第4章「防具リフォームで富裕層ファッション革命」
初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!
よろしくお願いいたします。
前回、石鹸ビジネスの大失敗で倉庫を泡まみれにして爆散しかけた黒峰銭丸は、無事に(?)生還したものの、またもや借金や賠償問題を抱えるハメになっていた。
懲りない男は、いつもどおり懲りずに次のビジネスを探し始める。
「カネは裏切らない。女はたまに裏切る。石鹸は……爆死ッ!!」
そう呟いた翌日、彼はさっそく行商の資料をひかりと共にひっくり返していた。
「さて、石鹸騒動で痛い目を見たし、今度は何をやろうかな……。食い物系はしばらく自粛だ。衛生や腐敗リスクばっかりだし」
「うん、保管や流通が大変だよね。じゃあ雑貨……防具とか、冒険者向けのアイテムは?」
水無瀬ひかり。ギルド受付嬢兼、銭丸のビジネスパートナー。彼女も石鹸倉庫爆死騒ぎの被害者だが、諦めずに新しい商売を考えている。
「防具ね……考えてみりゃ“魔物対策の防具”は需要が尽きないはずだ。冒険者や傭兵、さらには貴族の護衛騎士とか」
「うん。でも、普通の防具職人がいっぱいいるじゃない。そこに付け入る余地あるかな?」
ひかりの疑問に対して、銭丸はニヤリと笑って指を立てる。
「あるんだよ、ファッション性だ。どいつもこいつも実用一本槍のゴツい鎧ばっかりだろ? だが、この世界には“富裕層の見栄”を満たすおしゃれ防具がまだ無い。そこを狙うんだ!」
◇
さっそく銭丸たちは、街の防具職人ギルドへ足を運んだ。人口3〜5万人規模のこの都市では、それなりに大きな防具工房が並び、冒険者ギルドや傭兵ギルドと取引している。
「はあ? 鎧をド派手に飾り立てて売りたい、だと……?」
職人ギルドの親方が眉をひそめる。
「そうそう。防御力はそこそこ維持しつつ、見た目をゴージャスに仕上げるのさ。貴族や金持ち騎士向けに高額で売れるぞ」
銭丸が勢い込むと、親方は呆れた顔で答える。
「こちとら実戦向けを作ってるんだよ。余計な装飾を付けりゃ重くなるし、脆くなるリスクもある。そんなもん誰が買うんだ?」
「買うんだよ! “金持ち”はね! しかも魔石の小粒でも埋め込めばピカピカ光るぞ? どうだ、親方。俺と組んでみないか?」
親方はしばらく腕を組んで考え込んだあと、「まあ実験的に少量なら……」と渋々承諾。
銭丸はこれ幸いと、追加で衣装デザイナーを雇い、いわゆる“リフォーム防具”の開発を始める。ひかりが経理台帳を握り、徹底的にコストを試算。職人ギルドと分配率を取り決める。
「これ、もし材料費が高くても、超高額で売れるなら利益デカいね」
「その通り。ほら、さっそくサンプルを作るぞ!」
◇
新たに組んだチームは、まず“プレート鎧”の胸部にレリーフを彫り、そこに魔石の微粉末を混ぜた塗料を塗る。これで光沢や色味が変わり、光の加減でキラキラ輝くように仕上げる算段。
さらにエッジ部分に金属装飾を施し、ヒラヒラのマントや、いかにも“おしゃれ貴族”が好みそうなトゲトゲアレンジを追加する。
「でも、こんなの実際に使ったら動きにくいかも……」
ひかりが苦笑する。
「そこは“実用”より“見た目”重視だからな。あくまで権威アピール用さ。飾り鎧みたいなもんだ」
「貴族のお披露目会とか、騎士団の式典とか……なるほど、需要はあるかも」
意外にも、職人たちがこの“芸術的”改造にノってきた。むしろ長年「頑丈さ」だけを追求してきた彼らには、新鮮なチャレンジらしい。
それでも、魔石塗料の取り扱いだけは慎重。魔石は一応エネルギー源なので、扱いを誤れば反応して熱を持ったり、稀に暴走して爆発するリスクがある。
「大丈夫かよ。薄く塗るだけでも危険はあるんじゃ……」
ひかりが不安げに聞くと、職人の一人が「塗料用に極度に希釈してるから、問題ない」と胸を張る。
銭丸は(毎回こうやってフラグが立つんだよな……)と思いつつも、儲かるならオールオッケーと割り切った。
