第8章「スラム救済? 廃材リサイクルと魔導発電」
初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!
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花火ショーでの大爆発から数日後。
黒峰銭丸は、いつものように路地裏で目を覚ました。祭りをぶち壊した加害者扱いを受け、また膨大な賠償金を抱えることになっている。もっとも彼は、懲りずに新ビジネスの可能性を探り始めていた。
「カネは裏切らない。女はたまに裏切る。花火は……爆死!!」
そう毒づきながら、彼は体中の痛みをこらえて立ち上がる。
見かねた水無瀬ひかりが駆け寄り、傷を気遣いながら「もう少し休んだら?」と声をかけるが、銭丸は首を振った。
「いや、借金まみれなんだ。ボヤボヤしてる暇はない。次のビジネスを考えなきゃな。」
「まだ懲りないの……? で、何を狙うの?」
彼女が呆れ顔で聞き返すと、銭丸は深いため息とともに、気になっていた噂話を口にする。
「最近、スラムで廃材やゴミが増えてるらしいんだ。処理しきれず道端に積まれ、衛生面でも問題になってるとか。」
「確かに、貧困エリアはゴミの回収が追いつかないみたい。でも、それをどうビジネスに?」
「廃材を再利用しつつ、ついでに魔導発電に活かせないかと思ってな。スラム救済と大儲けが両立するぞ。」
◇
スラムはこの街の外れに広がる貧困地区。人口の3〜5万の中で、職にも就けない人々が寄り集まる場所だ。狭い路地が入り組み、建物はボロボロ。廃材やゴミが放置され、悪臭が漂う。
銭丸は視察と称してスラムを歩くが、あちこちから冷たい目で見られる。スラムの住民は、外部の人間を信用しないのだ。
「おい、ここはよそ者が面白半分に歩けるとこじゃねえぞ。」
「分かってるさ。俺は廃材を買い取りたいんだ。」
「買い取り? 何の冗談だ?」
汚れた顔の住民が睨むように聞き返す。
銭丸は大胆な計画を語りはじめる。廃材を回収して魔導工房に持ち込み、再加工して燃料にする。それを使って簡易的な発電装置に入れれば、スラムに光を届けられる――つまり、リサイクル発電という訳だ。
水無瀬ひかりは「ちょっと非現実的じゃない?」と口の端を引きつらせるが、銭丸は意気揚々と説明を続ける。
「魔石を使うなら金がかかるし、爆発リスクもある。でも廃材を燃やして魔法陣でエネルギーを変換すれば、魔石の消耗を抑えられるらしい。工房で聞いたんだよ。」
「それって本当にうまくいくの……?」
「うまくいけば、スラムに安い電力を送ってやれるし、ゴミも減る。住民も助かるし、俺も電力使用料を徴収できるって寸法さ。」
◇
二人は魔導工房へ向かい、廃材燃料を使った簡易発電のプランを相談する。
工房の技師曰く、確かに廃材を燃やして生じる熱や蒸気を魔法陣で魔力に変換する技術は存在するが、規模が大きくなると制御が難しい。魔石より安定性は低いかもしれない、と付け加える。
「でもまあ、小規模でやる分には爆発のリスクは低いだろ。魔石ほど繊細じゃないはずだ。」
銭丸はそう言い切ると、工房の技師と一緒に「スラム簡易発電装置」の設計を始める。
原理としては、廃材を燃やしてボイラーのように熱と水蒸気を発生させ、そこへ魔法陣でエネルギー変換をかける。出力された魔力を“魔導ランプ”へ供給し、スラムの路地を照らす予定だ。
「これで夜も真っ暗じゃなくなる。夜に盗みに遭うリスクも減るし、みんな喜ぶぞ。」
「本当に喜んでくれるといいけど……」
◇
スラムの住民を説得するには、ある程度の“実験結果”が必要だ。
銭丸はひかり、バルドと共に、小さな空き地を借りて試作炉を組み立てる。廃材をくべて火を起こし、ボイラーで蒸気を発生。そこへ魔法陣を敷き、出力された魔力をケーブルでランプへ導く。
