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第18章「船団を率いて大海原へ! 深海魔獣がビジネスを呑み込む」

初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

 「陸路の輸送なんて時代遅れだ。海を使うほうがよっぽど効率がいい」


 黒峰銭丸はそう言いながら、港町の埠頭で大きな航路図を広げている。波止場にはいくつもの船が停泊しているが、その多くは老朽化が進み、修繕を繰り返しながらなんとか航海を続けているようだった。


「遠くの国と直接航路を結べば、貿易が一気に拡大する。いろいろな国から珍しい品を輸入できるし、こっちからの輸出も大きな利益になる。問題は大型船をどう用意するかだけだ」


 銭丸の隣ではバルドが腕を組み、桟橋を見下ろしていた。地元の漁師や船乗りたちが忙しそうに網を直しているが、設備が古く、規模も小さい。


「船団を揃えるには、相当な金が要るんじゃないか。買うにしろ造るにしろ、ただの小さな帆船じゃ長距離航海は難しいぞ」


「そこだよ。出資を集めて、大型船舶を造船所に発注するんだ。港湾ギルドとも協定を結び、海上貿易ルートを一挙に整備する。絶対に儲かる」


 銭丸は気合い十分だった。近隣に存在する島国や別の大陸と直接やり取りできれば、珍しい資源や海産物を得られる見込みがある。逆にこちらからの特産品を高額で売るチャンスも広がる。



 同じ港町の酒場で、銭丸は地元の船舶ギルド関係者を集め、企画をプレゼンした。

 「新しい海路を開拓する」「大型船を複数隻用意して、商隊を組む」「危険な海域は護衛船を付けて通る」など、綿密な計画を示すと、ギルド員たちは興味を示したが、不安も隠せないようだった。


「海賊や巨大海獣も多いこの海で、大型船団を運航すると聞けば、誰でも警戒するもんだ。安全対策はどうするつもりだ?」


「そこはバルドが率いる護衛チームもある。大型船を戦闘仕様に改造して、大砲や魔導火薬も積む。少々の海賊なら余裕で撃退できる」


「船が沈んだら全損だぞ」


「たしかにな。でも成功すれば、毎月の航海で莫大な収益が見込める。投資家は喜ぶだろう」


 銭丸の説明は勢いがあり、机上の計算も説得力があった。何より、この港町が長らく衰退していた事実が、大型貿易への期待を高めているようだった。



 日を置かず、銭丸は造船所と契約し、大型船の新造計画がスタートした。いくつか中古の船を買い取り、魔導エンジンや甲板の補強を施す案も進んでいる。

 出資を募った商人や貴族からは大金が集まり、港の工場が活気づいた。工房や船大工たちは人員を増やし、昼夜を問わず建造作業を行う。


「船が完成し次第、早速商隊を編成して試験航海に出る。大陸間ルートが軌道に乗れば、どれだけ儲かることか」


 銭丸は海図を指さしながら、計算書類をめくっていた。ひかりは経理管理を担当し、バルドは護衛の人員や武器調達を手配している。メルティナは船の動力部に使う魔導機構を点検しており、新型の爆薬を備えた大砲の導入も検討していた。



 数か月後、ついに大型船舶が数隻そろい、商隊が結成された。港町には多くの観衆が見守り、銭丸もギルドの船員たちとともに出航式を執り行う。

 甲板には大量の輸出用物資が積まれ、船員の士気も高い。バルド率いる護衛隊が甲板の大砲や魔導兵器を調整し、海賊対策は万全そうに見えた。


「これでいよいよ出航だ。最初の目的地は遠方の商業都市。あそこで取引を成立させれば、あっという間に投資を回収できる」


 銭丸は高い士気で声をかけ、船員たちを鼓舞する。港町の人々も歓声を上げ、出資者は笑顔を浮かべて見送っている。



 航海前半は驚くほど順調だった。天候も悪くなく、魔導エンジンの調子も良好。バルドの護衛チームが監視を続けるが、海賊らしき船影も見当たらない。乗組員たちが歌を口ずさみ、物資は貯蔵庫で安定している。


