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第2章 42.195kmの思い出

むらさきいろの薔薇  第2章  42.195kmの思い出


 ここで本題に入る前にこの物語の年代をお話ししておかなければならない。お気づきではあると思いますが、私が事故を起こした時に救急車を公衆電話で呼んでいる。つまりは携帯電話が全く普及されていない時代の話である。今の時代には全く理解できないが、公衆電話があちらこちらに点在していた。この物語はいまから30年前1990年頃の話になる。


 次に私と妻とのなれそめをここでお話ししておきたい。結婚してまだ2年新婚と言えば新婚だ。私たちは年齢が10歳違う。私が40歳で彼女は30歳だ。スポーツクラブで知り合った。彼女はなんでも挑戦するバイタリティの持ち主。一生懸命でひたむきなところがある女性だった。

 

 3年前のことだ、私は趣味がマラソンで、冬場になると月に一度マラソン大会に出場する市民ランナーだ。当時は市民ランナーという言葉はなかったかもしれない。マラソンタイムを1秒でも縮めたくスポーツクラブに通って筋トレを行っていた。私は学生時代陸上競技をしていたわけではない。


 スポーツクラブの飲み会で、マラソンの話を何気なくしていたら私も挑戦したいと彼女が言い出した。私の方からだれでもフルマラソン完走はできるもの。皆さんぜひ挑戦してみましょう。そう安易に話したら、走ったこともないのに本当にフルマラソンンに申し込みをしたという。まあ最初は私もそうだったが10キロくらいから始めるものだが、いきなりフルに申し込んでしまうという大胆な女の子だった。


「だって・・・歩いてでもゴールできるのよね?」

そんなのんきなことを言う。

「制限時間があって時間内に通過しないと失格になっちゃうよ。」

「え~~知らなかった。それじゃあ今から練習しよう。」

大会本番まで3か月の間走り方を教えてくれと言われたので一緒に練習した。


 大会は彼女にとって初めてのマラソンしかもフルマラソン。制限時間は6時間、途中歩いてしまったら達成できない制限時間だ。もちろん私とはスタートは一緒だが走るペースは違う。彼女の大胆な性格は不可能を可能に変えるかもしれない。


 マラソン当日のことは、昨日のように覚えている。スタート10分前に6時間も走っていたらおなかがすくと走る前におにぎりを食べはじめた。むしゃむしゃ食べながら

「私がゴールするまで待っていてくれます?」

「もちろん待っているよ。」

「ゴールしたらおいしいもの食べに行きません?」

「いや、フルマラソン走ったらきつくておなかなんかすかないから。」

「そういうものですか?」

「完走できたら、なんでも好きなものご馳走してあげるよ。」

「本当ですか?よし!がんばろう!」

「食べることしか考えていないの?」

そんな会話でスタートした。走り始まったら走るスピードがさすがに彼女とは違うので、彼女を置いて自分のペースで走りだした。


 走りながらも自分のことよりも彼女のことが気になった。普段練習していたのでおおよそのスピードは見当がつく。私もこのペースで走るようにと指導した。42.195kmを最後まで完走できて、なおかつ途中関門で引っかからないペースを・・・私がいうペースを守って走っているだろうか?


 飽きっぽい性格だから途中で投げ出してしまうのではないかな?と気になった。こんなに気になるのだったら、今日のレースは彼女についていてあげればよかった。と後悔する。私はいつもの通りの時間でゴールをした。まだしばらくは彼女がゴールできるわけはないので、ゆっくり着替えをして、ストレッチをしたりしながら2時間以上も待った。


 ゴールできるとしたら6時間ぎりぎりだ。彼女のゴールを待っていた。時計を見るともうすぐ6時間・・・どうやらタイムアウトで送迎バス帰ってくることになりそうですね。ところが最後の最後制限時間ぎりぎりでゴールの陸上競技場に入ってきた。走りはのろいが笑顔だ。タイムは5時間59分・・・・。


ゴールで私がいるのを見つけると

「やった~~完走した!」

といってウォンウォン泣きながら私に抱きついてきた。3か月でよくまあここまで頑張った。約束通り食事に行った。彼女は好きなものをたらふく食べていた。それから交際が始まった。そうなると話はどんどんまとまっていく。結婚式を挙げてそしてすぐ男の子が生まれた私は幸せだ。この幸せを私は失いたくない。


今日も1歳の息子と3人川の字で寝る。布団に入ってから私は妻に話しかけた。

「まだ起きている?」

「ええ起きているわよ。」

「なあ?ちょっと話してもいいか?」

車に乗って出ていったのに歩いて帰って来たのだから、話さないわけにははいかない。それに心配かけるのは嫌だったので妻に今日の出来事を話すことにした。

「そうなの?どういうことなのかな?ねえ?ぶつかったの人じゃなかったとか?」

人じゃなかったのかもしれない・・・・例えばどこからか洗濯物が飛んできてフロントガラスに巻き付いたとか・・・そんなわけはない。

「人じゃないとすると動物じゃないかな?」

「いや、紫色の服を着ていた。」

「じゃあ、人だとするとなんでその場を立ち去ったの?」

「横断歩道を飛び出すくらいだから急いでいたってことかな?」


 妻はなにやら推理小説の謎ときでもするかのように面白半分で聞いてくる。全く人の気も知らないでまあ昔からそんな無神経なところがあるが、そんなところもふくめて彼女を愛して妻にしたのだからいまさら言っても仕方がない。

「ところでどの辺なの?その事故が起こしたの?」

「え~とねえ・・・」

私が場所を説明すると・・・

「えっ??幽霊伝説の場所じゃない。」

「なんだよ、幽霊伝説って?」

「最近じゃあ話題よ。なんか夜の7時になるとあそこに幽霊が出るのよ。この前近所のおばさんたちが話していた。」

「幽霊が出るのか?」

「そうみたい・・・そう、つまりあなたは幽霊をはねたのよ。」

「何を言っているんだよ。脅かすなよ。」

そういえば、妻には話していなかったが警官が妙なこと言っていたバラの花びらが見つかった時、幽霊がその花束を持っていたとか?」

気味の悪い話を聞いてしまった。しかし妻に話したことで少しだけ胸のつかえがなくなり眠りについた。


 そうたとえどんなことになっても妻だけは私の味方だ。



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