一見、手間のかかる仕掛けだが、最初の小規模装置は何とか稼働に成功。わずかながら魔導ランプが点灯する。
「おおっ、ついたぞ。これなら暗い路地を照らせる。」
「すごい、あったかい光だね。なんだか未来的っていうか、これまでなかった発想かも。」
スラムの少年たちが目を丸くして集まり、「これ、どうなってるの?」と興味津々。銭丸は「廃材がお宝になるのさ。捨てないで集めておけば、発電材料になる」と得意げに説明する。
住民たちは半信半疑ながらも「本当なら助かるな」と期待を寄せ始めた。
◇
スラム発電プランが広まり、廃材を積極的に集める動きが出る。銭丸は「廃材を持ってきたら多少の金を払う」と宣言し、またそれを燃料に変えて電力を供給する仕組みを作る。
スラムの人々は小銭を得られるし、夜の明かりが確保できる。銭丸は通行量や使用料を徴収する算段だ。
ひかりは「上手くいけばWin-Winだね」と感心するが、もはや何か大きな落とし穴があると勘ぐるのが彼女の常でもある。
「廃材が思った以上に多いね。スラムのあちこちから集まってくるし……」
「いいことじゃん。大量に燃料があるほど発電量が増える。」
「でも、ボイラーに入れすぎたら危険なんじゃ……?」
「心配いらねえ。魔石ほど繊細じゃないし、爆発はそう簡単に……」
銭丸は毎度のフラグを軽々しく飛び越えていく。誰もその先の結末を止められない。
◇
数日後。スラムの主要路地には“魔導ランプ”がいくつも設置され、暗闇がかなり緩和された。住民からは「夜が安全になった」「収入も少し得られる」と好評の声が上がる。
銭丸は「やっぱり俺は天才だな」といい気になり、今後は拡張して“スラムだけでなく普通の街灯も賄う”野望を語り始めた。
「都市全体をこの廃材発電で明るくしちまうのさ。魔石なんかに頼らなくてもいいだろ?」
「また大きく出たね。でも、今はスラムだけでいっぱいいっぱいじゃない?」
「まあ、様子を見て……ん?」
彼が言葉を切ったのは、遠くで「ゴゴゴ……」という妙な振動音が聞こえたからだ。どうやら、スラム発電の中心にあるボイラー施設のほうで騒ぎが起きている。
◇
急いで駆けつけると、火のような光と白煙が立ち上っていた。どうも廃材を詰め込みすぎて炉内の温度や圧力が過度に上昇し、魔法陣も制御不能になっているらしい。
職人の一人が悲鳴をあげる。
「蒸気が溜まりすぎだ! 弁が壊れかけてる!」
「圧力抜けない! 魔力変換が暴走してる!」
次の瞬間、ボイラーの外壁がドンという音とともに爆裂し、熱い蒸気と煤が飛び散る。周囲にいたスラム住民が慌てて逃げるが、狭い路地で大混乱。
「うわああ! みんな伏せろ!」
銭丸が叫ぶが間に合わない。高温の蒸気が魔法陣に逆流し、熱と魔力が衝突して焦げ臭い閃光が走る。
ドォン、という大音響とともに炉全体が吹き飛び、周辺の木造家屋も巻き込んで崩壊。銭丸はその爆風をまともに受けて空中に放り出された。
◇
数秒後、そこには灼熱の蒸気が立ちこめ、まるでボイラー爆発の地獄絵図が広がっている。多くの住民が瓦礫と煙にまみれ、慌ただしく救助を叫んでいる。
銭丸はというと、運悪く空き家の屋根に突っ込んだのか、すでに木片の下敷きになってピクリとも動かない。
「く、くそ……ま、またかよ……」
かろうじて意識を保つ中で、彼は自嘲気味に声を絞り出す。廃材発電は失敗、スラムも深刻な被害を受け、すべてが最悪の結末だ。
あちこちでうめき声がし、燃え上がる屋根の破片が火花を散らす。涙ながらに助けを呼ぶ住民の声が耳に残る。
「カネは…裏切らない……女は…たまに裏切る……発電は…爆死!!」
そう呟いた瞬間、屋根が完全に崩れ、銭丸は建材の嵐に埋もれるように消えていく。
再び彼は大破滅の中へ落ちていったのだった。
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