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第85章「愛の大帝国で爆死!? 最後のロマンスが招く破滅」

 「世界の終焉だの神の玉座だの、ありとあらゆる大企画をやって爆死してきたが、まだ“愛”の領域をちゃんと商売にしてなかったよな? この俺、黒峰銭丸は、金と女には目がないって散々言われてきたが、ならば――この世のすべての“愛”を取り込んで、“愛の大帝国”を築けば、金も女も裏切らない究極の楽園が作れるんじゃないか? 今度こそ爆死から脱出できるに違いねえ!」



 王都郊外の廃墟じみた広場。何度となく炎と爆風が走り、瓦礫と化した場所の隅で、またしても黒峰銭丸は大真面目に(あるいは脳天気に)新企画をブチ上げていた。周囲には常のごとく、水無瀬ひかり、バルド、メルティナの三人がそろい、各々疲れたような眼差しを向けている。もう八十数回めの“爆死”を見届けたあとというのに、この男は懲りずにまた狂気の提案をしているわけだ。


 「愛の大帝国……って、それはいったい何をするんですか。恋愛相談でもやるつもり? マッチングサービス? それとも結婚式ビジネスかしら。まさか、世界中の愛を独占するわけでもないでしょう?」

 ひかりは呆れを隠せないまま紙束に目を落とす。そこには銭丸が書きなぐった「愛の力を融合して不滅のユートピア」「金と愛が両立する大帝国」といった文字が並び、読み返すほど頭が痛くなる。


 「全部だよ、全部! 恋愛も結婚も式典も、それに親子の情や友情、あらゆる“愛”ってやつを経済活動に変えて、一つの大帝国を作るんだよ。そしたら誰もが幸せで、俺も儲かる。爆死みたいな不幸はきっと消えるはずだ!」

 銭丸は胸を張るが、バルドが横で「どうせまた大惨事になるだろ……」と重苦しくつぶやき、メルティナが「“愛”のエネルギーを束ねるとか、一歩間違うと狂乱や嫉妬の負の感情が噴き出して危ない予感しかしません」と警戒する。しかし銭丸は「そんなの気にしてたら商人はやってられん!」と相変わらず楽観しか見せない。



 こうして「愛の大帝国プロジェクト」が動き出す。銭丸は大工事をするほどの資金も残っていないが、王都に残るわずかな資金と闇金を引っ張り、仲介してくれる裏ギルドとも手を組む。どんな手を使ってでも、人々の“愛”を集め、そこから魔導的なパワーや経済効果を生む計画だ。

 まず、王都中心部の廃れた貴族館を買い取り、“愛の宮殿”と名付けて改装に取りかかる。内装を派手なピンクや白のファブリックで飾り、聖堂風の結婚式場も設置、さらには子供用の保育施設や恋人向けの個室、果ては怪しげな「恋の秘術コーナー」まで取り揃える。ひかりが資料を見て「これ、なんでもアリですね……」とため息をつくが、銭丸は「それがいいんだよ。あらゆる愛を受け止める帝国さ!」と言ってはばからない。


 さらに、メルティナが“愛の結晶”なる魔導レンズを開発し、人々が愛を語るときに出る微かなエネルギーを集積するシステムを導入。そうやって“愛の力”を魔力に変えて、一ヶ所にプールする仕掛けだという。理屈の上では、あらゆる人間の愛から生まれる“正の感情”を集められれば、爆死なんて起こさない大きな安定を得られるとか、銭丸は根拠の薄い自信を語る。バルドは「そんなもの、本当に安全か?」と疑うが、誰も止められない。



 初期の客入りは意外に好調だった。結婚式場として斬新な演出ができる、育児相談や恋愛セミナーがまとまって受けられる、さらには友愛や慈善活動をサポートするNPO的ブースも設置され、王都の市民がそれなりに訪れる。

 そのたびに“愛の結晶”が微弱だが安定した魔力を生み出しているようで、メルティナは「思ったより悪くないかも……」と複雑な表情。ひかりも「これ、爆死しないで済むのでは?」と一瞬思ったが、やはりバルドが「何か妙に落ち着かなすぎる……」と漠然とした不安を抱え続ける。


 問題は、愛と対極を成す“憎悪”や“嫉妬”といった感情をどう扱うか。銭丸は「それらは集めないから関係ない」と楽観視するが、人間の愛には常に影がつきまとうのは世の常。結婚式場では破談や三角関係のごたごたが起こり、保育施設でも育児ノイローゼの保護者が涙ながらに叫ぶ場面が出て、さらには裏ギルド関係者が「これは愛ではなく欲だ」と奇妙なビジネスを仕掛けるなど、さまざまなトラブルが発生する。

