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第4章 名探偵マダム

むらさきいろの薔薇 第4章 名探偵マダム


 仕事に打ち込んで事故のことを忘れようと思って会社に出勤したが、やはりいつまでも気になった。紫色の服、むらさきいろのバラの花びら、気が付くとそのことばかりを考えこんでいた。仕事が終わると定時できりあげてそそくさと家路につく。帰り道ちょっと寄り道をして妻に紹介されたスナックに行ってみた。


 小さなお店で ドアを開けるといらっしゃいませと笑顔で私を迎えてくれた。

「いらっしゃいませ!」

「どうも、あの妻から紹介されて・・・」

「ええ、ええ・・聞いていますよ。」

「ああ・・・初めまして・・・」

マダムはにっこり笑って

「実は初めてではないのです。私お二人の結婚式によばれていますから。」

ああ・・・妻はそういうところが気がきかない。私たちの結婚式に来てくださったことを言ってくれれば、まずはそのお礼からいうべきなのだ。昔と言っても2年前のことだ。まあそこが妻らしいといえばそれまでだが・・・

「奥様から話は聞いていますよ どうぞゆっくりしていってください。水割りにします ?」

 

 そう言って水割りを作ってくれた。マダムは 非常に魅力的な女性だ 。胸元の開いた素敵な紫色のドレスを着ている。

「妻と一緒に仕事をさせていただいたと聞いています。」

「そうです 奥様と一緒に働いていました。」

「 いろいろとご迷惑をおかけしたでしょう。大変お世話になりました。」

「そんなことないですよ。奥様はとても才能がおありです。例えば企画をさせたら斬新な発想で彼女の考えたデザインの商品を売り出したこともあります。寿退社の時も私たちの上司もあの才能をここで終わらせるのはもったいないなあって言っておりました。でも良さそうなご主人に恵まれて、幸せそうだしそれでいいじゃないですかって言っていたのです。」

そんなふうに言われるとお世辞とわかっていても照れてしまい悪い気はしない。


「妻をそんな風に評価していただきうれしく思います。」

「私にはないところを彼女は持っているので、仕事の面でも助けてもらいました。そんな彼女から、大事な夫が悩み苦しんでいるので助けてほしいと泣きながら訴えてきました。私にできることならお手伝いしますので何なりとお話ください。」

「泣きながらですか?」

「刑務所に入ったらどうしようって・・・心配して泣いていましたよ。私も話を聞いてみないとわからないけど、できるだけお役に立てればと思っております。」

 

 妻は私を本気で心配して、彼女自身も彼女なりに悩んでいたのだということに気づく。決して能天気な無神経な女ではないのだ。真剣に私のことを気遣ってくれている。どうも年が離れているので子ども扱いしてしまうところがあるが、私にとってはかけがえのない妻なのかもしれない。私はお酒の力を借りて一時でも嫌なことを忘れてしまおうとそう思ってここに来たのだが、この目の前のマダムに本気で相談してみようと思った。そうマダムはみかけはスナックのマダムだが実のところ腕のいい探偵なのだ。


 それから私はお酒を飲みながら、 先日の横断歩道で人をはねてしまったこと、 人を跳ねたのは鮮明に覚えているが、 男なのか女なのかすらわからないほど慌てていたこと、公衆電話に走って行って救急車と警察に電話をして戻ってきたら、 倒れているはずの被害者がいなくなってしまったこと。それと妻にその場所は幽霊伝説で有名になっていると言われたこと、むらさきの花びらのこと・・・そんな話をした。


マダムは 興味深くうなずきながら私の話を聞く。


「自殺するつもりで私の車に飛び込んだのですかね?」

「そうですね・・・それは可能性として低いと思います。」

「そうですか?」

「そもそも、自殺で車に飛び込む人っていないわ。電車に飛び込む人はいるけど時速40キロの車に飛び込んだら痛いだけで命はおとせない。即死にはならないものです。それに死ぬだけだったら横断歩道で飛び込まないでしょ?横断歩道は歩行者がいれば一時停止する義務があるし、仮に歩行者がいなかったとしてもだれもが、横断歩道を見れば減速するわ。少なくとも加速はしない。だから自殺は考えにくいシュチュエーションですよね。」

