第56章「鬼神の遺跡で爆死!? 強欲ツアーが封印を解く」
「陸も海も地下も手を出したけど、まだ“神域レベルの遺跡”ってのが残ってるだろ? 聞けば、昔から“鬼神”が祀られていた遺跡があるって話だ。それを観光化すれば、大注目まちがいなしじゃないか!」
黒峰銭丸は、王都の図書館で古い文献を読み漁りながら、いつもの強引な勢いで口にした。そばには水無瀬ひかりが、半ばあきらめ顔で荷物をまとめている。
「鬼神の遺跡って……封印されてるとか、呪いがあるとか、いろいろ危険な噂ばかりなんですけど。大丈夫なんですか?」
「大丈夫に決まってる。観光ビジネスというのは、未開の場所をどう使うかが勝負さ。封印なんて形だけだろ!」
◇
今回狙うのは、「鬼神の力を宿す」と伝えられる古代の遺跡。山奥に隠れた神殿らしく、一般的には“近づくと祟られる”と恐れられていた。しかし、それがむしろ「心霊スポットのような目玉になる」と考えた銭丸は、早速出資者を募って観光ツアーを企画。
バルドが護衛隊を整え、メルティナが遺跡の魔導仕掛けや呪文の調査を担当。ひかりはツアー受付や契約を一手に引き受ける。いつもの爆死の悪夢が頭をよぎるが、銭丸は意に介さない。
「誰だって怖いもの見たさはある。封印なんて大げさに言われるほうが集客できるのさ」
「あなた、いつもそう言って……やっぱり心配です」
◇
遺跡は高い山の中腹にあり、深い森を抜けると独特の石造りの神殿が姿を現す。最初の調査隊が入ったところ、内部には古代文字で「鬼神の力を眠らせる鎖」といった記述があり、厳重な封印が施されているらしい。
銭丸は「安全な範囲だけルートを作れば、観光客が遺跡を見学できる」と提案し、バルドが一部の仕掛けを解除し、メルティナが護符やバリアを張って“深部”を封印したままにしておく。こうして“安全な外郭部”だけツアーが可能になるはずだった。
「前にも似たようなことが……。何度封印と言われても、最終的に破っちゃいますよね?」
「大丈夫さ。今回は完全封鎖するから、中の鬼神とかいうのは起きないよ」
◇
銭丸は派手な宣伝を打ち、王都の好奇心旺盛な富裕層をターゲットに「呪われた神殿、恐怖と浪漫の旅」と煽り広告を出す。すると「本当に呪いが解かれてないのか?」と興味津々な人々が集まり、ツアー初日から想定以上の申し込みが入る。
バルドやメルティナが洞窟内(神殿の外郭部分)の魔法トラップを外して回り、ひかりが入口でチケット販売。銭丸自身もガイド役に立って「さあ皆さん、ここが伝説の鬼神遺跡ですよ」と客を案内する。
「警備も頑丈だし、結界を施したし、絶対爆死はないはずだ」
「フラグにしか聞こえないんですけど……」
◇
初日、客は適度に驚いたり怖がったりしながら、古代の壁画や石像、妖しげな扉などを見物して楽しんでいる。安全な観光コースは順調で、客からも「スリルを味わえて最高だ」「いい話のネタになる」と好評を得る。銭丸も「ほら、やっぱり儲かる」と上機嫌で客足が伸びる。
ところが、二日目になると、“もっと深部を見たい”という無謀な客や、密かに鬼神の力を目当てにする怪しげな冒険者が出始める。封印された扉をこじ開けようとする者がいたりして、警備がなかなか行き届かない。
「また想定外の侵入者か……どうしてこうなるんだろう」
「観光化すると、どうしても色々な欲を持つ人が集まるんですよ」
◇
警備を強化し、深部へ通じる扉をさらに厳重に封じ込めようとした矢先、どこかで“解錠の呪文”が使われたらしく、封印が弱まる兆候がメルティナのセンサーに捕捉される。どうやら冒険者か闇の者が、鬼神の力を手に入れようとした可能性が高い。
銭丸は「ああ、もう……」と焦りつつ、「すぐに止めるんだ!」とバルドに指示する。しかし、既に遺跡深部で何かが動き始めているようで、神殿全体が不気味に震える。
「やばい、どうやら結界が破れてます。早く退避を呼びかけないと……」
「ちょっと待って。まだ解錠しかされてないかもしれない!」
◇
人々がまだ表層部で観光をしている中、遺跡内部から鬼神の咆哮のような声がこだまする。異様な圧力が空気を揺らし、壁や柱に刻まれた古代文字が闇色に光り始める。
観客は「なんだ? 演出か?」と最初はワクワクするが、徐々に天井が崩れ、入り口が塞がれ、明らかに危険な展開だと気づいて悲鳴を上げる。バルドが出口確保に走るが、魔力の震動が通路を歪ませている。
「ここヤバい! 一旦外へ出ろ! 帰れなくなるぞ!」
「くそ……どうしてこうなるんだ……」
◇
すると神殿の最深部から鬼神らしき巨大な影が姿を見せる。半獣半鬼のような異形で、封印を解かれた怒りに燃え、雷や衝撃波を操って遺跡内部を破壊し始める。壁から邪念のような気が噴き出し、客やスタッフが呪いにかかったように苦しむ者も出る。
銭丸が「ここまでだ……みんな撤退しろ!」と叫ぶが、天井の崩落や魔力の暴走で通路が次々塞がれ、客たちが逃げ道を求めて右往左往している。
「こんなの無理! 鬼神だなんて初耳だぞ!」
「誰か冒険者を呼んで来い!」
◇
神殿に充満する怨念が結集し、鬼神がさらに巨大化。体から闇の稲妻を放ち、部屋を一瞬で吹き飛ばす威力を見せつける。メルティナやバルドが必死に抵抗するが、魔法も剣も効きが薄い。最後の足掻きで封印を再び掛けようとするが、すでに完全に破れてしまったらしく、効果がない。
銭丸は瓦礫をかいくぐって客を誘導しようとするが、鬼神の咆哮で床が砕け、彼も飲み込まれるように転落。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。鬼神の遺跡は……爆死ッ……!!」
そう叫ぶや否や、闇の稲妻が轟音を放ち、周囲の石壁ごと粉々に破壊。銭丸はその爆裂に巻き込まれ、姿を闇と土煙にかき消される。周囲で火柱のような魔力が噴きあがり、遺跡が完全崩壊へ向かう。
◇
翌日、救助隊が外から遺跡を覗くが、そこには大きな陥没と瓦礫の山があるだけ。内部は闇の瘴気が残っていて、近づくことすら困難。一部で「鬼神が解き放たれた」という噂が広がり、周囲の村が厳戒態勢に入る。
観光客やスタッフの多くはどうにか外へ逃げたが、大勢が負傷し、銭丸を含む行方不明者が続出。例によって「こんなの生きていられるわけない」とは言われるが、誰も確証を持てない。「あの男がまた……」と呆れ口調で人々は語るが、神殿跡を遠巻きに見るしかない。
こうして“鬼神の遺跡”を観光ビジネスにしようとする野望も、たった一度の封印解除で大惨事を迎えた。いつもの“爆死”の形でも、周囲の怨霊めいた闇がさらに生々しく後味の悪さを残す。大災厄の火柱が消えた後には、封印どころか遺跡そのものが崩れ去り、黒峰銭丸の姿もおなじみのように見当たらないまま——人々はまたしても同じ結末を繰り返すしかないのだろう。




