第95章「深層雪山で爆死!? 雪と魔境のハーモニー」
「大河の底でも爆死したって? まあ、些細な失敗だろう。輪廻に囚われている限り、俺は何度死んでもなぜか生きてるんだ。このまま怠けて過ごすのも性に合わん。次は……そうだ、深層雪山だよ。行き方すら怪しいあの『白銀の魔境』をビジネスにすれば、皆が大金を出すに決まってる。なんたって、極寒と魔物と幻雪が混在する未開の地だろ? 絶対に儲かる!」
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いつものように、焦げ跡の残る王都外縁の空き地で、黒峰銭丸は懲りずに大言壮語を放っていた。その背後には、見慣れた仲間——水無瀬ひかり、バルド、メルティナの三人。何度同じパターンで爆死を迎えてきたか分からないが、今度は“雪山”を舞台に新規ビジネスを打ち立てるというのだ。
「深層雪山って、あの地図の果てにある氷寒地帯ですか? 以前にも氷雪王国とか挑んで爆死したのに、まだ雪をやるんです?」
ひかりが呆れ声で問いかける。銭丸は鼻で笑い、胸を張る。
「単なる氷雪王国とは違うさ。あそこは中途半端だったろ? 今度は氷の魔境、“白銀の谷”や“吹雪の回廊”が点在する本当の秘境を狙うんだ。そこに眠る魔鉱石や希少生物、あるいは伝説の氷の聖霊がいると噂されてる。いっそ雪山をまるごと観光と採掘拠点にすれば、大儲けは確実だろ? 爆死? そろそろ卒業させてくれよ!」
バルドは低くつぶやく。「毎度毎度、それを言って最後は爆死だろう……」
メルティナは「極寒エリアを大規模に開発するって、またインフラや魔導炉を大量に投入しなきゃいけないですよね。氷爆発や吹雪の暴走が何度も起きるのは目に見えてるのに……」と苦々しい顔で警告する。しかし、銭丸は「そんなネガティブ思考じゃ発展はないさ」と押し切る形だ。
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こうして始まる深層雪山計画。銭丸はまず裏ギルドや闇金、さらには前回まで騙された投資家からも、なぜか資金をかき集め、「氷と魔の白銀地帯を切り拓く」という目的で大規模遠征隊を編成する。そこには冒険者や雪山向けの職人、加えて観光案内人や採掘専門チームまで混じっている。
狙いは、雪山内部にあるという**“氷晶ダンジョン”**を掘り進み、希少魔鉱石や聖霊の涙などを回収し、同時に観光ルートとして整備して“一攫千金”を図ること。ひかりは「まるでダンジョン探検と資源採掘を同時にやるなんて無謀すぎる」と頭を抱えるが、銭丸は「同時にやるから儲かるんだろ!」とまるで聞かない。
バルドは護衛隊を率いて先行し、雪山の入り口をチェックする。猛吹雪や氷の崖、雪崩の危険が満載の地形を見て、彼は「こんな場所、まともに開発できるとは思えんが……」とため息。メルティナが魔導装置で一時的な吹雪を緩和しようとするが、それには膨大な魔力が要り、安定するかどうかは未知数という。有り合わせの材料で作った魔法ヒーターや雪山移動機が信頼できるはずもない。
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それでも強行するのが銭丸の常道。大勢を集めて“深層雪山ツアー”を開催し、冒険者と観光客を同じ馬車隊に押し込み、いざ白銀の地帯へ進軍する。最初の一、二日はわりと順調で、珍しい氷の景色や雪のモンスターなどが見られ、客は沸き立つ。黒峰銭丸が「ほら、すごいだろ?」と得意顔になれば、ひかりもちょっとだけ安心しかける。
しかし、それも束の間。雪山の奥へ向かうほど天候が荒れ、魔獣の出現確率が跳ね上がる。バルドが剣を抜いて雪狼や氷ゴーレムを撃退するが、犠牲者が少なくない。メルティナは「これ以上進むべきではない」と警告するが、銭丸は「獲物は最深部にあるんだ!」と言って金の匂いに目をくらませる。
