第90章「奇跡の逆襲!? 歴史総ざらいで爆死への道」
「くそっ……今まで何度死んだと思う? ふざけやがって……確か八十九回は爆死したはずなんだが、なぜだかこうしてまた生き延びちまってる。どうせなら今度こそ“爆死の輪廻”から完全に抜け出してやるさ!」
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王都郊外に広がる焼け跡だらけの区画。その中心に立つのは、誰あろう黒峰銭丸。どれだけ多くの大プロジェクトを暴走させ、どれだけ壮大な火柱に巻き込まれようと、なぜか毎度ひょっこりと生還を果たしてきた男だ。彼は爛々とした目で周囲を見回し、口元を歪めて笑う。
その視線の先には、あきれ顔を隠さず佇む三人の仲間がいた。これまで嫌というほど同じ爆死ループを見てきた水無瀬ひかり、バルド、そしてメルティナ。三人とも「今回の銭丸が何をしでかすのか」と既に頭を抱えている。
「今度の企画は“歴史総ざらい”さ。これまで俺が手を出して爆死してきた海底リゾートも宇宙樹も電脳楽園も、全部ひっくるめて再現してみせる。それをテーマパーク化して過去の栄光……いや、過去の大失敗をまとめて金に変えるってわけだ!」
銭丸が高らかに叫ぶと、バルドが苦い顔をして首を横に振る。
「またそんな正気でない計画を……。前にも“オールスター天変地異”とやらで失敗してたろ?」
「同じようで違うんだよ、バルド。今回は“テーマパーク”じゃなく、“歴史記念館”でもなく……全部を並べて次こそは大成功する仕掛けを組み込むんだよ。さあ、行くぞ。いつまで爆死ループが続くと思う? ここで奇跡の逆襲を起こすんだ!」
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計画の概要はこうだ。王都郊外の広大な更地に、過去のプロジェクトをひとつひとつ再現したブースを作る。海底リゾートのミニチュアや、竜の秘境の展示、神の玉座や宇宙樹の断片、電脳空間の端末や輪廻関係の装置……それらを一斉につなぎ、来場者が“銭丸の爆死履歴”をまとめて体験できる“歴史総ざらいパーク”を作ろうというのだ。
水無瀬ひかりは資料を読み込みながら、「また全失敗の要素を集めてるように見えますが、装置が勝手に反応して暴走するパターンにならないですか?」と鋭く突っ込む。銭丸は「いやいや、だからこそ新規の安全装置を加えたから大丈夫だ」と楽観視するが、メルティナがその“安全装置”を見てもすでにため息を漏らしている。
「これ、どこから拾ってきたのか分からない部品ばっかり……星霊術やら死霊術やら竜の封印術やら、全部が入り混じって、むしろ危険度が倍増してます。何度指摘しても同じ……」
銭丸は「学んだんだよ。いままで一つずつ使って爆死したから、まとめて使えば逆に中和されるだろ?」と謎理論を振りかざすが、三人の表情は心底暗い。
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それでも工事は強行され、あっという間に**“爆死歴史パーク”**が骨格を現す。バルドが警備を敷く中、様々なブースが設置される。海底ビジネスを模したプール、竜の秘境の模造岩、神の玉座のレプリカ、電脳サーバーの旧バージョン、輪廻皇帝の祭壇、愛の大帝国の結婚式セット……。
そこへ遊びに来た王都の人々は「これは面白い。あの銭丸がやらかした案件を全部まとめるなんて!」と興味津々になり、闇商人や貴族が「また彼に投資したらどうなる?」と半ば茶化すように見学に来る。銭丸はそれを「ほら、成功の兆し!」と宣伝し、ひかりがひたすら警戒を叫んでも、聞く耳を持たない。
計画では、最後に“銭丸自身が爆死ループを断ち切る儀式”を行う。すべてのブースを順番に回り、自分が過去に犯した大失敗を再体験しつつ、最終的に中央ステージで「今度こそ死なない俺」をみんなに見せつけるというシナリオらしい。「歴史を乗り越える奇跡の逆襲」を売り物に、客からチケット代を巻き上げる魂胆だ。
メルティナは「自分で爆死の過去をさらし、そこを商売にするなんて……」と呆れながらも、見るだけの客なら無害かもしれないと考えていた。ところが銭丸の真の狙いは、その「最終儀式」で“各ブースに残るエネルギー”を集結させ、一気に大きな魔力に転換して自己改造しようという、よく分からない新手の暴挙にあるのだ。
