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第5章 花言葉は「尊敬」

むらさきいろの薔薇 第五章 花言葉は「尊敬」



 それから1週間してまたスナックのマダムから妻に連絡があった。

「大丈夫、すべてがわかったから安心してこちらにお出かけください。」

『夫は人をはねたわけじゃないの?』って念を押して聞いたの。そしたら

『大丈夫、心配しないで。』そしたらすごく安心してね、そんな明るいお話しなら私も一緒に行っていいかしら?と聞いたの。『ご主人がよければどうぞ。』っていうのよ・・・

ねえ?たまには外でお酒飲みたいし・・・いいでしょ?」

「いいけどさ、息子はどうするのだよ?」

「あなたのお母さんに見てもらうように頼んじゃった。」

「まったく、いい気なものだな。こっちは犯罪者になるかってドキドキなのに。」

「ごめん、だから大丈夫だって言っているのだしねえ一緒に行こう。」

「わかったよ、それじゃあ2人で伺いますって探偵さんに言っておいて。」

「もう、二人で行くっていっておいたわよ。」


そう言ってニコッと笑った。私は苦笑いしたが妻のこのような素朴で飾らないところが好きなのだ。それに一人で探偵に会うと魅力的な彼女に心をときめかせそうなので、そういう意味では妻と一緒の方がいいかもしれない。人の気も知らないで能天気なのはお互い様か・・・


 翌日仕事を終えて妻と一緒にスナックをたずねた。スナックだが裏の方から入っていく探偵事務所になっている。

「お待ちしておりました。」

黒いシックなスーツをきこなして探偵マダムは出迎えてくれた。

「お久しぶりです。先輩、ぜんぜんかわらないですてきですね。」

「そう、あなたはお母さんになって落ち着いたわよ。」

落ち着いたという言葉が意外だったので、

「これが落ち着いているのですか?」と私が口を挟むと

「昔に比べたらね。」

「あっ先輩ひどい。」

とみんなで笑いあった。


 やっぱり妻を連れてきてよかった。それでなくても交通事故に幽霊伝説、一人で聞いたら重いはなしになってしまう。私たちは応接室に通されて、彼女から今回の一連の報告を受ける。

「まず、今回はあなたたちには直接関係のない幽霊伝説の話からするわね。」

妻は早くも面白半分に目を輝かせている。


「1年前の話、ご主人が事故を起こした日のちょうど1年前の話なの。女子高生が学校の帰りに車ではねられひき逃げされた。人をはねておいてそのまま逃走した。それから通りがかりの人が事故をみつけてすぐ救急車を呼びました。しかし病院に運ばれてしばらくして亡くなってしまいました。その時ね・・・その女の子高校のむらさき色の制服を着て『むらさき色の薔薇』の花束持っていたの。」


「むらさきの薔薇の花びらがあたりに飛び散っていた。痛ましいひき逃げ事件なの。」

 むらさき色か・・・私がひいた被害者も紫色だった。今でも紫色の服を着た人を車ではねてしまったと鮮明に覚えている。


「亡くなった女の子の持っていたむらさき色の薔薇は、おばあちゃんの喜寿のお祝いにお花屋さんで買ったものなのよ。紫は、昔から地位や位が高い人に使われる色なので、紫のバラも高貴な色として長寿のお祝いに使われるのね。」


「むらさきいろの薔薇の花ことばは『尊敬』その子おばあちゃんのこと大好きだった。その子がなくなっておばあちゃんの悲しみといったらそれは私たちに想像ができないくらいの悲しみよ。しかもひき逃げした犯人が見つからない。そこでそのおばあちゃん自分で犯人をさがしてやるって毎日、夜の7時になるとあの現場、あの横断歩道のところに行って目撃者探しをしていたの。むらさきいろの服を着てね・・・もちろん警察だって必死に捜査したわよ。現場にもひき逃げ事故について心当たりの人はいないかって看板を立てて聞きこみに力を入れてね。」


探偵マダムの話を聞いて、あの時のことを思い出した。警察官は「むらさきの花びらが落ちている」と聞いて、これは偶然ではないと私に必要以上に根掘り葉掘り「むらさきいろの薔薇」について聞いてきたわけが・・・。痛ましい話にとなりで聞いている妻はなみだに目をはらしている。


「亡くなった彼女のおばあちゃんは、毎晩通る車にあの日の夜の交通事故を、目撃した人はいないかってね。夏はまだ少し明るいけど秋になると、7時の時間は暗くなってきてむらさきいろの服の色が生えるのね、あそこを通るドライバーには、あんな寂しいところに立っていると、むらさき色のなにやら幽霊のように見えるらしいです。その場所でひき逃げ事件があったので幽霊伝説が伝わりはじめたわけなの。」



