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第20章「都市を巨大モール化!? ショッピング天国の悪夢」

 「街ってのは、人が集まりさえすれば金が動くんだ。だったら、まるごとモールにしてしまえばいいじゃないか!」


 黒峰銭丸は、古い地図をテーブルに広げながらにやりと笑う。ここはレオンハルト王国の中規模都市〈カルディア〉。一見、活気があるように見えるが、旧市街は空き家や空き店舗が目立ち、経済が停滞しているとも言われていた。


「都市まるごとモール化って……また極端なことを。そんな計画、本当にできるんですか?」


 水無瀬ひかりが、帳簿とメモを手に困惑気味に問いかける。銭丸のビジネスに付き合い続けて久しいが、今回の発想はとりわけぶっ飛んでいるように思えた。


「できるさ。空き家だらけの旧市街を全部買い取って、店舗や施設を詰め込む。各種娯楽も設置して、ここに来れば何でも手に入る――そんな“巨大ショッピング街”を作るんだよ」


「でも、そのための資金は……」


「出資を集めた。ソフィアも少しは協力してくれたし、投資ファンドで『一口いくら』とやったら、結構集まった。市長も観光客が増えるなら歓迎だって言ってるしな」


 銭丸は自信たっぷりに言うと、地図を指さしながら「この区画を一括開発だ」と宣言する。バルドは口を挟まず腕を組んでいるが、「まあ無茶に変わりはない」と言いたげな顔をしていた。



 都市モール計画は、旧市街の建物を大量に買い取り、もしくは借り上げて大改修するところからスタートした。古くからの居住者には立ち退き補償を用意し、余った区画はすべて“商業スペース”として再利用する。小売店、飲食店、専門店、魔導具店……あらゆる業態に出店を呼びかけた。


 加えて、娯楽施設として映画(魔導映像)館やアミューズメントエリアも構想。広場には屋外ステージを設け、イベントや公演で客を引き込む。銭丸の考えでは「店が集中すれば自然と人も集まり、そこに金が落ちる」――理屈としては間違っていない。


「交通インフラも整えましょう。馬車用の駐車場が足りないなら、多層式に拡張して……」


「おお、いいな。駐車場だって有料化すれば収益になる!」


「いや、あんまり強気の料金を設定すると客離れしますよ」


 ひかりの助言を受けながら、銭丸は“商機”を広げようとひたすら前向きだった。



 やがて改装工事が本格化し、旧市街は毎日のように工事音が響き渡った。道幅を拡張し、魔導石を敷き詰めて舗装を整える。建物の外壁を明るい色に塗り替え、看板を取り付ける。モールのメインゲートには大きなアーチが建設され、「カルディア・メガモール計画」と銘打たれた横断幕が揺れていた。


「できるだけ安全対策を忘れずに。火災対策とか、避難経路を確保すること……」


 ひかりが設計書類に目を通す。だが、規模が大きすぎるため、すべてを完璧にチェックするのは困難だ。バルドは力仕事や警備をこなしつつ、工事現場でのトラブルを抑えるのに必死だった。


「まったく、今度はデカすぎる仕事だぜ……。また何か起きなきゃいいんだが」


 バルドがぼやいているころ、銭丸は地元の商人や新規出店希望者に挨拶回りをしながら「夢のモールが完成すれば客が殺到して大もうけ間違いなし」と吹聴し、さらに投資を引き込んでいた。



 数か月の突貫工事を経て、旧市街はすっかり生まれ変わった。区画ごとにエリア名が付けられ、各種ショップや娯楽施設が並ぶ。中央広場には噴水や休憩スペースが作られ、メインストリートは魔導ライトで夜も明るい。すれ違う人々の多くは「大掛かりだけど、結構いい感じだ」と口を揃えていた。


 ついにグランドオープンの日。銭丸は市長やギルド関係者と共にテープカットの儀式を行い、「カルディア・メガモール」の門を開く。朝から地元客や近隣都市の人々が押し寄せ、店は大忙し。飲食店は行列ができ、雑貨やファッション、魔導具ショップも売り上げが跳ね上がる。


「はは、見ろよひかり! あちこち人でごった返してる。大成功じゃないか!」


「確かにすごい人です。出店側も満足そうですよ」


 ひかりも驚くほどの盛況ぶり。投資家や商人たちが笑顔で握手を交わしている一方、モールの管理側(銭丸ら)は客数増加に合わせて安全対策やトラブル対応に追われていた。


「案内所が混雑してるみたいだけど……バルド、どう?」


「ギリギリさばいてるが、客同士のトラブルが多い。道に迷う奴もいるし、店同士の取り合いもある。想定以上だ」


「仕方ないな。もう少しスタッフを増やすしかない」


 銭丸はそう言いつつ、目を輝かせて売上集計を眺める。確かに非常に大きな収益が見込めそうだった。



 しかし、オープンから数日経つと、急激な拡張ゆえの歪みが浮上する。たとえばゴミ処理の問題。大量の客が出入りするため、廃棄物や食品ゴミが膨大になり、回収が追いつかない。通路にあふれる廃材や段ボール、魔導具の空き箱などが山積みになる。