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夜になり、拠点となるキャンプを張る。だが、吹雪が止む気配はなく、さらに何かの氷霊らしき影がうろつきはじめているとの報告が来る。冒険者たちのあいだで不穏な噂が広がる。「雪山の奥には古い神殿があって、そこに眠る氷の守護者が侵入者を狙うんだ」と。
バルドは警戒を強めるが、銭丸は「神殿とやらを見つければ宝があるかもしれんじゃないか!」とむしろテンションを高め、翌朝早くから隊を引き連れてさらに奥地を目指す。ひかりは心底嫌な顔で「まただ……」と呟き、メルティナは手持ちの魔導計器を見て「魔力反応が異様に強い」と震えている。
案の定、しばらく進むと巨大な氷の裂け目に差し掛かり、その下に怪しげな空洞が見える。どうやらそこがダンジョンの入り口らしいが、積雪や氷柱が崩れやすい状態で危険すぎる。銭丸はそれを無視し、「行くぞ!」と強引に踏み込む形。
踏み出した瞬間から、棚氷がバリンという音を立てて崩れ、足元から滑落者が続出。バルドが隊をまとめようとするが、あちこちで氷のゴーレムが姿を現し、メルティナが火や雷の魔法で応戦する一方、冒険者たちが散り散りになる。地面が見えないほどの吹雪が一気に視界を奪い始める。
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結局、銭丸は強行突破で氷の裂け目を下り、自然の氷穴に突入するが、そこに存在するのはかつて誰かが祭ったような古代神殿の残骸。しかも雪と氷に覆われていて、内部には冷気を操る魔物がうごめいている。現場はすでに修羅場だ。ひかりやバルドが援護するが、視界は最悪。
最終的に、氷の祭壇で“鍵らしきもの”を見つけた銭丸が、それを雑に引き抜くと、一気に氷結の呪いが暴走し、まるで周囲一帯が凍り付くように気温が急降下。おまけに吹雪が狂風へと変わり、足元の氷が割れてデカいクレバス(氷の割れ目)が生まれる。冒険者たちの悲鳴がこだまする中、銭丸は「あわわ……」と言いながらもしがみつくが、最後には氷の塊に足を取られる。
そして、いつものように最後の言葉が漏れる。「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。深層雪山は……爆死ッ……!!」
急激な崩落と猛烈な雪崩が合わせ技で猛攻し、そこに吹き付ける魔力が誘爆してか、ダンジョン内部で大規模氷爆発が起こる。鈍い轟音が神殿奥から響き渡り、地形そのものが崩れ、冒険者や銭丸もろとも白銀の塵に呑まれて消える。上方にいた隊も「うわああっ……!」と雪と氷に巻き込まれ、地上からは大きな雪煙が何度も舞い上がるのが見えるだけだ。
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翌日、捜索隊を組んだバルドやメルティナは何とか崩落地点から脱出し、ひかりもかろうじて軽傷で済んだが、黒峰銭丸の姿は見当たらない。大規模な雪崩と氷爆破が広い範囲を飲み込んでおり、誰も彼の生還など想像しないが、毎度のように「あの男だからな……」という苦笑が漏れる。
こうして“深層雪山とダンジョンを融合した観光・冒険・採掘ビジネス”は、一瞬のきらめきにすらならず、短時間で悲劇の大崩壊を招き、また一度銭丸は姿を消した。王都へ報せが届けば、「もう勝手にしろ……」と呆れかえる声が多い。
死んでも生き返るループから抜けられない——そんな宿命を背負った銭丸が、今度こそ超えられたはずもなく、やはり白銀の災厄に沈んだのである。
王都の人々が「また山ひとつ崩してしまったか」「雪山にまで手を出すとは……」と談笑まじりに恐れを抱きつつ、いつもの閉塞感に包まれる。誰もが同じ思考回路に陥る——あの男は本当に亡くなったのか、それとも次の無理矢理な再生でまた何か始めるのか。
結局、深層雪山の奥深くに、その男が掘り抜こうとしたダンジョンは崩れ去り、静かな雪だけが音もなく降り積もる。まるでこれまで起こった全てをひっそり隠すように。もしそこに残るのが何かの奇跡なら、どうせ“爆死ループ”を繰り返すだけなのだろう——王都ではそう苦い評が囁かれるばかりだった。