「私は、そのおばあちゃんとお話しすることができました。そして幽霊伝説の秘密を聞いたわ。これから先はおばあちゃんから聞いた話です。もしひき逃げ犯人がそこを通ったとしたら、むらさき色の服を着ていれば良心の呵責に苛まれて自首するのではないか、それと幽霊伝説をひろめたのもおばあちゃん自身だそうです。ひき逃げ犯人が捕まらなくて成仏できないとうわさを犯人に届けたかったらしいの。」


 妻が涙声で口をはさんだ

「そのおばあちゃんすごいわ。」

「それだけじゃないの、おばあちゃんのすごさは・・・・」

探偵マダムはそこで一息入れてまた話し始めた。


「それから犯人がわからず1年の歳月が流れたの。かわいい孫の一周忌にむらさきの花束を手向けようといつものようにあの場所に行った。そしてその日だけは目撃者を探すのではなくあの横断歩道に花を手向けようとしたのよ。きっと夢中だったのよ。思わず事故現場で飛び出しをした。そしたらあなたの車が通りかかった。無茶な飛び出しをしてしまったのはおばあちゃんの方だったけど、あなたのドライブテクニックが素晴らしいので車には接触しなかった。おばあちゃんは倒れこんでしまった。しかしけがはなかった。」


そう、ここから私が登場する。

「おばあちゃんはこう言ったわ・・・あなたがまず自分の様子を見に駆けつけてきたら悪いのは私と謝るつもりでいた。ところがあなたはまっさきに公衆電話ボックスに入って行った。そして救急車を呼び警察に届けた。


「たおれながらおばあちゃんは思ったのよ!1年前も犯人は公衆電話に駆け込んだのかもしれない、あなたが119番をしたように犯人も同じことをしたのではないかって・・・

それはあなたの話にも合ったけど、目の前に公衆電話があったのでまず被害者の確認より電話ボックスにはいったって・・・もちろん119番にかけてはいないのだけど、誰かに電話をした。そう推理したのね・・・だから自分のひらめきをたしかめたくって、いてもたってもいられずにその場を立ち去りすぐ警察に行った。」


「それをヒントにすぐ警察は動いたわ。ちょうど1年前の19:00すぎの公衆電話の履歴を調べたのね。おばあちゃんの推理は見事にあたったのよ。そこから先は警察が活躍をしたわ。犯人は怖くなってまず家にいる奥様に電話した。公衆電話の履歴でそれがわかったの。奥様は誰にも見られていないなら逃げてってご主人に言ったのよ。それで逃げた。そして1年が過ぎ昨日夫婦は警察に捕まった。」


「不思議な偶然ね・・・逮捕された夫婦には1歳になる男の子がいた。交通事故を起こした時ちょうど息子さんが生まれたばかりだったということになるわ。」


それを聞いて妻が泣きながら言った。

「私も同じ立場なら、逃げてっていうかもしれない。だってあなたが刑務所に入ったら生きていけない。」

いつもあっけらかんとしていると思っていた妻、本当は私のことが心配で心配でもしかしたら私よりも苦しんでいたのかもしれない。


「おばあちゃんは77歳とは思えないしっかりしたおばあちゃんよ。あなたに申し訳ないことしたってあやまっていたし、あなたのおかげで犯人を捕まえられたって感謝していた。お礼に伺いたいとおっしゃっていたけど、私の方でその方におばあちゃんの気持ちを伝えますからそれはいいと思います。と言いました。おそらくあなたの方もお詫びしたいという気持ちでしょ?おばあちゃんをそっとしてあげたかったの。お互いの気持ちがわかれば会う必要はないそれでいいでしょ?」


もちろん私には異論はない。私はうなずいた。

結局ひき逃げ犯人はつかまったし、あなたは人をはねていないことが分かった。だけど亡くなった女の子は帰ってこない。

「両親がいなくなった1歳のお子さんはどうしたのだろう?」

妻が涙ながらに聞いた。

「それは私も聞いていない。」

素直に喜べない複雑な気持ちのまま3人に静かな沈黙の時間が流れた・・・・



「本当にご迷惑をおかけしました。ありがとうございます。」

そう言った。妻は隣でまた大きな声で泣き出した。私のほほにも涙が伝わった。

「今日はお亡くなりになった女の子の冥福を祈って静かに飲みましょう」


 3人は静かに献杯をした。

 テーブルにはむらさきいろの薔薇が1輪さしてある・・・・


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