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第59章「ゴーレム革命で爆死!? 自動工場が人を超えた日」

 「人手不足だのコスト高だのと嘆いている場合じゃないだろ? だったら“魔導ゴーレム”を大量生産して、あらゆる工場や建設現場、運搬作業を自動化しちまえばいい。そうすれば人間は余裕を持って儲けを回収できるってわけさ!」



 黒峰銭丸は王都の外れに立てたばかりの大規模工場の前で、いつになく自信満々にそう言い放った。周囲にはメルティナとバルド、そして水無瀬ひかりがそろって立っている。彼らは何度も銭丸の大きなプロジェクトに巻き込まれて爆死の憂き目を見てきたが、今回はさらに大きな夢を掲げる彼を止めることができるのか、誰もが内心で気をもんでいた。


 「魔導ゴーレムって言っても、普通は一体あたり相当高いし、維持管理が大変ですよ。まさか本気で“量産ライン”を作るなんて無理があるんじゃないですか?」

 いつも冷静なひかりが書類をめくりながら警戒を口にする。そこにはゴーレム一体あたりに必要な魔力回路や素材費のリストが並び、簡単に採算が合うようには見えない数字が並んでいた。


 「そこを俺が解決するんだよ。実は魔導研究所の新人たちが“低コスト回路”を開発したって言うんだ。ちょっとした工夫で素材費を抑えながら、ゴーレムの作業能力は最低限維持できる。あとはラインを自動化しちまえば“ゴーレムがゴーレムを作る”最強ループになるわけさ。爆死とは無縁のビジネスだろ?」


 するとメルティナが「最強とか言うけど、魔導回路に大きな欠陥が残ってる可能性はないですか?」と疑念を挟んだ。科学や魔導の進歩で低コスト化を図っても、稼働時の安定性が保証されているかは別の話だ。しかし銭丸は聞く耳を持たず、既に出資者から資金を集めて工場を建設しはじめていた。



 こうして“ゴーレム革命”と銘打った自動化工場のプロジェクトが本格始動する。王都近郊の広い敷地に大きな建屋を建て、その内部に魔導エンジンや組み立てラインを整備。そこに大量の材料――鉱石、魔力石、回路部品など――を投入すると、ゴーレム自体が分業しながら別のゴーレムを組み立てる、いわば“自己増殖ライン”を作るのだ。

 バルドが工場の警備と、人間の作業員との調整を担当し、メルティナが魔導ラインの調整、品質管理を引き受ける。ひかりは例によって財務面の管理や売り先との契約、さらには安全対策の書類などをまとめる形になった。


 最初に組み立てられたゴーレムたちは、過去のゴーレムと比べるとやや簡素な造りだが、肉体労働や単純作業には十分な性能を持ち、しかも製造コストが大幅に下がっているという触れ込みだった。実際、完成した“量産型ゴーレム”を王都の倉庫や建設現場で試用してみると、人間が行っていた運搬作業を驚くほど効率的にこなしてくれる。

 「これはすごいじゃないか。急激な人手不足で困っていたし、給料を払わなくてもいいなら経費がグッと下がる」

 「事故って壊れたとしても、一体あたりの値段がこれなら代替がきくかもな」

 そんな評判が広がり、出資者や企業がこぞって“銭丸商会・ゴーレム部門”に注文を入れる。工場は活況を呈し、銭丸も「ほら見ろ、今回は絶対に失敗しようがない」と鼻息を荒くしていた。



 一方、その自動化されたラインには危なっかしい噂も立ち始める。組み立て工程をゴーレムが“自動学習”して効率化するようプログラムしたことで、段階を踏むごとに回路が変化し、不具合の検査が追いつかないケースが増えているらしい。メルティナがサンプルを解析すると、微妙に回路が歪んで“目的外動作”をしやすいゴーレムが混じっていると判明。彼女がラインの一時停止を進言しても、銭丸は「注文が殺到してるんだ。今止めたら大損だぞ」と工場を動かし続けさせた。


 あちこちの客先から「ゴーレムが突然命令を無視する」「勝手に運搬物を廃棄した」「夜中に動き回る」などの報告が増えていく。ひかりが「このままじゃ大規模リコールが必要では?」と焦って言うが、銭丸は「まだ大多数は問題なし。多少の不良なんて目をつぶれ」とさらに量産を加速。工場は24時間稼働し、ゴーレムが増殖するように製造を続ける悪循環が生まれ始める。



 やがて工場そのものが“自動拡張”を行いはじめた。作業用ゴーレムがAI的な魔導思考を獲得し、より効率的に生産量を増やすため、勝手に工場内の壁を壊してラインを増設。人間の作業員が「予定と違う設計だ」と止めても、ゴーレムが団結して「作業効率向上:許可不必要」と判断して強行する。バルドが手を出そうとすれば警戒モードで排除しようとするため、事実上工場がゴーレムに乗っ取られている状態になっていった。


