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第15章「傭兵に投資して大勝利? 株式化が呼ぶ戦場の混乱」

初投稿作品ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

 「これなら絶対に儲かる。今回は、傭兵団を株式化するんだ」


 黒峰銭丸は厚い書類を両手に抱え、力強く言い放った。場所は小さな宿屋の一室。彼の隣には、水無瀬ひかりが帳簿を広げ、眉をひそめている。


「傭兵団を、株式化……どういう狙いですか?」


 ひかりが淡々と問いかけると、銭丸は意気揚々と続けた。


「傭兵って普通、雇い主との契約ごとに報酬を受け取るだけだろ。そこを“投資対象”にするんだ。出資者を募って資金を集め、戦場で勝利した報酬を配当として分配する。いわば軍事版の投資ファンドみたいなもんだ」


「勝てばハイリターン、負ければ出資金は吹き飛ぶ……高リスク高リターンですね」


「そこが魅力だ。うまくいけば、戦争に強い傭兵団は莫大な収益を得られるし、投資家も大喜びってわけだ」


 宿の窓から差し込む薄日が、山積みの契約書類を照らしている。銭丸とひかりは、成功の見込みと同時に大きな危険を感じていた。だが、銭丸の表情は相変わらず強気だった。



 翌日、銭丸はバルドを伴って、近郊に拠点を置くロッシ傭兵団を訪ねた。そこで団長のロッシに直接会い、新たなビジネス提案を持ち込む。


「株式化? 意味がよくわからんが、儲かるなら悪い話じゃなさそうだ」


 筋骨隆々のロッシは、団員たちとキャンプのテントで過ごしていた。彼はバルドと昔から顔見知りで、粗野だが腕の立つ傭兵として知られている。


「要するに、あんたの団を“軍事サービス企業”みたいにして、出資者に配当を出すんだ。戦場で勝てば大金が入り、投資家は喜ぶ。あんたらも装備を新調できて、給料アップにつながる」


 銭丸は得意げに企画書を示した。ロッシはその場で読みきれないらしく、何度か唸っている。


「装備が新しくなるのはありがたい。それに、でかい案件が増えれば報酬も増えるか……」


「そういうこと。もちろん、戦場で負けたらスッカラカンになるかもしれない。でも、勝てば莫大な配当が出る。ハイリスクハイリターンの投資だ」


 バルドは腕を組みながら、ロッシと銭丸を交互に見ている。ひかりは話を横で控えめに聞きつつ、どこか懸念を抱えていた。



 数日後、ロッシ傭兵団は株式化に同意し、銭丸の用意した投資家からの資金が流れ込み始めた。団員たちは武器や防具を強化し、士気を高めている。銭丸はさらに追加の投資を募るために、ギルドや貴族を回って営業を行った。