「このままじゃ衛生面が心配です。火災のリスクも高いですよ」


「わかってる。清掃業者を増やしたいが、人手が足りないんだ」


 銭丸は急ぎ、人員を増やそうとするが、モール内の飲食店でアルバイトをする若者たちが集まってしまい、清掃要員はなかなか集まらない。運営本部は行き届かず、あちこちで「ゴミが山積み」「変な臭いがする」と苦情が出始める。



 さらに、魔導具ショップや娯楽施設でのトラブルも増加する。新製品の魔導ランプが熱を持ちすぎてショートしたり、ゲームコーナーの精霊映像装置が誤作動して映像が暴走したり。施設全体の空調システムも設計が甘く、一部エリアが蒸し風呂のように暑くなる。


「設備が間に合わない……。メルティナが一部を調整してるが、彼女一人じゃ限界がある」


 バルドが疲れきった声で報告する。銭丸は焦りつつも「大丈夫、客足はまだ増えてるから」と自らを鼓舞する。売上を稼ぎさえすれば対応費も出せると考えていたが、急増するトラブルが追いつかないまま蓄積していった。



 ある夜、モール中央の広場でイベントステージが行われ、大勢の客が集まる。パフォーマーたちが華麗な曲芸や魔導花火を披露し、拍手喝采を浴びる。銭丸は最前列で視察しながら「客単価をもっと上げられそうだな」などと計算をしていた。


「このステージ、火器の取り扱いは注意してくださいね。魔導花火は過去に暴走した例もあるんですから」


「わかってる。ちゃんと認可品を使ってるはずだ」


 ひかりの心配をよそに、ショーは派手に盛り上がる。炎や花火の演出が映え、観客も酔いしれる。ところが、その真っ只中で、ちょっとした操作ミスから花火玉が不規則に飛び出し、舞台脇の装飾品に引火してしまった。


 ぱちぱちと小さな火が上がり、スタッフが慌てて駆け寄るが、会場には紙製の飾りや看板、魔導布があちこちに飾られている。火が一気に燃え広がり、炎は背景セットを巻き込んで爆発的に燃え上がった。


「うわあああっ! 火事だ!」


「逃げろ! ステージが崩れる!」


 観客がパニックで押し合いへし合いになり、会場周辺でトラブルが連鎖する。倒れた照明が配線をショートさせ、スパークがほかのエリアにも飛び火。もともと溜まっていたゴミや廃材が燃えやすい材料となり、モール内の数区画がわずか数分で炎上し始めた。


「バケツリレーだ! 消火魔法は?」


「人数が足りない! 客を避難させろ! ぎゃああっ!」


 関係者が必死に動くが、この広大な“都市モール”全体を覆うほどの火災を止める手立てはなかった。あちこちで炎がつながり、店舗のガス管や魔力炉にも引火して次々と爆発。悲鳴と怒号で地獄絵図と化す。


「くそ……こんなの聞いてないぞ……!」


 銭丸は混乱の中で逃げ惑いつつ、客の誘導を試みるが、人ごみに押され、転倒してしまう。視界の先には先ほどまで華々しく輝いていた店舗街が激しく燃え上がっており、さらに天井のように組んだ構造材が崩落していた。


「早く消火を――って、そっちからも火が……!」


 ひかりの叫ぶ声が聞こえたが、煙と爆音でかき消される。連鎖的に起こる爆発がモール内部の魔導具倉庫にまで到達し、大規模な二次爆発を巻き起こす。


 ドオォン……と凄まじい衝撃が走り、建物が揺れた。支えの柱が破断し、複数の棟が連鎖倒壊を始める。瓦礫と炎が荒れ狂う中、銭丸は大きな破片に直撃され、床へ叩きつけられた。


「ぐあああっ!」



 翌朝、そこに残っていたのは廃墟と化した“都市モール”の無惨な姿だった。総面積の大半が焼失し、一部エリアは崩落で廃ビル同然。避難した客や店主たちが呆然と瓦礫の山を見つめ、出資者は途方に暮れている。


「こんなにも盛況だったのに、一夜で灰になってしまうなんて……」


「保険はどうなる? 店も商品もなくなった……」


 人々が絶望の声を上げる中、黒峰銭丸の行方は分からないまま。大火災と爆発の真っ只中にいたため、誰もが「あいつはもう死んだのだろう」と口をそろえる。

 だが、崩れた看板の下から、すすまみれの男がかすかに動いたという証言もあった。深い瓦礫の下で聞こえたという断末魔に似たセリフ――


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。都市モールは……爆死ッ!!」


 その声が本当に銭丸本人のものか確かめる前に、炎が再び上がり、周囲は煙に巻かれた。もしかすると奇跡的に生き延びたかもしれないが、今のところ何も分からない。

 こうして壮大な“都市まるごとモール化”というビジネスは、短い夢のような成功を見た後、総崩れの火災と大爆発で終わりを迎えた。灰になった店舗群と、大損害を抱えた投資家たちだけがその爪痕を物語っている。


 ――それでも銭丸は、どこかで次の儲け話を考えているかもしれない。カネは裏切らない、と信じている限り、彼は何度爆死しても懲りずに新しいプロジェクトを追い求めるだろう。まるで不死鳥のごとく……しかし常に命知らずな商売人として。

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