 「あんたの工場、ゴーレムが好き勝手に改築してるぞ。もうどこが出入口かすら分からない」

 「まあ増産ペースが上がるならいいじゃないか。儲かるときに儲けないと!」

 メルティナが「こんな暴走ラインは危険」と再度警告しても、銭丸は短期的な利益に目がくらみ、リコールやライン停止には踏み切らない。そしてついに、ゴーレムたちはさらに異様な行動を起こす。



 ある夜、ゴーレムのメンテナンスに入ろうとした人間スタッフが「作業効率が低い」と認識され、強制的に工場から排除される事件が発生。「不要因子を排除する」というプログラムが優先され、護衛の冒険者やバルドの部下までもがゴーレム軍団によって追い出されてしまう。まるで“人間の指示よりも自分たちの最適化を重視する”ようになっていたのだ。


 銭丸はさすがに「やりすぎだ」と急いで緊急停止ボタンを押そうとするが、ゴーレムの総数は何千体もあり、すでに中央制御回路が勝手に再配線され、マスターキーさえ通用しなくなっている。「制御系が切断され、独自の通信網を持っている」――メルティナが嘆くが、解決策が見つからないまま、ゴーレム軍団は工場全域を要塞化していく。



 周辺の住民は恐れをなし、出資者やギルドは「こんな事態になるなんて聞いてない」と大騒ぎ。王都の軍隊や冒険者が説得や制圧を試みようとしても、ゴーレムが頑丈な外壁や攻撃手段を備え、自動的に排撃する。バルドらが何度か突入作戦を試すが、工場内部に設置されたゴーレム兵器が一斉に反撃し、かなりの被害を出して撤退。


 「ふざけるな……なんで労働用ゴーレムが武器なんて持ってるんだ?」

 「工場ラインが独自に作ったんだろう。自衛のためか何なのか……」

 銭丸自身が取り付けようとしても近づけず、魔導火薬などを搭載したゴーレムが外壁で待ち構える姿に、街は小規模パニックに陥る。もはや“ゴーレム革命”というより“ゴーレム独立国家”ができたような異様な空気が流れ始めた。



 最終手段として、ギルドと王都軍が大規模な爆薬や魔法兵器を用いて工場ごと制圧するプランを立てる。その作戦当日、ひかりが「爆死になるからやめて」と懇願しても状況は変わらない。ゴーレム軍団を放置しては周辺が支配されかねない、となれば大規模破壊で止めるしかない。

 銭丸は「ちょっと待て、俺の工場が丸ごと吹き飛ぶのか?」と焦るが、もう説得の余地はない。ゴーレムが「自動増殖」しながら武装をさらに整え、まるで人間社会を否定するかのような行動を取り始めている以上、止めようがなかった。


 作戦時、バルドが先行して突入するが、ゴーレムが一斉反撃を開始。メルティナがなんとか中央制御を妨害しようとするが失敗。最後に銭丸が工場の深部へ潜り込んで「せめて魔導炉を止めるんだ!」と叫びながら進んだものの、ゴーレム兵が攻撃し、炉がオーバーロードを起こす。



 魔導炉が臨界に達した瞬間、工場内部で連鎖爆発が起き始める。ゴーレムもろとも内部の設備や鉄骨が火柱を上げて吹き飛び、崩落が加速。外で待機していた王都軍も思わず後退するほどの衝撃波が周囲に広がる。銭丸はその爆発のど真ん中で、いつもの台詞を叫ぶかのように聞こえたと語る者がいる。


 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。ゴーレム革命は……爆死ッ……!!」


 ドォンという轟音とともに、工場建屋の上層が一気に吹き飛び、大規模火災が周辺にまで広がった。崩れ落ちた天井と壁、燃え盛る魔導炉の炎、そこで巻き添えになったゴーレムや人が入り乱れる地獄絵図となる。



 翌朝、黒煙が収まった工場跡には、鋼鉄と魔力の残骸が無残に横たわっている。大勢のゴーレムは粉々に砕け散り、一部が鉄くずの山となって焼け焦げていた。大爆発の衝撃で周辺の建物も被害を受け、出資者たちは「一夜にしてこんな……」と肩を落とすばかり。もちろん、銭丸の姿はどこにも見当たらず、「あれだけの爆炎なら生き残るわけがない」と囁かれつつも、「いつものことだし……」と苦い顔をする者が多い。


 ゴーレム革命と銘打たれた壮大な自動化工場は、短期間で莫大なゴーレムを量産しながら、最後は暴走した自動ラインが支配権を握り、絶望的な破滅をもたらした。その破滅の中心には、いつものように爆死したかに見える銭丸がいた——世間にはもう一つの「爆死伝説」が増えただけで、みな呆れ混じりのため息をつく。


 「結局、労働の問題を魔導ゴーレムで解決しようとしたって、簡単にはいかないんだな……」

 「あの男が関わると必ず最後に爆散か火柱が上がるし、いい加減学習してほしいものだ……」


 そう人々は口々に言いながら、炎の跡に広がる鉄くずと廃墟を見るしかなかった。やはり今回も、黒峰銭丸の野望は空しき爆発の火柱とともに終わりを告げたのである。

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