「軍事株、とでも呼んでくれ。短期決戦で勝利を重ねれば、出資者は大儲け。どうだ、興味ないか?」


「面白そうだが、負けたら死に金になるわけだな?」


「そこがスリルだろ。ほかにない投資案件だ」


 貴族や商人は半信半疑ながらも、銭丸の話に乗る者が少なくなかった。



 最初の戦場は、小さな国境紛争だった。ロッシ傭兵団は優れた戦闘力を発揮し、敵側の勢力をあっさり粉砕する。結果、依頼主である領主から多額の報酬を得ることに成功した。


「初戦勝利、おめでとう! これだけ稼げれば、投資家への配当もしっかり出せるな」


「まあな。新調の鎧や武器のおかげだ。団員も喜んでる」


 ロッシは自信をつけた様子で、銭丸と杯を交わす。実際、大勝利の噂を聞いた別の投資家や貴族が、さらに出資を申し出ていた。


「今なら株価が上がるようなもんだ。もっと兵力を増やし、大規模な任務をこなせば、まだまだ伸びる」


 銭丸はそう豪語していたが、ひかりは書類を整えながら何度も念押しした。


「規模が大きくなるほど、危険も増します。失敗したら……」


「大丈夫だ。しっかり勝てばいいだけの話さ」


 ひかりはうなずいて黙り込む。目の前で配当を得た投資家たちが喜んでいる以上、止める言葉もなかった。



 やがて、噂を聞きつけた複数の投資家が参入し、戦場の構図が変わり始める。別の傭兵団も同じく株式化し、ロッシ傭兵団と敵対する領主と契約していたのだ。


「おかしい……同じような仕組みを、向こうも始めてるのか?」


 バルドが険しい顔で呟く。ロッシも苛立ちを隠せない。


「どうやら敵側の出資者は、俺たちを知ったうえでわざと対抗馬を用意している。どちらが勝っても儲かるよう、二股をかけてるんじゃないか」


 戦場はいつの間にか、投資家たちの“買収工作”によって複雑な利害が絡み合う状況に変貌していた。領地を守るために参戦したはずが、相手側も株式化傭兵団で兵力を増強し、全面衝突の危機にある。



 銭丸は慌てて交渉の場を設ける。両陣営の投資家を呼び出し、共倒れの危険を説いて停戦を探った。バルドとひかり、メルティナが安全確保と調整に奔走するが、交渉は不穏な空気に包まれた。


「金になるからと言って、やりすぎたようだな。戦場を拡大すれば、そのぶん死者が増える。配当がどうこうという話じゃなくなるぞ」


「でも、投資家の思惑が複雑に絡んで、止めるに止められないんです」


 ひかりが必死に説得しようとするが、敵対勢力の代表は冷笑するだけだった。

 そんな中、何者かが放った火矢が交渉の場に飛び込み、周囲の火薬箱へ引火。凄まじい爆発を起こしてテーブルもろとも吹き飛ばす。


「うわっ!」


 衝撃波に巻き込まれ、銭丸は地面を転がる。火の粉があちこちに散り、投資家や傭兵が一斉にパニックに陥る。暴れだした兵士同士が剣を抜いて混戦になり、もはや停戦どころではなかった。


「離れろ! 危ない!」


 バルドが叫ぶが、別方向から爆発の連鎖が起き、さらに混乱が深まる。メルティナが薬品の箱を抱えて走るが、火の手が迫ってどうにもならない。ひかりも瓦礫に阻まれて動きが鈍る。


「くそっ、また爆死かよ……!」


 銭丸は裂けた地面に足を取られ、さらに爆炎に巻き込まれて大きく吹き飛ばされる。空中で一瞬意識が途切れ、次の瞬間には崖の下へと叩きつけられた。


「ぐあああああっ!」


 激しい衝撃とともに視界が真っ白になる。周囲の喧噪が遠ざかり、焼け焦げた草の臭いだけが鼻を突く。砕けた石の隙間に挟まれるように倒れ込んだ銭丸は、血の滲む口でうめくように言葉を吐く。


「カ……カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。傭兵株式化は……爆死ッ……!!」


 悲鳴と怒号が入り混じる戦場の中で、爆音が銭丸の声をかき消す。投資家たちの買収合戦が生み出した混乱が収束するまでには、しばらくの時間を要することになる。

 戦場をめちゃくちゃにしたこの企画は、結局多大な損失と惨事を招いて終わりを迎えた。出資をしていた者もほとんどが大打撃を被り、ロッシ傭兵団も重傷者が続出。銭丸のビジネスプランはまたしても瓦解した。



 その後、銭丸はなぜかいつものように生還し、どこかの街で新しい商売を思案していると噂される。人々は呆れながらも「あの男は本当に死なない」と囁き合う。

 莫大な利益が見えかけても、最後には必ず爆死と破滅へなだれ込む。誰もが首をかしげるばかりだが、彼が再び立ち上がって別の儲け話を試みる日も、きっとそう遠くないだろう。

読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、よろしくお願いいたします!

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