◇
完成した試作“ファッション防具”は、メタリックな輝きの中に宝石のような光彩が浮き上がり、かつマントやフリルがついて豪華絢爛。
ひと目見たギルドの仲間たちも「これは……ド派手すぎる」「実戦には向かないな」と苦笑するが、銭丸は自信満々だ。
「よし、さっそく売り込み開始だ! まずは貴族のソフィアさんや、騎士団の上層にも声をかけるぞ」
ソフィア・リュミエール。没落貴族の家系だが、今も人脈を持ち、ギルドにもある程度口を利ける存在。銭丸が彼女の“信用保証”を得ている関係もあり、さっそくアプローチしてみる。
「……ええと、ファッション重視の鎧、ですの? あまりに下品ではないかしら」
ソフィアは最初渋い顔をするが、いざサンプルを見せると、そのギラギラ感に小さく目を見張る。
「この宝石のような輝きは……魔石を練り込んでいるのですね。確かに式典やパレードなら目立ちそうですわ。騎士団長などが自己顕示したいなら買いそう」
「でしょう? しかも、着たまま馬車に乗るとインスタ映え……じゃない、視線を独り占め!」
ソフィアは苦笑しながら「まあ、お好きにどうぞ」と素っ気なく去ったが、内心「売れそうかも」と睨んでいるようだった。貴族や富裕層の見栄を知り尽くす彼女にとって、この鎧は“いかにもウケる層がいそう”とわかるのだろう。
◇
次に銭丸は騎士団関係者や大商人にも声をかける。
「権威ある場で目立ちたいなら、ぜひこの“ゴージャス防具”を」と売り込むと、意外にも反応は悪くない。「実戦用にはちょっと……」と苦笑する者が多いが、式典や凱旋パレード、あるいは領主への謁見などでは映えそうだ。
しかも、1着あたりの価格をあえて高めに設定することで、“富裕層しか買えないステータスシンボル”というブランディングに成功。短期間で3着ほどオーダーが入った。
「おおっ、やっぱり金持ち相手の商売が一番効率いい!」
銭丸は手持ちの銀貨が増えてきた感触にテンションを上げる。まだまだ先行投資のほうが大きいが、ここで軌道に乗れば在庫リスクも少なく、大きく儲けられるはずだ。
ひかりも「うん、今回は腐ったりしないし、保存場所も取らない。意外と安全かも」と微笑む。
◇
ところが、順調な話には落とし穴がつきもの。
ある日、職人たちが仕上げた“豪華フルプレート”を確認中、やけに熱を持っているパーツが見つかった。塗った魔石塗料が想定以上に反応し、じんわり発熱しているようだ。
作業場の親方が血相を変える。
「おい、どうなってんだ? このパーツ、触ると熱いぞ……もしかして塗料の濃度が濃すぎたんじゃないか?」
「ま、まさか。俺たちが計算したとおり希釈したはず……」
誰かが計量をミスしたのか、魔石自体の品質に問題があるのか。あやしい不安要素が発生したが、塗った箇所をサンドペーパーで削れば一応熱は収まるかもしれない。
親方や職人たちは急ぎ修正作業をするが、「何だか溶けかけてる部分が……」という声があちこちから上がる。ひかりが顔を青ざめて言う。
「ちょっと……これ、大丈夫? 防具が半分溶けたりしないわよね?」
「溶けたら防具じゃねえ!」
「とにかく納期に間に合わないとヤバいだろ。顧客は騎士団長だぞ……仕方ない、ちょっとゴリ押しで塗料を上塗りしてごまかすか」
銭丸は(嫌なフラグだな)と思いつつも、今さらキャンセルはできないので、応急処置で塗料を再調整。危険度を下げるために“魔力中和剤”を配合して誤魔化す。
こうして納品当日――騎士団長が取りにやって来たのだが、鎧の試着をしてみると確かに見栄えは素晴らしい。重厚な金属の上に宝石のような輝きが漂い、超高級感がある。
「これは……凱旋パレードにぴったりだな! いい出来じゃないか、銭丸」
「へへっ、ありがとうございます。付属のマントや剣鞘もどうぞ!」
騎士団長は大枚の金貨を支払い、意気揚々と馬に乗って帰っていった。
◇
そして、数日後。
