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第89章「輪廻の果てを抜けろ!? 死と生を超える究極ビジネス」

 「いつだって死んで生き返って、もう八十八回は爆死してきたらしい。正直、自分でも驚きだが、やっぱり俺の人生は金と女と爆死にまみれているんだな……。だが、何度死んだって俺はなぜかこうして立っている。ならば、この“爆死の輪廻”から本当に抜け出す術は、まだほかにあるかもしれない。そうだ……まだ俺は“死と生そのもの”を商品にしてなかったはずだろ?」



 王都の片隅にある、黒く焦げた廃墟の前。何十回目か分からないほどの大破壊を経ても、しぶとく生き残ってしまった黒峰銭丸は、また新たな計画を口にしていた。隣には、やはりいつもの三人――水無瀬ひかり、バルド、メルティナ。誰もが疲れ切った表情を隠せないまま、彼の無謀な宣言を聞き流している。


 「死と生を商品にするって……また馬鹿げたことを言ってるんじゃないですか? 生と死の輪廻自体をねじ曲げるなんて、前にも輪廻の皇帝とかいう無茶をやって爆死したばっかりなのに……」

 ひかりが呆れ気味に指摘すると、銭丸は苦笑混じりに首を振る。


 「輪廻を支配しようとした時は、力任せに世界をねじ伏せようとして失敗した。しかし、輪廻を“商品”にすれば話は別だ。つまり、生と死を自由に体験できる“二度体験”ビジネスを打ち立てれば、俺の永遠の死活問題も、金の問題も解決できるに違いない。爆死したって、一度死んでも戻れるのが当たり前の世の中にすればいいんだよ!」


 バルドは眉をひそめ、「聞いてるだけで危険な匂いしかしない……。生死を体験するとか、どんな方法を取るつもりなんだ?」と問うが、銭丸は胸を張って答えを急がない。

 メルティナが「輪廻に手を出すには、また死霊術や霊界ゲートを使わなきゃいけないし、前に全部失敗してるじゃないですか」と呆れると、銭丸はまた笑って応じる。「それがビジネスってもんだろ? 前に失敗したからって、同じやり方が通じないとは限らない。今回は“死の体験ツアー”を組み込み、さらに生者を仮死状態にして霊界を覗かせるんだ。成功すれば、爆死なんて怖がらなくて済む世の中が作れるってわけさ!」



 こうして動き出すのが「死と生を超える究極ビジネス」の名前を冠した計画。銭丸は王都の再々再開発許可をどこからか取りつけ、地底にある旧カタコンベや封印跡、さらには上層で使い残した電脳装置などを総動員する。そこで“死の体験ツアー”を催し、参加者の身体を仮死に近い状態へ誘導し、同時に霊界回路を開いてあの世を覗き見させる……という相当アブない仕掛けを作り上げるという。

 装置の核心部にはいつものように過去のプロジェクトの失敗作――神の玉座のかけら、愛の結晶、星霊術のごみ、電脳サーバーの破片などが、ジャンクのように詰め込まれている。バルドが「これ、ただの“爆死装置”にしか見えんが……」と渋面をつくり、メルティナは「あらゆる負の要素が混じってる。絶対にやばい」と警告するが、銭丸は「やばいからこそ儲かる」と強弁を続ける。



 準備が整うと、銭丸は王都の人々に向けた宣伝を始める。「死ぬ直前の体験を安全に味わえ、かつ生還できる! 死後の世界を覗ける革命的ツアー!」という文句に惹かれた冒険者や闇商人、果ては余命わずかと診断された富豪など、好奇心旺盛な連中が続々と集結する。

 ひかりは心配しっぱなしでもう胃が痛い様子だが、「どうせ止めても無理」と半ばあきらめ気味。バルドは再三にわたり施設の安全を強化するが、複雑な装置がどうにもうさんくさい。メルティナが最後に点検し、「これは死霊術+電脳術+神玉座断片のハイブリッドとか、前代未聞すぎる。絶対暴走する」とこぼす。


 とはいえ、当日になると、相変わらず目新しいもの好きの王都民が会場に集まって、「死にかけて蘇る感覚を味わいたい」などという理解不能な理由で列を成す。銭丸はにこやかに迎え、「さあ、今回こそ死なずに済む世界を作り上げるんだ。俺が爆死ループを抜け出す一手を皆で体験しよう!」とやる気をみなぎらせている。周囲はいつものように暗い予感が漂うが、もはや誰も止められない。



