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第31章「税制リベンジで爆死!? 内乱の街に舞い戻った男」

 「なあ、ひかり。あの騒動、まだ続いてるみたいだな……でも、だからこそチャンスじゃないか?」


 黒峰銭丸は、王都近郊の小さな宿でひっそりと顔をのぞかせながら、いつものように無茶な笑みを浮かべていた。前回の国税改革騒ぎによって王都が内乱状態になり、財務官や改革派が大ダメージを受けたはずだが、彼は相変わらず生き延びているらしい。水無瀬ひかりは疲れた顔で書類を広げている。


「一度あれほど派手に失敗して、国中が混乱に陥ったんですよ。今から税制をどうこうしても、誰も聞いてくれないんじゃ……?」


「いや、それでも“税”は国の根幹だからな。バラバラになった徴税と財政を立て直せば、まだ逆転の余地はあるってことさ!」



 前回の爆発後、王都は一部の貴族が実権を取り戻して旧来の税制を再導入しているものの、内戦の余波で経済はズタズタだ。治安も悪化し、住民は疲弊している。そうした状況を眺めた銭丸は「小さい派閥でも味方につけて再挑戦すれば、むしろ立場が強くなる」と読み、再び動き出す。


「今なら王子や改革派が弱ってるからこそ、“救いの手”を差し伸べれば乗ってくる可能性があるんだよ」


「正直、またドロ沼に足を突っ込む気しかしませんが……」


 ひかりは呆れながらも、銭丸の根回しに付き合う形で書類を整える。バルドとメルティナは半ば呆然としつつも「今度こそ生きて帰れるんだろうな」と渋々協力を続ける。



 銭丸が探ったところ、王都周辺には元・改革派が集まる“臨時の財務官事務所”が立ち上がっているらしく、王宮には近寄れなくとも、そこで新たな案を練り直しているという。彼はひかりと連れ立って訪問し、**“新々・税制プラン”**をぶち上げてみせた。


「貴族を完全に敵に回すのではなく、一定の負担を求めつつインセンティブを設ければ、旧来貴族も多少は歩み寄るかもしれない――この『段階課税+投資優遇』でどうでしょう?」


「ふむ、前回よりは緩い条件だが、これなら貴族たちも耳を貸すかも……」


 元・改革派官僚が食い入るように書類を読み、感心したように言葉を漏らす。今の状況を放置すると王都の財政が破綻するのは目に見えており、なんとか対話できる落としどころを探しあぐねていたようだ。



 こうして新々・税制プランが練られ、関係者に配布される。ギルドからも「これなら前回ほど急進的じゃないので、衝突が少ないかもしれない」と期待の声が上がる。銭丸はさっそく出資者を募り、コンサル費用や事務所運営費を集め始めた。


「もしこれが成立すれば、俺はこの国の財務を実質牛耳れるわけだ。出資者への見返りもデカいし、前回の失敗なんか一気に巻き返せる!」


「また危ない賭けを……まあ、誰もやらないなら銭丸さんがやるしかないですね」


 ひかりは苦笑しつつ、投資ファンドに警告の一文を入れる。「万一爆発的事件が起きても、当方は責任を負いかねる」と書き足したが、あまり意味はなさそうだ。



 何とか合意を取り付けるため、銭丸は旧来貴族たちとも話をしようとする。今回は「あなたがたにもメリットがあるプラン」に仕立てているため、一部の温厚派が興味を示し始めた。かつて内乱を引き起こした強硬派は勢力を失いつつあり、今こそ妥協できる余地がある――そう読み込んだのだ。


「我々としては、あまり急激な変化は望まぬが、国が破綻しては困る。どこかで妥協できるなら、話を聞こう」


「ぜひ。貴族も農民も、互いに負担を分かち合えば、安定した財政基盤が築けます」


 上手くいけば内乱の鎮静化と財政再建の両方を実現できそうな雰囲気が漂い、銭丸自身も「今度こそ爆死フラグは回避だ」と鼻息を荒くする。



 しかし、問題は一枚岩でない旧来貴族の間に、“陰で暗躍する利権派”がまだ存在することだった。彼らは改めて銭丸や改革派の台頭を恐れ、密かに妨害工作を計画する。前回のような武力衝突は避けたいが、裏から足を引っ張り、改革を頓挫させようと目論んでいる。


