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第6章「港の魚市場で鮮度管理!魔石冷蔵庫計画」

初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

 貸本カフェの大火事でまたもや爆死扱いになった黒峰銭丸くろみね ぜにまるが、奇跡的に戻ってきたのは、それから数日後の朝だった。

 路地裏の瓦礫に埋もれていた彼を、救助隊が掘り出したときは「もうダメだろう」と思われたが、なぜか一命を取り留めたのだ。まあ、いつものこととはいえ、周囲は半ば呆れている。


「カネは裏切らない。女はたまに裏切る。本は……爆死ッ!!」

 意識が戻るや否やその台詞を吐き捨て、銭丸は医務院のベッドから起き上がった。

 ギルドや倉庫関係者からの賠償請求はまたしても膨大だが、懲りずに次のビジネスへと走り出すのが彼のスタイルである。



「今度は食い物に手を出さないんじゃなかったっけ?」

 水無瀬ひかりが呆れ顔で問いかける。彼女はギルド受付嬢として働きながら、銭丸のパートナーでもある。

 ベッドの上でうなされていた銭丸は、薄い毛布を剥がしながら笑った。


「確かに“食品”自体を扱うのはリスキーだが、俺が狙うのは鮮度管理のほうさ。港に行ってみろ、魚がすぐ悪くなるって嘆いてる漁師や商人がいっぱいいるだろ?」

「まあ、海が近いのに気温が高い季節だし、魚の腐敗が早いって話は聞くわね」

「そこで魔石冷蔵庫の出番だ!」


 銭丸は以前、石鹸倉庫やカフェで“危険な魔石の暴走”を経験しているが、懲りずにまた魔石を使った仕掛けを思いついていた。

 ただし、今回はあくまで“低温”にする方向。大爆発よりは安全……かもしれない。



 街の外れにある港区は、複数の小都市が連合を組む都市同盟の中でも有数の漁業拠点だ。

 人口3〜5万人規模の本拠地から馬車で小一時間ほど行くと、海沿いに船が立ち並ぶ港が現れる。そこに広がるのが魚市場で、早朝から漁師や仲買人がひしめき合うが、気温が上がると魚の鮮度が落ちやすいのが悩みだった。


「魚がすぐ腐っちまうから、あんまり遠くまで輸送できないんだよな……」

「氷精霊の行商から氷を買ってもいいけど、高コストで大量には使えないし」


 そんな嘆きを聞いて、銭丸はニヤリとする。持参したメモ帳を広げ、ふたつの案を説明した。


「1つ目は、市場全体を冷気魔法で覆うという大仕掛け。だけど、それは精霊契約者や大規模魔導設備がいるからコストが高い」

「うん、維持費も凄そう」

「2つ目は、各店舗ごとに小型冷蔵庫を導入して魚を保管する方式。魔石を電源にして、箱の中だけ冷やすんだ。これなら大量の氷を買わなくてもいい」


 ひかりは不安そうに眉をひそめる。魔石を使うとなると、また爆死フラグが立つのでは……と一瞬思うが、ここで意見を口にしないあたり、彼女も半ば慣れたのかもしれない。


「じゃあ2つ目の方法で行くのね? 魔石冷蔵庫かあ……実現すれば確かに画期的だけど、装置の設計はどうするの?」

「魔導工房に話を通すさ。これまで何回か危ない思いしてるけど、あそこなら冷却回路の技術があるだろ」



 魔導工房。

 魔石エネルギーを扱う専門家が集まる場所で、都市同盟の研究所ともつながりがあるが、何度も失敗作を生み出してきた噂が絶えない。しかし銭丸はそこへ出向き、冷蔵庫の試作を依頼した。