 儀式あるいはアトラクションの開始時、客たちは一斉に装置に接続され、仮死に近い低体温と深い眠りへ誘われる形となる。同時に、霊界回路が起動し、メルティナがいくつもの封印を解いて亡者の門を開く。そこに電脳式の制御台や神の玉座のかけらが加わり、複雑な魔力回路が「死者の世界」を投影するかのように錯覚的な映像や幻聴を生成する。

 最初はただの怪奇体験のはずが、徐々に負荷が増大し、死霊や悪霊の実体化まで起こり始める。バルドが「嫌な予感しかしねえ」と言いながら客を保護しようとするが、事態は早々に制御不能に向かう。


 銭丸は「落ち着け、ここからが本番だ」と制御パネルにかじりつき、過去の爆死経験を総動員して“緊急処理”を行う。おそらく、体が覚えたノウハウで、いつもならとっくに爆死しているところを何とか踏み止まらせようという魂胆だ。メルティナが「まだ耐えられますよ、今のうちに停止を!」と叫ぶが、銭丸は「ダメだ、ここで完遂させなきゃ同じだろう」と停止を拒む。



 最終的に装置が死者の魂と生者の意識、さらには電脳データ、神玉座の残滓と星霊術……すべてを混ぜ合わせてしまった結果、もはや何が何だか分からないほどカオスなエネルギーが生成される。地面が震え、暗い空気が施設内を覆い、あちこちに歪んだ霊界の映像やデータの文字列が浮かび、客が錯乱状態で悲鳴を上げる。

 バルドは「もう手が付けられん……」と嘆息しつつ、最後まで銭丸を捉えようとするが、爆心地にいる彼は「あとちょっとだ……俺が輪廻も死霊も全部支配して、爆死から解放される」と、歯を食いしばり魔力を上書きしようとしている。


 だが、それまでの流れを鑑みればオチは決まっている。止まらないほどエネルギーが高まり、大量の死者と生者の思念が乱舞し、装置が赤熱化して悲鳴を上げる。メルティナは「限界です! 爆心がもう数秒で弾け飛ぶ!」と叫び、ひかりが半ば絶望して「また……」と声を呑みこむ。

 銭丸は最後の悪あがきでパネルを叩くが、一切反応はなく、視線の先で渦巻く暗黒が炎を吹き上げる。そこに合わせるように、いつものフレーズが口から漏れる。


 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。輪廻を超えて……爆死ッ……!!」



 大爆発が起こる。今まで見てきたすべての爆発を凝縮したかのような衝撃波と光が炸裂し、一瞬にして建造物全体が崩壊。激しい轟音があたりを覆い、地面から吹き上がる炎と亡者の嘆きが混ざり合い、凄まじいカオスの渦が街の一部を巻き込む形で破壊の限りを尽くす。死霊も生霊も入り混じり、火柱が空を染めている。

 翌朝、そこにはいつものようにクレーターと焼け残った残骸しかない。言うまでもなく、銭丸の姿はなし。多くの客や作業員が行方不明で、巻き添えを食らった周辺住民が苦しげに肩を落としている。王都の人々はまたかと呆れるが、「これだけ凄い爆発なら、今度こそ……」と口にする者も多い。

 しかし同時に、ここまで数多くの“爆死”を繰り返してなお、銭丸は毎度のように復活してきたのも事実だ。果たして本当に彼が死んだのか、それとも次こそは“輪廻の果て”を超えてまた戻ってくるのか。半ば笑い話になりつつも、多くは「もういい加減にしてくれ」とため息をつくのが常であった。


 結局、“死と生をビジネスにする”という最後の壮大なアトラクションすら、いつものように大爆死を起こして幕を下ろす結果となる。どこまで行こうが、どんな力を駆使しようが、最後に待つのはやはり――同じ破滅の瞬間。

 こうしてまたひとつ、黒峰銭丸の大事業が焼却炉の灰へと変わり、多くの犠牲を伴って王都史に刻まれる。繰り返される輪廻の中、それすらもまた次の“爆死”へ繋がるステップなのかもしれない……誰もがそんな嫌な予感を拭えないまま、空っぽの廃墟を見つめ続けるしかなかった。

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