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迎えたグランドオープンの日、予想以上に観客が押し寄せた。広場には「竜騎士体験ブース」や「電脳VR再現ブース」、「爆死シーン再現ホログラム」など、明らかに危険そうな展示もあるのに人だかりが絶えない。
銭丸は舞台上で「今日はみなさんに、俺がいかに死んでも生き返ってきたかを全部お見せしようと思う。そして最後は奇跡の逆襲で、もう爆死なんかしない自分を証明するんだ!」と宣言。バルドはすでに嫌な汗が額ににじみ、ひかりは「まただ……同じ流れ」と呆れ、メルティナが中央制御装置を睨みながら「何とか最小限に抑えたい」と気を張る。
イベントが始まると、客は各ブースを回って爆死の歴史を知り、感嘆や爆笑を交えつつ楽しんでいる。竜の秘境ブースでは小規模な火や罠が仕掛けられ、海底プールブースでは巨大な泡が噴き上がるなど、一見ただの遊園地のような雰囲気。
しかし、予想通り各ブースが絶妙に干渉し始め、複数の装置が電脳サーバーから謎のデータを吐き、竜型ホログラムが神の玉座のブースとリンクしてバグを起こすなど、ちぐはぐなエラーが多発。メルティナが必死に抑え込むが客が多すぎて収拾がつかない。
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そして終盤、銭丸の“最終儀式”が始まる。舞台に設置された大きな魔導パネルに、各ブースのエネルギーが一斉に転送される仕掛けだ。海底ブースからは水属性魔力、竜ブースからは火や風の力、電脳ブースからはデータ量が流れ込み、輪廻ブースの死霊気配まで加わる。
見る見るうちにパネルが赤熱化し、ビリビリと火花が散り始める。バルドが「もう止めろ!」と叫んでも、銭丸は「ここからが逆襲だ!」と意地になってスイッチを押し込む。ひかりが青ざめ、「もう終わりだ……」と沈んだ声を漏らす。
果たして装置は限界を突破し、一斉にエラー音が鳴ってスクリーンが真っ赤になる。マジで“今までの失敗エネルギーすべて”が混ざり合ったような状態になり、客が悲鳴を上げて逃げ始める中、銭丸は唯一前を向いて強がりを見せる。「いや、俺は今度こそ死な……」
その瞬間、猛烈な爆発音が響き、無数のブースが同時に誘爆。海底ブースの水柱が竜ブースの火柱とぶつかり、神の玉座レプリカが崩れて電脳ブースを砕く。輪廻コーナーが相乗りして霊気を撒き散らし、一気に半径数十メートルがカオスの爆炎に包まれた。
銭丸はいつも通り爆心地にいて、最後に口を開く。「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。オールスター逆襲は……爆死ッ……!!」
ド派手な大火柱が天へ伸び、全ブースの装置が一気に火薬庫さながら連鎖炎上し、観客は悲鳴とともに四散。バルドやひかり、メルティナも吹き飛ばされながら辛うじて脱出を図るが、銭丸は例によってその場で炎と闇に呑み込まれ姿を消す。最終的に広場ごと盛大なキノコ雲が立ち上り、轟音が王都を震え上がらせた。
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翌朝、そこにはクレーターと瓦礫しか残らず、すでに何度も見慣れた風景が広がるだけだ。死人や行方不明者の数を数える兵士たちの間では「あれほど派手にブースが壊れたんじゃ、生き残れるわけがない」と言い合うが、同時に「だが、あの男だから……」とも口にする。結局これまで通り、銭丸の死体は見つからない。
こうして「過去の爆死全部を再利用して大逆転」という壮大な企みも、またしても大失敗に終わり、いつものパターンで瓦礫と黒煙を残して終わる。まさに“奇跡の逆襲”どころか“奇跡の安定爆死”だ、と人々は乾いた笑いを交わす。
これほど大規模な連鎖爆発を起こしても銭丸は見当たらず、「さすがに今度こそ……」という声がいつものように広がるが、それでも「懲りずに戻ってくるに違いない」と語る人は多い。何度輪廻の果てに挑んでも、どれだけ過去の失敗を総動員しても、最後は爆散し続けるのが黒峰銭丸の宿命だからだ。
こうして“歴史総ざらい”を題した最後の大見得も大爆笑……ではなく大爆破をもって終幕。しかし本当に終わったのか、正直誰にも分からない。王都の人々は、いつものように背を向けて残骸を眺め、ため息と共に「もしも、また……」と苦々しい噂を交わすほかに手段はなかった。




