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第5章「貸本カフェ!魔導参考書&知識ビジネス」

初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

 二度目の“豪華防具”ビジネスでまたもや派手に自爆し、騎士団の凱旋パレードを大混乱に陥れた黒峰銭丸くろみね ぜにまるは、路地裏の地べたでまたしても目を覚ました。

 何度爆死してもめげずに蘇るのは、もはやお約束だが、そのたびに増える借金や賠償請求にはさすがにうんざりである。


「今回ばかりは、えらい額の補償を背負っちまったなあ……」

 銭丸はギルドに提出された破損リストを見ながら溜息をつく。馬車の修理費、街灯の修理費、騎士団長からの治療費&慰謝料、さらにはパレードに参加していた露店の損害まで……

 水無瀬ひかりも顔を曇らせて紙をめくる。


「ううっ、何をどう計算しても赤字がかさむばっかり……」

「ま、でも死んでないからいいじゃねえか。生きてりゃ次の手が打てる」


 懲りずに立ち上がるのが銭丸の真骨頂である。もっとも、そろそろ大きなリスクを伴うビジネスは避けたい気分だ。


「モノを作る系は、何かと魔石トラブルがあるし……食い物は腐敗リスクがあるし……もう少し平和な商売ねえかな」

「確かに。石鹸や防具みたいに“在庫”が残ると怖いし。屋台も事故多いし。じゃあ何か“サービス業”は?」


 ひかりの言葉に銭丸はピクッと反応する。サービス業なら在庫リスクは少ないし、魔石や火薬の暴走リスクも比較的低いはず。

 何かないかと頭を巡らせた時、ふと視界に入ったのはギルドの掲示板だ。冒険者たちが依頼情報やクエストの資料を眺めている。


「そういや、冒険者や魔導士が参考書や地図を探してるのをよく見るな……」

「うん。こっちの世界の本って基本的に手書きコピーだから、高価だし数が少ないの。閲覧するにも料金かかるし」

「なるほど。“貸本”とか“図書カフェ”みたいなのを作れば、需要あるんじゃね?」


 日本のレンタルコミック店やネットカフェが脳裏に浮かぶ。ここには“魔導参考書”や“ダンジョンガイド”など専門知識が求められる文献もあるが、保管してるのはギルド倉庫や私設の魔導研究所などで、一般には開放されていない。


「それを、金払ってでも読みたい人は多いはずだ。しかも“カフェ”を併設すれば飲食代も稼げる。どうだ?」

「確かに、石鹸や防具と違って大規模な製造はないし、魔石を扱う場面も少なそう。やってみる価値はあるかも!」



 さっそく銭丸は“貸本カフェ”の構想をまとめ、ひかりがギルドへ行って許可を確認する。

 書籍の一部はギルド倉庫に保管されているが、そこには古代魔法に関する貴重な文献や高額な地図などもあるため、誰でも閲覧できるわけではない。

 ギルドの書庫担当官は言う。


「うちとしては、古文書の扱いが面倒だから、金さえ払ってくれるなら閲覧用に貸し出してもいい。だが、魔導研究所が管理する秘蔵本までは貸せないぞ」

「そこは了解しました。一般冒険者や商人向けの資料で十分ですから」


 さらに、図書扱いには“複写権”のようなルールがあり、新たにコピーを作って売り出すのは法律に抵触するらしい。

 銭丸は「売らずに“読むだけ”の形ならOKだろ?」と確認し、問題ないと判明。これで貸本&閲覧ビジネスができそうだ。

 ひかりが念入りに契約書をチェックし、倉庫担当官に使用料と保管方法の条件を取り決める。



 場所はどうするか――。

 街の一角にあった“空き家”が目に留まる。以前は雑貨店だったが、今はオーナーが引退し、しばらく放置されていた建物らしい。立地はそこそこ良く、玄関を少し改装すればカフェスペースも作れそうだ。


「メルティナやバルドにも手伝ってもらおう。簡易厨房を設置して、ドリンクや軽食を出せばいい」

「大丈夫? ドリンク関連は前に屋台で爆死して……」

「そこは気をつけるさ! 魔石を使った冷却装置はやめて、普通に氷精霊行商から氷を仕入れよう」


 こうして、“貸本カフェ(仮)”の準備が着々と進む。

 メルティナも「危険な薬品を使わないなら手伝う!」と久々に表に出てきて、大工仕事を手伝ってくれる。店内の壁に本棚を並べ、長机や椅子を置き、少しだけ落ち着いたカフェ風の内装に。