「このまま大陸まで無事に着けば、大きな取引ができる。戻るころには巨額の利益だろう」


 銭丸は甲板から水平線を眺めてにやけていた。まさにこれまでの苦難が嘘のように、順調かつ利益確実な展開に思えた。



 しかし、航路の中間あたりで突如海が荒れ始める。嵐が迫ってきたのか、急激に波が高くなり、風が唸りを上げた。船員たちが必死に帆を畳み、魔導エンジンを出力調整して耐えようとするが、波は想定外の大きさだった。

 夜になると視界も悪く、甲板を打ちつける水しぶきで足元が滑りやすい。バルドたちが必死に声を張り上げ、乗組員を誘導している。


「ここまでの嵐は予報になかっただろうが……」


 銭丸が舵室にかけ込むと、操舵手が必死に舵輪を抑えていた。羅針盤が揺れ、夜の海は不気味なほど真っ暗だ。


「魔法による天候操作でも仕掛けられてるんじゃないのか? とんでもない突風だぞ!」


「海賊じゃないですよね?」


「わからん。とにかく耐えるしかない」



 さらに事態が悪化する。船底近くで大きな衝撃があり、乗組員が悲鳴を上げる。何か巨大な生き物が船にぶつかったのだ。

 操舵手が「深海魔獣かもしれない!」と叫ぶ。噂に聞く超巨大生物が船底に体当たりしているらしく、数隻の船が横揺れして衝突しかける。


「まさか深海魔獣まで出るとは……くそっ、狙われたか!」


 バルドが甲板に大砲を構え、魔導弾を放つが、強風と高波で狙いが定まらない。メルティナも火薬調整を試みるが、海水で湿ってしまい威力が落ちている。

 何度か衝撃が続き、ついに一隻の船が横転しかけた。数名の船員が海に投げ出され、救命ボートを下ろす暇もなく波に飲み込まれていく。


「こんなんじゃあ……どうにもならない……!」


 銭丸は甲板にへたり込みそうになるが、とにかく船を立て直せと叫ぶ。大砲を再装填しようにも嵐で足をとられ、深海魔獣の姿は闇に紛れてわからない。



 次の瞬間、決定的な衝撃が船首を砕いた。巨大なうねりが船体を持ち上げ、甲板から悲鳴があがる。貨物が崩れて破壊され、甲板の魔導エンジンが傾いて火花を散らす。


「もう無理だ……船が持たない!」


 乗組員たちが絶望的な声を上げる中、船体が大きく傾斜し始める。マストが折れ、帆が海面を引きずる。隣の護衛船と衝突し、大きな破片が飛び散った。


「くっ……ここで沈むのか……」


 銭丸も必死に何かにつかまりながら叫ぶ。大砲に積んでいた爆薬が傾いた衝撃で誘爆し、轟音と共に甲板を吹き飛ばす。



 激しい水しぶきと爆炎の中、銭丸は宙を舞って荒れ狂う波間へ投げ出される。暗い海面に叩きつけられ、息ができない。船の残骸が周囲に散乱し、火の手を伴ってあちこちで沈んでいく。

 周囲の絶叫や衝突音が遠のき、耳が水に浸かって何も聞こえなくなる。暗い深海へと引きずり込まれそうなとき、銭丸はかろうじて海面に顔を出そうともがく。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。海上貿易ルートは……爆死ッ……!!」


 溺れかけの声は波と風にかき消される。何がどうなっているか、もう分からない。沈んでいく船体の破片に巻き込まれ、銭丸の意識は混濁していった。

 大型船舶ビジネスによる新しい貿易ルートは、一夜の嵐と魔獣の襲撃で木端微塵に砕かれ、莫大な資本が海の藻屑と消える。その後、残骸だけが漂う海を見つめる者たちは、あまりの悲惨さに言葉を失う。

 だが、結局なぜか銭丸は行方不明という形になり、死んだかどうかすら曖昧なまま。海に沈んだかに思われても、またどこかで生き延びて次の儲け話を探しているかもしれないと、人々は噂するしかなかった。

読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、よろしくお願いいたします!

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