「そうですね。じゃあどういうことなのでしょ?」

「まだはっきりしたことはわからないけど・・・今の話だけで想像すると・・・私はおそらく『あたりや』じゃないかなと思う。」

「あたりや??」

「そうです、わざと車に飛び込みお金を恐喝してくるの、組織ぐるみで行うこともあるわ。」

「当たり屋か・・・」

「これは想像の域だけど、あなたを恐喝しようとしたのよ。わざと横断歩道で飛び込み、警察には言わないと言って、示談金を請求する。あの手口私たちも当たり屋に恐喝されているなんて依頼を受けることあるのよ。」

「でも、当たり屋だとして、どうして恐喝せずにあの場からいなくなる必要があるのですか?」


探偵は少し間をあけて自分の考えを話し出す。

「あなたが真っ先にはねた被害者の様子を確認してきたら、大丈夫だからそのかわり示談金としてお金を出してと言い出したかもしれない。しかしあなたは真っ先に救急車と警察に電話してしまった。だから恐喝できなくなったのよ。警察に通報されたら恐喝できないでしょ?

つまりはあなたが被害者と話をする前に公衆電話に走ったから、恐喝できなくなったので退散した。そういうことじゃないかしらね。」


「なるほど・・・」

さすがは敏腕探偵と言われることだけはある。確かにもっともで話のつじつまはあってくる。巧妙に横断歩道を飛び出して巧妙にけがをしないように上手によける、映画のスタントマンのようにケガをしないように普段から訓練をしておくのだ、そういう輩は・・・


「でもね、これは私の推理というより想像ね、少し時間をいただいて調べてみたいの。どうもこんな単純なことじゃなくて深いわけがあるようなそんな気もするのよ。」

 「調べてもらえるのですか?」


「ええ、でもね、この話あなたとのかかわりはその程度のことだから、心配しないで逆に自分の方がむしろ被害者だと思って気にすることないと思うわ。それを言えるのは今回の事故であなたの車には損傷がないわけでしょ?人をはねてけがをさせたりすれば必ずこちらにもダメージがあるはずよ。それがないということは、人をはねていないのよ。警察が念のため車を調べているのでしょ?それではっきりすると思うけど。」


「そうなのですかね?」

「ただ、このまままではあなたも眠れない日が続くでしょう?だからあなたには何もなかったとすっきりしたいでしょ?1週間もらえれば調べて報告してあげます。」

「すみません・・・探偵依頼としておいくら用意すれば?」

「ああ・・・いいわよ。今日のお会計だけで。」

「それじゃあ、いくらなんでも。」

私がいくら言っても奥様とは親しい中だからといってお金を請求しない。


「ところで・・・幽霊伝説のこと聞いています。」

「私は何も知らないのです。」

「そうですか・・・その辺も調べてみましょう。とにかく幽霊をはねたなんてばかばかしいこと考えないでください。なにかこれには奥深い秘密があるようなそんな気がします。ただあなたはそのことには関係がないような気がします。幽霊伝説にまつわる別の事件が複雑に絡み合っているのかもしれないし、『当たり屋』については私の想像で全く違うかもしれない。


 奥様の話だと、夜中うなされているとか言っていましたけどどうぞ安心して今日からぐっすり寝てください。あなたは交通事故を起こしたと言いますが、車に損傷がない以上、人と接触した可能性は0だと思います。」


 そういわれると今までの心配が嘘のように晴れ晴れとした。目の前のマダムはすごく魅力的な女性だとあらためて胸をときめかす。いけない・・・まさか妻が私を気遣い心配してくれて紹介してくれた彼女にときめいたら最高の裏切りになってしまう。安心したら長居は無用ですね。お会計をしてもらって妻の待っている家路を急ぐことにした。




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