「どうやら貴族の一部が、『裏』で俺たちを始末しようと動いてるって話を聞いたが……気にしすぎかな」


「気にしなかったらまた爆死ですよ。警備を強化しましょう」


 バルドはさっそく護衛を増やすが、何者かが事務所に潜入し、資料を盗み見たり、銭丸の動向を探ったりしているという噂が後を絶たない。



 それでも新々・税制プランの最終合意が近づき、かつて荒れた街の雰囲気も少しずつ落ち着きを取り戻しかけていた。銭丸は「あと一歩で正式調印だ」と上機嫌に書類をまとめ、王都の仮事務所で署名式を準備。ひかりが最終チェックをして「本当にここまでこぎつけられるなんて奇跡」と驚くほどだった。


「よし、調印式が終われば、ここの財政も落ち着いて、内乱状態も解消……そしたら一気に儲けが回ってくる!」


「こんなに順調だと、逆に怖いですけど、これで平和的に終わるなら何よりです」



 調印の日。銭丸たちは旧来貴族の温厚派や改革派官僚、さらには商業ギルドや王子代理を集め、王都外れにある比較的無傷の公会堂に集合する。大きなテーブルを囲み、新々・税制案の条文に順次署名をしていく。

 拍手も起こり、記念の写真(魔導映像)を撮ろうという段になって、突如背後の壁が爆発した。公会堂の隠し部屋に仕掛けられていたか、あるいは誰かが魔導爆弾をセットしたのか――轟音とともに一面が破壊され、瓦礫と煙が室内を包む。


「うおああっ! 何事だ……!?」


「爆弾だ! 逃げろ!」


 署名を済ませようとしていた人々が悲鳴を上げ、テーブルをひっくり返して四散する。さらにもう一つの爆発が続けざまに起こり、天井に亀裂が走る。銭丸は慌てて身を伏せるが、頭上から崩れ落ちる梁にぶつかり、そのまま吹き飛ばされる。


ドオォン……!!


 灰色の煙と瓦礫が公会堂全体を襲い、一部の床が崩れ落ちて地下へと転落しかける。人々の叫びと衝撃音が混ざり合い、収拾がつかない地獄絵図が形成される。



 銭丸は瓦礫の一角に押しつぶされながら、血混じりの声を吐く。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。税制リベンジは……爆死ッ……!!」


 叫び終えるか否か、三度目の誘爆が発生し、公会堂の屋根が完全に崩落。激しい粉塵と炎により、室内にいた者たちは散り散りになり、銭丸の姿は煙の奥へと消え去る。



 翌日、あの調印式は跡形もなく破壊された公会堂だけを残し、またしても国税改革は頓挫。今度こそ和平と共存が実現する寸前にテロまがいの暴力が炸裂し、再び王都には混乱が広がる。改革派と旧来貴族は互いに疑心暗鬼に陥り、誰が仕組んだ爆破なのかも定かではない。

 人々は「まさかまた銭丸が巻き込まれるとは……あれじゃ助からないだろう」と噂しつつも、彼がなんともしぶとく甦ってくる姿をこれまで何度も見てきたため、完全には信じきれない。

 こうして、前回の失敗をリベンジするはずだった税制改革もまた、凄まじい爆破で破綻し、議論する間もなく散ってしまった。大勢の重傷者と焦土を残し、いつものように銭丸は行方不明。もし再び姿を現すとしたら、果たしてどんな顔で「カネは裏切らない」と言うのだろうか――誰にもわからないが、そんな“爆死の男”だからこそ、いつかまた帰ってきそうな気配が漂うのだった。

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