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第7章「街の祭りと精霊花火 夜空を飾る大商機」

初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

 魚市場での魔石冷蔵庫爆発騒動から数日。


 またしても焼け出され、借金や賠償を抱える羽目になりながら、黒峰銭丸は路地裏の地面で目を覚ました。

 毎度のことだが、「なぜ死なないのか」と呆れる声が周囲で囁かれる。もっとも、懲りないのが彼の最大の特徴でもある。


「カネは裏切らない。女はたまに裏切る。冷蔵庫は……爆死!!」


 そう悪態をつき、彼はなんとか立ち上がる。

 そこへ水無瀬ひかりが顔を出した。ギルド受付として忙しい合間を縫い、銭丸の動向をチェックするのが彼女の日課になっているのかもしれない。


「また派手にやらかしたね。大丈夫?」


「へへっ、どうにか生き延びてる。さて、次のビジネスを考えなきゃな。」


「そっか。まあ止めても無駄だろうし、何を狙うの?」


 銭丸はニヤリと笑い、手元のチラシをひかりに見せた。そこには、この街の大きな祭りについて書かれている。毎年恒例だが、今年は同盟諸都市から観光客が来るらしい。


「これだよ。祭り。昼間は出店や踊りがあるが、夜の見せ場が弱いって聞いた。そこで俺が精霊花火を持ち込むんだ。」


「精霊花火……火薬と精霊の力を合わせて打ち上げる、あの危険なやつ?」


「そう。誰もやらない分、成功すれば大儲けできる。観覧席のチケットを売って、協賛金も集める。狙い目だろ?」


「毎回大失敗してるのに……まあ花火はきれいだし、見たいかも。」



 火薬職人ギルドの工房へ向かった銭丸とひかり。そこでは火の精霊契約者や火薬調合師が実験を繰り返している。

 彼らが扱う花火技術は、事故リスクが大きいせいであまり広まっていない。


「花火だぁ? 確かに最近は大々的にやってないな。事故が多いからよ。」


 工房の親方が険しい表情を浮かべる。


「だからこそ、ちゃんと安全策を整えれば大ヒット間違いなしですよ。祭りで打ち上げれば客は大喜び、協賛金やチケット代も入ります!」


「わかった。祭りの実行委員会が許可するなら協力しよう。だが爆発の制御を間違えると、一瞬で全部吹っ飛ぶからな?」


「心得てます。入念なリハーサルをして臨みましょう。」



 銭丸は祭り実行委員会へ提案を持ち込み、火薬職人ギルドが協力すると約束していると説明する。

 最初は「危険すぎる」と嫌がられたが、「成功すれば今年の祭りは格段に盛り上がる」「財源にもなる」とアピールすると、委員たちはだんだん乗り気になっていった。


「いいでしょう。夜の出し物が弱いのは前から課題でした。派手な花火ショーができるなら、観光客も増えそうです。」


「やった! では早速準備に入ります!」


「失敗して火事にならないようにお願いしますよ。」


「もちろんです!」


 こうして精霊花火ショーの実施が正式に決定する。

 ひかりは「本当に大丈夫かな」と呟くが、銭丸は「今度こそ完璧さ」と笑うしかない。



 祭り当日までの一週間、火薬職人たちは花火玉と精霊玉を仕込み、打ち上げ台を作り、魔法陣で点火タイミングを調整する。

 何度かテストを行い、いくつか小さいトラブルはあったものの、大爆発にはならず、一応成功の手ごたえを感じる。


「よし、これならいける。見た目も華やかに夜空を飾れるはずだ。」


「今度こそ……失敗しないでね。」


「大丈夫! 食品みたいに腐らないし、魔石冷却みたいに繊細じゃない。打ち上げるだけだから。」



 祭り当日。

 この街では毎年夏に大きな祭りを開くが、今年は同盟諸都市からも観光客が殺到し、例年以上に賑わっている。昼は踊りや出店が並び、夜にかけて熱気は高まる。


 そこへ銭丸が花火ショーを告知し、観覧席を有料で設置した。興味津々の客が次々と席を埋め、既にチケット収入だけで相当な額が入っている。


「やっぱイベントは儲かるな。これで借金返済も近いぞ。」


「うん、何事もなく終わればね……」


 ひかりが苦笑いするが、銭丸は「今度は本当に大丈夫」と自信を見せる。



 夜。

 いよいよ精霊花火の時間だ。打ち上げ台の周辺には火薬職人と銭丸が控え、しっかり安全範囲も確保している。観覧席は満員で、太鼓の音が祭りの最高潮を告げる。


 親方の合図で一発目の花火玉が空に昇り、ドンと弾ける。赤や緑の光がきらめき、観客から大歓声が上がった。続けて二発目、三発目も順調に開花し、夜空にきらびやかな光の帯が重なる。


「すごい……! 大成功じゃん!」


 バルドが目を丸くし、ひかりも拍手している。銭丸はガッツポーズ。


「ははっ、見たか! これがビッグイベントの力だ!」



 だが、いつも通り油断は禁物。

 半分ほど打ち上げを終え、後半の花火玉をセットしようとした時、台の裏側で火の精霊玉が赤黒い光を放ち始める。どうやら何かの誤差で急激に熱を溜めているらしい。


「おい、なんか熱すぎるぞ。この精霊玉……ヤバい気がする。」


「制御魔法を早く! 今はまだ起爆しちゃダメだ!」


 職人が慌てて魔法陣を操作するが間に合わず、精霊玉が自発的に暴走し始める。隣に積んでいた花火玉へ火の粉が散り、火薬が誘爆の準備状態に。


「ぎゃあああっ! 離れろ、爆発するぞ!」


 ドォンという大音響とともに打ち上げ台が吹き飛び、花火玉が一斉に破裂する。夜空にきらびやかどころか、凄まじい火炎柱が立ち上がり、観客席には絶叫が広がる。



 銭丸も激しい衝撃波で空中に放り出され、台の残骸と共に地面に叩きつけられた。

 火薬の連鎖爆発が続き、祭りの会場はパニックに陥る。騎士団が必死に消火を試みるが、次々と花火玉が暴発して止まらない。夜空に大輪が咲く代わりに、あちこちで破片が飛び散る地獄絵図になっている。


「う、うわ……やっぱこうなるのかよ……」


 体中を打ち付けられ、血だらけの銭丸は息も絶え絶え。遠くでひかりやバルドが叫ぶ声がするが、もはや意識が保てない。


「カネは…裏切らない…女は…たまに裏切る…花火は…爆死…!!」


 そう呟いて、彼は夏の夜空へ散るように意識を失った。

 失望と怒号に包まれた祭りの広場に、火柱と爆音が鳴り響く。観客の楽しみは一瞬で吹き飛び、銭丸もまた大破滅に身を沈めるのだった。

挿絵(By みてみん)

読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、よろしくお願いいたします!

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