 そのたびに負の感情も高まり、メルティナが「これ、結局“負の愛”まで引き寄せている気が……」と懸念するが、銭丸は「愛はすべてプラスだろ? 大丈夫、大丈夫!」と笑い飛ばす。



 案の定、負の感情を無視して愛の力だけを集めようとする装置には無理があった。実際には愛と憎が表裏一体であるがゆえ、集めたはずの“愛のエネルギー”の底にはドロドロしたマイナス感情が沈殿し、それが密かに蓄積していく構造になっていた。

 その結果、ある日の夜、愛の宮殿内で奇妙な振動が走り、装置が高出力を記録。メルティナが監視パネルを見て「異常値だらけ……どうしてこんな負の波形が?」と焦り、バルドが急いで警備を強化するが時すでに遅い。まるで“愛と憎しみ”が混じり合った得体の知れないエネルギーが、宮殿の地下にある貯蔵タンクでうねり始める。


 そこへ不幸にも、結婚式を挙げる直前に大げんかしたカップルが押し入り、暴言や破壊衝動をぶつけ合う場面が発生。さらに、育児施設でトラブルを抱えた親たち、欲望過多な客たちが次々混乱を起こし、結果的に大量の負の感情が一気に装置へ流れ込んでしまう。

 銭丸は「おいおい、そこまでしなくても……!」と狼狽するが、もう止まらない。愛が大きいほど裏に隠れる負の感情も膨れ上がる構図になり、ついに装置がパンク寸前になる。ひかりが駆け寄り、「停止しないと危ない!」と叫ぶも、銭丸が出資者を恐れて「まだ稼働を……!」と引き延ばそうとするから事態は進んでしまう。



 そして臨界点に達したのは、夜半のこと。地下タンクから黒い煙のようなエネルギーが噴き出し、館内を覆うように広がる。人々が一斉に激しい頭痛や悪夢に苛まれ、「愛の宮殿」だったはずの場所が阿鼻叫喚の地獄絵図へ変貌する。バルドが剣を抜いて警備するが、暴走した客や負のオーラのせいで大混乱。

 メルティナも「やっぱり……愛だけじゃない、憎悪や嫉妬まで全部吸い込んでしまったのね……!」と呟きながらも打つ手を失っている。結局、最後まであがくのは銭丸の役回り。彼は地下タンクに乗り込んで非常停止をしようとするが、そこにたまったドロドロの負感情がまるで生物のように彼を絡めとり、沈めようとする。


 その最中、彼はいつもの決め台詞を力なく発する。「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。愛の大帝国は……爆死ッ……!!」

 直後、タンクの底から激しい閃光と震動が発生し、膨大なエネルギーが制御を飛び越えて一気に表へ噴き出す。愛と憎が凝縮された魔力の塊が館全体を飲み込む形で凄まじい爆発を引き起こし、周囲も巻き添えに巨大火柱が上がる。



 翌朝、現場にはまた例のパターンどおり大穴と瓦礫の山ができ、愛の宮殿だった場所は何一つ残っていない。あれほど壮麗に飾った装飾はすべて吹き飛び、瓦礫の下から漏れる黒い煤が風に舞っている。もちろん銭丸の姿はなし。

 王都の人々は「愛までビジネスにしたんだから、きっと爆死すると思ってた」とため息交じりに言葉を交わし、ひかりたちも「これで何度目か分からない。もはや驚きもないわ……」と苦い顔。バルドは「まただ……やっぱり止めることはできなかった」と肩を落とし、メルティナは「愛や優しさを売りにした企画が、結局こんな結末なんて……」と声を沈ませる。


 こうして、“あらゆる愛を集めて大帝国を築く”という売り文句も、いつものように“爆死”の大爆発で瓦解し、周囲にはまたしても巨額の負債と混乱だけが残された。もはや王都の住民は、毎度おなじみの被害報告に慣れきってしまい、「銭丸はどこへ行った?」「今回こそは本当におしまいだろ」と、口先だけでささやくばかり。

 だが、懲りない男がほんとうに死んだのか、それともまた“愛の輪廻”でも何でも言い訳をして生き延びるのか——誰にも断言できないのが黒峰銭丸の恐ろしいところだ。そして人々は毎度同じように、また爆死伝説がひとつ増えたと嘆息するしかない。何度繰り返しても変わらないこのループを、本当に終える手立てはあるのか? そんな疑問だけが瓦礫の空を漂うばかりだった。

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