表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/81

第9章「空中広告で天を掴め! 貴族の出資と炎上飛行船」

初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

 花火ショーを爆発オチで締めくくってから数日。


 黒峰銭丸は、いつものように路地裏の片隅で目を覚ました。

 焦げ跡と煤だらけの服に包帯。財布の中には、焼け残った銅貨が数枚のみ。自称「異世界の起業家」も、そろそろ無一文に近づきつつあった。


「カネは裏切らない。女はたまに裏切る。花火は……爆死!!」


 そう呟きながら、彼はゆっくりと立ち上がった。


 借金と賠償で首が回らなくなっている今、新たな商売を始めるにも資本が足りない。

 にもかかわらず、銭丸の頭にはすでに新しいアイデアが浮かんでいた。


「見上げてみろ、空をよ。地上がダメなら、空があるだろ……!」



 空中広告。


 それは、空に浮かぶ乗り物の船体に広告を描き、町の上空を飛ばして人々の目を引くビジネスだった。

 浮かぶ看板、空飛ぶセール情報――派手で目立つうえ、広範囲に訴求できる。


「問題は資金と飛行船の調達だよな……」


 頭を抱えながら、銭丸が思い浮かべたのは、貴族令嬢・ソフィア・リュミエールの顔だった。

 これまで何度も巻き込んでしまっているが、彼女ほどのコネと資金力があれば、この計画を実現できるかもしれない。



「……また、あなたですの?」


 屋敷の応接間に案内された銭丸を前に、ソフィアはややげんなりした表情でお茶を置いた。


「ご無沙汰してます! 今回はちゃんと……いや、前よりはマシな話を持ってきました!」


「そういう前置きのときは、だいたい碌でもない案件なんですけど……で、今回は何を爆発させるつもりですの?」


「爆発はしない! たぶん!」


 ソフィアがため息をつくなか、銭丸は立ち上がって声を張った。


「空です! 空に飛行船を浮かべて、その船体に広告を出すんです! 空中を漂う宣伝塔、想像してみてくださいよ!」


「……空中に……広告?」


「そう! 例えば“リュミエール雑貨店・秋のセール開催中”なんて書かれた布を掲げて飛べば、街中の人が見上げて話題にしますよ!」


 銭丸の説明に、ソフィアの眉がぴくりと動いた。


「……なるほど。それは……案外、悪くないかもしれませんわね」


「でしょでしょ!? 問題は初期費用なんですけど、旧式の飛行船を安く譲ってくれるツテがあって、それを整備して――」


「要するに、またお金を貸してほしいってことですのね?」


「ぐっ……ええ。正直に言うと、はい……!」


 銭丸が頭を下げると、ソフィアは腕を組んでしばらく考え込んだ。

 その姿はいつも通り冷静で、気品と現実感を兼ね備えている。


「……分かりました。ですが、今回は私も計画に関わらせていただきます。出資する以上、報告・連絡・相談は必須ですわよ」


「もちろん! ソフィア様の名を広める機会でもありますから!」


「……何だか、罠に嵌まっている気がしますわ」


 苦笑しつつも、ソフィアは出資を承諾してくれた。



 数日後、郊外の整備場にて、銭丸たちは手に入れた旧式の小型飛行船の整備を始めていた。

 バルドとメルティナも作業に加わり、魔導エンジンを点検し、帆を張り直し、船体に広告幕を取り付ける。


「リュミエール雑貨店 秋の大感謝セール!」


「……もうちょっと上品な書体にはできなかったのかしら」


「親しみやすさって大事なんですよ!」


 銭丸はペンキまみれになりながら、仕上げのチェックに余念がない。

 魔導石の浮力調整も完了し、ようやく飛行準備が整った。


「よーし、上げるぞ!」


 ロープが外され、飛行船がゆっくりと空へ浮かぶ。

 町の人々が驚きの声を上げ、上空を見上げる。


「なんだあれ……飛んでるぞ!」「広告!? すげぇ!」


 人目を引く効果は抜群だった。


「へへっ、見ろよソフィア! 大成功じゃねえか!」


「まだ、これで終わったわけではありませんわよ。許可の件はどうなっているのですか?」


「えっ……許可?」


「空中を航行するには、領主の許可が必要でしょう?」


「……ま、まだ取ってません……」


 ソフィアが額を押さえ、深いため息をついた。



 その日のうちに、領主から「即時中止」の通達が届いた。

 理由は“未許可の空中飛行による治安・安全上の懸念”。つまり、勝手に空を飛ぶな、という話だ。


「ちくしょう……でも、あと一回だけ飛ばせてくれ!」


 銭丸は無理を押し通し、次の市の日に再度出航を強行する。

 今回はさらに複数の店舗広告を張り、魔導紙のチラシを空から撒くという力技まで準備していた。


「見てろよ、空から広告攻勢だ!」


「……ほんとに大丈夫かしら……」


 ソフィアの不安が的中するのに、時間はかからなかった。



 飛行船が市場上空に差しかかったそのとき、下から狼煙が上がり、衛兵たちが警告を叫び出す。


「上空にて航行中の飛行船に告ぐ! 直ちに着陸せよ!」


「無視だ無視! いける、まだ……!」


 銭丸が強引に高度を上げたその瞬間、領主側の魔弓隊から放たれた火矢が船体を直撃。

 帆に火が付き、魔導エンジンが異常反応を起こす。


「やべえ……制御不能!? おいソフィア、掴まってろ!!」


 飛行船が傾き、悲鳴とともにチラシが空へ舞う。

 直後、魔導石が過熱して爆ぜ、飛行船は市場の空で豪快に火を噴いた。


 ドォォン!!!


 白昼の空に火の玉が上がり、町中が騒然となった。

 下では観客が逃げ惑い、露店のテントが吹き飛び、銭丸は空から真っ逆さまに墜落していく。


「カネは……裏切らない……女は……たまに裏切る……飛行船は……爆死っ!!」


 そして、地面に激突した。



 その後、銭丸はなぜかまた奇跡的に生きていた。

 空中広告ビジネスは一時的に注目を浴びたものの、町の規定を無視したことにより“危険人物”認定を受け、罰金・損害賠償・飛行禁止令が一気に押し寄せた。


「まったく……今度こそ本気で破産ですわね」


 ソフィアはため息をつきながらも、また銭丸の寝ている病室に来ていた。

 手には“次の広告構想”が描かれたメモが握られているのを見て、彼女はそっと目を伏せる。


「……ほんと、どうしようもない人……」

挿絵(By みてみん)

読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