「おお、何かすっきりしてるな。防具や石鹸を作るよりも、ずっと平和だ……」

 銭丸は妙な安堵を感じながら、コーヒーに似た“ロースト豆の煮出し飲料”や、レモラ果汁入りジュースを小メニューとして用意することにした。

 当然、衛生と腐敗は気をつけるが、ドリンクのみなら在庫リスクは小さいだろう。あとは“本”をいかに集めるかがカギだ。



 ギルドから借りる分の書籍・資料だけでは数が限られている。そこで銭丸は、街中の個人蔵を当たってみる。貴族や商人の中には自前のコレクションを抱え、使いこなせていない人もいるはずだ。


「不要な魔導書や地誌、その他いろんな読み物を“置かせて”くれませんか? うちの店に貸し出していただき、一定の使用料をお支払いします」

 いわば“ブックシェア”のような仕組みである。

 これが予想外の反響を呼ぶ。「部屋を圧迫していた本が金になるならありがたい」と、多くの人が持ち込みを申し出てくる。

 ひかりが一件ずつタイトルを確認し、「使用契約」を作成。銭丸はそれを本棚に並べ、“閲覧は一回大銅貨2枚、貸出は不可”というルールを打ち出す。


「これなら、古文書が傷まないように管理もできるし、閲覧料金で儲かる。いい感じじゃねえか」

「うん、予想以上に本が集まったね。凄い量だよ」


 気づけば棚が5つほど埋まり、冒険者向けの“怪物図鑑”や“魔導入門”、歴史好きが喜ぶ“古戦争史”、さらには“大商家の繁盛記”や“詩集”まで揃ってきた。

 これをPRして、いよいよカフェを開店すれば、知的好奇心のある人が集まるに違いない。



 オープン当日、店の名は《金雷亭・ブックラウンジ》とした。屋台で培ったブランド“金雷亭”の名前をまだ捨てられない銭丸らしさである。

 朝から立て看板を出し、「新感覚! 読書×カフェ ギルド書庫の資料もここで読めます」と宣伝すると、冒険者ギルドの若手や魔導士見習いが面白がって集まりはじめる。

 さらに商人や富裕層の子女も、「珍しい本が読めるらしい」と聞きつけて来店。最初は遠巻きだったが、店内を覗き込むうちに結構な人数が列を作った。


「お、おい、まさかこんなに混むとは……」

 カウンターでドリンクを注ぎながら、バルドが目を丸くする。元山賊の彼だが、今は雑務担当として奮闘中。店内を少し歩けば、あちこちでテーブルが埋まり、読書に没頭する客が立ち並んでいる。

 ひかりが、難しそうな魔導書を覗き込む客に「資料が汚れないよう手袋を使ってくださいね」と声をかけ、メルティナは「コーヒーのおかわりどうぞ!」とまめに回る。


「いいぞいいぞ、トラブルの臭いがしない。平和だ……」

 銭丸はほっと胸を撫でおろしながら、お会計を繰り返す。閲覧料金(大銅貨2枚)×客数、さらにドリンク代や軽食代が加算されて、売上は悪くない。

 これなら魔石爆発や腐敗リスクもほぼゼロで、安定収益が狙えそうだ。



 ──ところが、油断は禁物。

 開店3日目、店内は相変わらず盛況だが、ある客が「ねえ、これ貸し出しはできないの?」と尋ねてきた。銭丸は契約上「貸し出し禁止」と答えるが、どうやらその客は“どうしても持ち帰りたい本”がある様子だ。

 さらに、魔導士志望の若者が「ここで勉強するには場所が狭いし、何日も通うの大変」と不満を漏らす。

 また別の客からは「閲覧料が高い!」「もっと気軽に読めないのか」と文句が出はじめる。

 それでも銭丸は「ビジネスだから仕方ない」と割り切ろうとしていたが、ある日、店にやって来た貴族の若者がコッソリと“高価な古文書”を盗もうとしたことが発覚する。


「お、おい、そこにある古い巻物……勝手にカバンに入れてないか?」

「い、いや、これはその……」

「出せコラ!」


 バルドがガッと掴みかかる。

 どうやら、その古文書はギルド倉庫からの借用品で、希少価値が高い上に転売すれば莫大な金になりそうだ。

 揉め事に騎士団員が介入し、何とか盗難未遂は食い止めることができたが、ギルドからは「本の管理が甘い」と釘を刺されるし、貴族からは「侮辱された!」と恨み言を言われる。