「要は魔石を使って、内部の空間を低温に保ちたいんですよ。熱を外に逃がせばいいわけでしょ?」

 工房長が図面を眺めながらうなる。

「うーむ、簡単に言うが魔石のエネルギーを“冷却”に回すには、特殊な魔法陣がいる。熱交換の概念をうまく処理しないと、下手すりゃ逆に加熱するぞ」

「そこはなんとか……魔導師が冷気魔法を当てる代わりに、魔石回路でそれを自動化できないか? 以前の冷凍実験では爆発したらしいが……」


 不穏な単語を含みつつ、何とか設計案をまとめる。

 ・魔導回路で“熱を外へ排出”する仕組み

 ・魔石は定期的に交換または再充填しないと性能が落ちる

 ・逆に設定を誤ると急速加熱して危険……

 一抹の不安はあるが、銭丸は「大丈夫、今度こそ上手くいく!」と胸を張る。



 試作品は「魔石冷蔵箱」と名づけられ、木箱の内部に簡易的な魔法陣を刻み、背面に小型の魔石をはめ込む設計となった。スイッチを入れると、内部がじんわり冷える。

 ひかりとバルドが恐る恐る実験してみるが、最初のうちはさほど危険を感じない。魚を1日入れておいても臭いが抑えられ、これは効果絶大だと確認できた。


「すごい! ちゃんと冷えてるよ。魚も腐ってない!」

「いいねえ。これなら各店舗に1台ずつ置けば、漁師も喜ぶだろ」


 銭丸は大興奮でサンプルを持って港へ向かい、魚市場の人々にデモンストレーションを行う。


「ほら、これで24時間保管しても腐らない。魔石は1個につき3〜4日使えるし、切れたら交換すればいい!」

「本当かよ……おお、確かに昨日獲った魚がまだプリプリしてる。すげえ!」


 港の漁師や仲買人が目を輝かせる。ちょうど暑い時期で痛みが早かったため、これだけで取引が変わるという。

 ただし、1台あたりの値段はそこそこ高め。銭丸は割賦(分割払い)プランを用意してまで「市場に普及させるべきだ」と熱弁する。


「導入が増えれば、遠方の都市にも鮮魚を出荷できるから、売上は倍増しますよ! 分割でも払えるようにするから、どうっすか?」

「いいねえ! こいつぁ革命だ!」


 予想以上の反響だ。漁港に何十台もの注文が入り、銭丸は魔導工房とともに量産体制に入る。

 しかし、ひかりが心配げに呟いた。


「魔石の供給は大丈夫かな……? しかも市場全体で何十台ってなると、数が多いよね」

「そこはギルドに協力してもらうのさ。都市同盟で魔石を仕入れれば、コストも下がる……一気に商機拡大!」


 そう、ここまでは完璧に見えた。



 大量に生産された“魔石冷蔵箱”が港に納品され、各店舗が使い始めたのは1週間後。

 毎朝、銭丸が回収係を派遣して交換用の魔石を届け、使用済み魔石を回収。魚の鮮度が上がった結果、漁師と仲買人は大喜びで、「もっと魚が売れてる!」「遠くの街からも買い付けが来た!」と盛り上がる。

 銭丸も課金制で魔石レンタル料を取り立て、大きく潤う。久々に“事故や爆死なしで安定の利益”が出るんじゃないか……と期待したが、それが甘い考えであることは、すぐに判明した。


 ある日の朝、漁師仲間が「冷蔵箱が冷えすぎて、魚が凍り付いたんだよ!」とクレームを入れる。

 別の店では「逆に冷蔵どころか温まってしまった。鮮度が余計に落ちた!」という苦情も。

 どうやら魔石回路の微調整が難しく、箱ごとに温度がバラつくのだ。さらに魔石の劣化スピードが予想より速く、交換の手間が大きい。


「すまん……分割払いはいいけど、毎日の魔石交換費が高いぞ!」

「取り消したいって店も出てきてるんだけど」


 ひかりが困惑の声を上げ、銭丸はバタバタとトラブル対応に走る。

 だが、それだけならまだしも、ある夜、港の一角から「ドォン!」という嫌な爆発音が響いた。


「な、何事だ!?」

 駆けつけてみると、魔石冷蔵箱が連結された大型保管庫が破損し、周囲に氷と魚の残骸が散らばっている。どうやら魔石が暴走し、極端に冷却が高まりすぎて氷塊が膨張し爆発的に飛び散ったらしい。

 現場は氷の破片で足場がグチャグチャになり、運悪く近くを歩いていた漁師が転倒して骨を折る怪我を負っている。


「うわあ……魚が凍りついて砕けてる……。魔石がこんなにも暴走するなんて!」

「ちょっと待って、魔導工房の説明じゃ“安全な低温”だったはずじゃ……」


 銭丸が青ざめながら現場を確認すると、半壊した保管庫の裏で、制御回路がショートした痕跡が見つかった。この街は海風が強く、湿度も高いため、回路が錆びて不安定になったのが原因かもしれない。

 とにかく魚も設備も台無しだし、負傷者も出たとなると、また大騒動だ。



 港の人々が激怒する声があちこちから飛ぶ。

 「使いものにならねえどころか危険じゃねえか!」「あんたがあの魔石箱を推したんだろ?」

 挙句の果てには、騎士団が治安維持に出動し、倉庫や箱を撤去するように命令してくる。

 銭丸は「待ってくれ!」と止めるが、もはや聞く耳を持たない。大規模な撤収騒ぎが始まり、漁師たちが怒号を飛ばすなか、箱がバリバリと破壊されていく。


「こ、こんな……せっかくの冷蔵革命が……」

 ひかりが涙目になり、バルドも「くそっ、まただ……」とぼやく。

 そんななか、銭丸は一人耐えきれずに倒れ込む。冷却装置の破片が飛んで頭を直撃し、脳震とうを起こしたらしい。周囲の騒ぎを遠くに感じながら、意識が薄れていく。


(結局……爆死かよ……)


 最後の一瞬、彼は自嘲気味に呟くように思った。

 街の連中は「やっぱりアイツか」と呆れ、冷蔵庫導入で期待していた漁師も「無駄に金をかけて大損害を出しちまった」と落胆。賠償やら修理やら騒がしくなるだろう。


「カネは裏切らない……女はたまに裏切る……冷蔵庫は……爆死ッ!!」


 周囲に散らばる魚の細かい破片、氷の結晶、そして魔石のかけら。そうしたガラクタを背景に、銭丸はまたしても“全力で爆死”してしまった――。

読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、よろしくお願いいたします!

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