遊んでた」
「そう。ヴィーは昔からからかうと面白いけど、程々にしてあげてくれると助かるな」
ヘンリーはそういうと、さっさと授業の準備をはじめた。私は少し落ち着かない気持ちになって、またルーベンを睨んだのだった。
***Side ヘンリー
僕の価値は、非常に高いことが分かった。
魔力は王家のお墨付きを得るほど高い上に、女性が好む容姿をしているらしい。
編入してから、そのせいでヴィーと一緒にいられない時間がある。今も早めに教室に来てしまったばかりに、女子生徒から話しかけられている。タイミングを見計らってヴィーのところに行こうと思っていたが、そこにちょうどいかにも軽薄そうな男が現れた。
「よっ、ヴィオレッタ」
ヴィーの肩に触れたそいつは、いつだってヴィーに対してなれなれしい。平民というのもあるのか、ヴィーも他の貴族の息子より打ち解けているように見える。
2人はこちらを見ながら、何やら楽しげに話している。男がヴィーの顔を覗き込んで綺麗な笑顔を浮かべる。それに対してヴィーは笑ったり、困ったり、慌てたり、睨みつけたり。僕が見ていない顔もたくさん向けられている。その男の豪快な笑い方も、僕には到底できないことでますます鼻に付く。
いてもたってもいられなくなって、ヴィーの隣の席を確保した。2人に合わせるように口角をあげて笑顔を作る。
「楽しそうだね」
「…聞こえてた?」
ヴィーはバツが悪そうに言った。
「僕に聞かれたらまずいことだった?」
軽薄そうな男が「まあまあ」と僕たちを宥めるように口を挟む。
「悪い。俺がちょっとヴィオレッタをからかって遊んでた」
この男の醸し出す、ヴィーとの間の親しげな雰囲気がよりいっそうこの不愉快な気持ちを増幅させる。
「そう。ヴィーは昔からからかうと面白いけど、程々にしてあげてくれると助かるな」
自分は昔からヴィーを知っているんだ、そう示すことが僕にできる唯一のことだ。僕はずっと、ヴィーを好きなのに、そう言いたくてたまらなかった。