 店の客たちも、ちょっとした騒ぎに驚いて帰ってしまう。


「……うわぁ、面倒くせえ」



 さらに、別の日には“怪しい客”が来て、魔導研究所の論文らしき本を漁ってメモを取る姿が目撃された。どうやらスパイまがいの者が研究情報を盗み見しているのかもしれない。

 店側は「メモまでは禁止していないし……」と困るが、魔導研究所からは「我々の研究を勝手に外部に漏らすな」と苦情が寄せられる。

 結局、銭丸は「研究所側の要求に従い、一部の本に関してメモ禁止にせざるを得ない」と店の規約を改訂。これは客の反発を招く。


「閲覧はいいけど、手書きのメモもダメって……どうやって内容を覚えろってんだ」

「うちは情報漏洩が怖いんですよ。書き写しはダメ!」


 ひかりが必死に説明するが、客の中には不満を爆発させる者も。新ビジネスならではの“管理ルール”がまだ確立されておらず、アチコチで小競り合いが起きる。

 それでも銭丸はなんとかトラブルを抑え込もうと奔走する。しかし、これが思わぬ大事故につながった。



 ある夜、店の閉店間際に“ふらりと”入ってきた黒ローブの人物がいた。痩せぎすで目つきが鋭く、背中に杖を背負っている。おそらく魔導士系の人間だろう。

 受付に立っていたひかりが「すみません、もう閉店……」と声をかけると、男はスッと手を掲げて小声で何か唱え始める。

 すると周囲の空気がビリビリと震え、明らかに攻撃魔法の気配が漂う。


「えっ、や、やめて! ここで暴れたら大変なことに……!」

 しかし男は聞く耳を持たず、何らかの呪文で店の書棚を一斉に浮かせはじめる。魔石を用いた魔力回路が軋む音がし、床に設置された魔道具も反応しだす。


(こいつ、何者だ? 本を強奪する気か? まさか“禁書”を探してる……?)

 銭丸が慌てて止めに入ると、男が不気味に笑う。


「我が導きし魔導の道具よ……全てを破壊し、秘文を解放せよ……!」


 ごちゃごちゃした呪文の応酬とともに、店内にあった小型の魔導照明が一気にショートし、ばちばちと火花を散らす。しかも魔石は電池みたいな存在なので、電気的暴走が広がっていく形だ。

 まさか“閲覧禁止本”に記されていた古代呪文を使い、魔石の制御回路を破壊しているのかもしれない。


「まずい! このままじゃ電撃が……」

 ひかりやバルドが必死に逃げる中、銭丸は男を取り押さえようと飛びかかる。しかし、男は魔力を弾けさせ、天井にまでショートの火花が連鎖する。

 壁沿いに積んであった書籍や文献は次々に炎上し、店内が一瞬で火の海。


「うぎゃああっ……また火事かよ!?」



 パチパチと燃え上がる書棚、悲鳴を上げる客たち。

 黒ローブの男は炎の中で何やら叫んでいたが、真っ先に崩落した木材を浴びて倒れ込む。銭丸も途中まで必死に消防作業を試みるが、店の構造自体が古く、火勢はあっという間に広がった。

 外から駆けつけた近所の人が水を掛け始めるが、魔石がショートするたびに小爆発を起こし、悪循環に。

 結局、金雷亭・ブックラウンジは十数分で全焼し、そこにいた銭丸は天井の崩落に巻き込まれて生き埋めとなる。


「ぎゃ……あああっ! 天井が……痛ぇっ!」

 柱が崩れ、折れた梁が銭丸を直撃。そもそも大量の書籍が燃え盛る現場で逃げられず、最期に意識が遠のくのを感じながら叫ぶ。


「カネは裏切らない……女はたまに裏切る……本は……爆死ッ!!」


 こうして、“平和なサービス業”を狙ったはずの貸本カフェビジネスもまた壮絶な結末に終わった。

 大半の蔵書が焼失し、ギルド倉庫が怒り狂い、書籍所有者からも賠償請求が殺到。毎度おなじみの惨事である。

 果たして銭丸はどこまで行っても爆死体質なのか……。そんなツッコミが飛び交うなか、都市の住民たちは呆れと同情を抱いて、焼け跡に目をやるのだった。

挿絵(By みてみん)

読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、よろしくお願いいたします!

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