街の大通りで、騎士団の凱旋パレードが行われるという噂が飛び交う。何か大きな魔物を討伐して帰還したらしく、都市同盟内でもそれなりに注目されているらしい。
銭丸は観客の一人として見物に出かけていた。彼の“ファッション防具”が本番でどう映えるか、しっかりアピール材料にしたい。ひかりやバルドも同行。
「うわぁ、ほんとに人が多いね。これって大イベントだよ」
「そうだ。特に都市同盟では、凱旋パレードは貴族や領主クラスの顔見せでもある。ここで俺の鎧が大々的に目立つ。そしたら注文殺到間違いなし!」
「しかし、あれだけ魔石を塗りたくったんだ。ちょっとした舞台装置だな……」
バルドが呆れつつも楽しそうに笑う。
ほどなくして、ラッパの音が響き、騎士団長を先頭とする行列が大通りをゆっくり進んできた。馬にまたがった騎士団長は自慢の“豪華鎧”を着込み、胸を張っている。
陽光を浴びると鎧がギラッと輝き、通りの人々がどよめいた。
「すげえ……!」
「宝石みたい……あれ、すごく高そう……」
銭丸はニンマリ。これなら間違いなく宣伝効果抜群だ。しかし、その時、騎士団長が微妙に胸元を気にしている仕草が見えた。
よく見ると、鎧の胸当てがほんのり湯気を立てている気がする。まさか発熱トラブルがぶり返してきたのか? 嫌な予感が銭丸の背筋を走る。
「おいおい……あれ、まさか……」
案の定、騎士団長の顔がみるみる赤くなる。どうも胸や背中が熱を帯び始めているらしい。パレードは進行中だが、騎士団長は耐えきれず手で鎧をバンバン叩く。
「ぐっ、な、なんだこれ……熱い……!」
「団長どうされました!?」
「おおおっ、あ、熱いぞ……!」
観客が戸惑うなか、鎧の表面から怪しい光がにじみ始める。胸の宝石レリーフがびりびりと振動し、かすかに蒸気が噴き出ているようにも見える。
騎士団の部下が慌てて駆け寄るが、騎士団長は「脱がせろ……早く……!」と苦悶の声をあげる。しかし、装飾に凝りすぎたせいで外すのに手間取る構造になっており、簡単に脱げない。
「これが……俺のやり方が裏目に出たのか……」
銭丸が青ざめる。案の定、通気性のない魔石塗料が日光を浴びて活性化し、内部で軽い魔力回路が起動してしまったのかもしれない。
「ぎゃあああっ!」という絶叫とともに、鎧がパキンとひび割れたかと思うと、まさかの爆縮(小規模)を起こす。
ドォン! という鈍い衝撃波に伴い、熱風が周囲に広がる。観客が悲鳴をあげ、騎士団員たちが吹き飛ばされ、馬も驚いて暴れ出した。
「うわああっ……!」
銭丸は馬に突き飛ばされて地面を転がり、顔を上げたときには鎧のほとんどがボロボロに割れ、騎士団長が昏倒している。しかし血まみれというわけではなく、辛うじて大怪我は免れた様子。
だが、その爆縮余波で通りにあった街灯や露店が巻き込まれ、二次混乱が起こる。バルドが必死に人々を誘導し、ひかりも「救護を呼んで!」と叫びながら右往左往。
そして“犯人”扱いされるのは当然、鎧を納品した銭丸だ。
「てめぇ、なんてモン売りつけやがった……!」
「ううっ……ちょ、まっ、馬が……ぎゃっ!」
銭丸は人混みに踏まれながら、わずかに意識が遠ざかっていく。さらに暴れ馬が思い切り蹴りを見舞い、彼の背骨を砕いたかのような音が響く。
「あーあ……またかよ……」
最後の意識の中で、銭丸は自嘲の声を出す。
魔石塗料が引き起こした過熱・暴走によって、一瞬にして華々しいパレードが惨事に早変わり。
ギルドや貴族から多大な賠償請求が来るだろうし、騎士団長は激怒必至。
なにより、銭丸自身がいつものごとく大ダメージ……いや、ほぼ爆死扱いだ。意識が薄れる中、わずかに口元が動く。
「カネは裏切らない……女はたまに裏切る……防具は……爆死ッ!!」
こうしてまたしても、彼は“豪華防具ビジネス”で派手に散った――。
読んでいただきありがとうございます。
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