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幼馴染って、本当ですか?

***Side ヴィオレッタ



「失礼します、ヴィオレッタ・シャンドンです」



ひとつ深呼吸をして、扉をノックする。新学期早々学園の応接室に呼び出されるなんて、私の真面目な学園生活では縁のない話だと思っていた。扉の奥には、校長先生と、スラリとした男子生徒。その男子生徒は「久しぶりだね」と笑みを崩さず言った。



はて。



これほど綺麗な金髪を持つ人を私はあの子しか知らない。けれど、愛想のかけらもない子だったから、こんなふうににこやかに挨拶をする姿など到底想像もできない。



「えーと…ごめんなさい、お名前を頂戴しても?」



「忘れちゃった?僕だよ。ヘンリー」



まさかとは思ったが、やはり今まさに選択肢から外したヘンリーらしい。昔の仏頂面からはあまりに想像できなくて、私は彼の顔をまじまじと見てしまった。



「…あなた、その、すごく変わったわね」



だって、すごく好青年に見える。昔はどんなにお願いしても笑わなかったくらいなのに。口に出してから、ハッとした。昔馴染みとは言え、最後に会ったのは10年前に近い。こんなことを突然言うなんてとてつもなく失礼なことだ。



「君は変わらないね」



困ったような顔を作ったヘンリーを見て、校長先生もくすくすと笑った。



「ヴィオレッタさん、君にお願いがあるんだ」



校長先生はそう切り出すと、今日からヘンリーがこの学園に編入すること、それから、ヘンリーが学園生活に慣れるまではヘンリーの側でサポートをするように言った。



「さて、私はそろそろ会議の予定があってね。暫くは君たちは応接室にいてもいいが、どうする?ヴィオレッタさんの遅刻については担当教員に伝えておこう」



校長先生はそう言って、そそくさと出ていってしまった。せっかくいただいた時間なので、ありがたく使わせていただくこととする。私はヘンリーに座るように促し、私も向かいのソファに腰を下ろす。聞きたいことがありすぎて、一体何から聞けばいいものか。



「…なんでここに?」



しかも編入で、5年生から。



「ちょっと王様にお願いしてね」



軽い調子で言うが、よく王家が一時的にでもヘンリーを手放したものだ。幼い頃、ヘンリーの強すぎる魔力を脅威に感じた王家は、彼を保護の名の下に引き取っていったのだ。



「学校に通ってみたかったってこと?」



「それもあるけど、これを逃したらもう会えないと思って」



さらりと言われたことに驚いて、思わず目を見開いた。甘い口説き文句にも聞こえるけれど、今の彼の生活が分からないので、どのような意味を持つのか推測が難しい。そんな私に対して、ヘンリーは表情を変えることなく、「ヴィー?」と首を傾げた。ヴィー、という響きに懐かしさを感じる。私のことをこの愛称で呼ぶのはヘンリーだけなのだ。



「ヴィーは魔法科?」



「ええ、落ちこぼれだけど」



少し笑って見せると、ヘンリーもにっこりと笑った。人ってこんなに変わるものなのかしら。



***sideヘンリー



「失礼します、ヴィオレッタ・シャンドンです」



自分の心臓が音を立てたのが分かった。おそらく、緊張だ。ずっと会いたかった、焦がれていた人に再会するのだ。どんなふうに成長しているのだろう、どんな顔をするだろう、それから僕のことを覚えているだろうか。不安と期待が渦巻く。



緊張をほぐすのに深く呼吸をした時、扉が開いた。現れたのは、普通の女の子。癖のある茶色い髪はあの日のままで、今度は昔の恋心がリアルに蘇って胸が高鳴った。



「久しぶりだね」



不自然にならないように、笑みを作った。ヴィーは目を丸くして、ぱちくりと瞬きをした。



「えーと…ごめんなさい、お名前を頂戴しても?」



気まずそうに微笑む姿に、少しがっかりする。だけど、こんなの予想の範囲内だ。僕にはヴィーしかいなかったけど、ヴィーは昔からたくさんのものを持っているのだ。



「忘れちゃった?僕だよ。ヘンリー」



少し考え込むような表情を見る限り、覚えていないというわけではなさそうだ。しかし、昔の僕と同一人物とは思えないらしい。ヴィーは僕の顔を下からしっかりと覗き込んだ。



「…あなた、その、すごく変わったわね」



そう口に出して、ヴィーは片手で自分の口元を抑えた。無理もない。「普通」に見えるように周りを模倣するのにはかなり苦労した。



「君は変わらないね」



うっかり思ったことを口に出してしまうところは変わっていないようで、愛おしく感じた。校長はくすくすと笑うと「ヴィオレッタさん、あなたにお願いがあるんだ」と切り出した。


主な内容は、今日から僕がこの学園に編入すること、それから、学園生活に慣れるまでは

ヴィーが側にいるという指示だ。



「さて、私はそろそろ会議の予定があってね。暫くは君たちは応接室にいてもいいが、どうする?ヴィオレッタさんの遅刻については担当教員に伝えておこう」



校長はそう言って、さっさと出ていった。ヴィーはどうしようかとしばし考えて、僕にソファに座るように促した。



「…なんでここに?」



僕だってヴィーに聞きたいことはたくさんあるが、この状況ではヴィーが先だろう。



「ちょっと王様にお願いしてね」



実は、ちょっとなんてレベルではない。僕を学園に通わせないなら、あるいはヴィーに会わせないなら、この国の安全は保証できない、そう「お願い」をしたのだ。僕のような魔法使いは味方につけているうちはいいが、敵にしたくはないということで、学園に通う権利をもぎ取った。



「学校に通ってみたかったってこと?」



先ほどのは答えになっていなかったため、ヴィーが自分で解釈した答えを提示してきた。



「それもあるけど、これを逃したらもう会えないと思って」



何も意識をしていないふうを装って言ってみる。ヴィーは驚いたようで、目を大きく見開いた。あえて、なにもないですよ、という顔で首を傾げて見せた。本当は「ヴィー」と口に出すのも、すごく緊張した。ずっと呼びたかったのだ。だって、そう言うだけで笑いかけてくれる君が好きだったから。それを悟られないように、すぐに次の質問を投げかけた。



「ヴィーは魔法科?」



「ええ、落ちこぼれだけど」



彼女はそう言って苦笑した。ヴィーは昔から魔法が好きだから、きっと今の一言には色々な気持ちが含まれているのだろう。だけど、それを汲み取るには僕は今の彼女を知らなすぎる。



空白の10年も、今の彼女も全てが欲しい。そんなどろどろとした感情を隠すためににっこりと笑みを作って見せた。

初投稿です。よろしくお願いします。

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