第15章「傭兵に投資して大勝利? 株式化が呼ぶ戦場の混乱」
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「これなら絶対に儲かる。今回は、傭兵団を株式化するんだ」
黒峰銭丸は厚い書類を両手に抱え、力強く言い放った。場所は小さな宿屋の一室。彼の隣には、水無瀬ひかりが帳簿を広げ、眉をひそめている。
「傭兵団を、株式化……どういう狙いですか?」
ひかりが淡々と問いかけると、銭丸は意気揚々と続けた。
「傭兵って普通、雇い主との契約ごとに報酬を受け取るだけだろ。そこを“投資対象”にするんだ。出資者を募って資金を集め、戦場で勝利した報酬を配当として分配する。いわば軍事版の投資ファンドみたいなもんだ」
「勝てばハイリターン、負ければ出資金は吹き飛ぶ……高リスク高リターンですね」
「そこが魅力だ。うまくいけば、戦争に強い傭兵団は莫大な収益を得られるし、投資家も大喜びってわけだ」
宿の窓から差し込む薄日が、山積みの契約書類を照らしている。銭丸とひかりは、成功の見込みと同時に大きな危険を感じていた。だが、銭丸の表情は相変わらず強気だった。
◇
翌日、銭丸はバルドを伴って、近郊に拠点を置くロッシ傭兵団を訪ねた。そこで団長のロッシに直接会い、新たなビジネス提案を持ち込む。
「株式化? 意味がよくわからんが、儲かるなら悪い話じゃなさそうだ」
筋骨隆々のロッシは、団員たちとキャンプのテントで過ごしていた。彼はバルドと昔から顔見知りで、粗野だが腕の立つ傭兵として知られている。
「要するに、あんたの団を“軍事サービス企業”みたいにして、出資者に配当を出すんだ。戦場で勝てば大金が入り、投資家は喜ぶ。あんたらも装備を新調できて、給料アップにつながる」
銭丸は得意げに企画書を示した。ロッシはその場で読みきれないらしく、何度か唸っている。
「装備が新しくなるのはありがたい。それに、でかい案件が増えれば報酬も増えるか……」
「そういうこと。もちろん、戦場で負けたらスッカラカンになるかもしれない。でも、勝てば莫大な配当が出る。ハイリスクハイリターンの投資だ」
バルドは腕を組みながら、ロッシと銭丸を交互に見ている。ひかりは話を横で控えめに聞きつつ、どこか懸念を抱えていた。
◇
数日後、ロッシ傭兵団は株式化に同意し、銭丸の用意した投資家からの資金が流れ込み始めた。団員たちは武器や防具を強化し、士気を高めている。銭丸はさらに追加の投資を募るために、ギルドや貴族を回って営業を行った。
「軍事株、とでも呼んでくれ。短期決戦で勝利を重ねれば、出資者は大儲け。どうだ、興味ないか?」
「面白そうだが、負けたら死に金になるわけだな?」
「そこがスリルだろ。ほかにない投資案件だ」
貴族や商人は半信半疑ながらも、銭丸の話に乗る者が少なくなかった。
◇
最初の戦場は、小さな国境紛争だった。ロッシ傭兵団は優れた戦闘力を発揮し、敵側の勢力をあっさり粉砕する。結果、依頼主である領主から多額の報酬を得ることに成功した。
「初戦勝利、おめでとう! これだけ稼げれば、投資家への配当もしっかり出せるな」
「まあな。新調の鎧や武器のおかげだ。団員も喜んでる」
ロッシは自信をつけた様子で、銭丸と杯を交わす。実際、大勝利の噂を聞いた別の投資家や貴族が、さらに出資を申し出ていた。
「今なら株価が上がるようなもんだ。もっと兵力を増やし、大規模な任務をこなせば、まだまだ伸びる」
銭丸はそう豪語していたが、ひかりは書類を整えながら何度も念押しした。
「規模が大きくなるほど、危険も増します。失敗したら……」
「大丈夫だ。しっかり勝てばいいだけの話さ」
ひかりはうなずいて黙り込む。目の前で配当を得た投資家たちが喜んでいる以上、止める言葉もなかった。
◇
やがて、噂を聞きつけた複数の投資家が参入し、戦場の構図が変わり始める。別の傭兵団も同じく株式化し、ロッシ傭兵団と敵対する領主と契約していたのだ。
「おかしい……同じような仕組みを、向こうも始めてるのか?」
バルドが険しい顔で呟く。ロッシも苛立ちを隠せない。
「どうやら敵側の出資者は、俺たちを知ったうえでわざと対抗馬を用意している。どちらが勝っても儲かるよう、二股をかけてるんじゃないか」
戦場はいつの間にか、投資家たちの“買収工作”によって複雑な利害が絡み合う状況に変貌していた。領地を守るために参戦したはずが、相手側も株式化傭兵団で兵力を増強し、全面衝突の危機にある。
◇
銭丸は慌てて交渉の場を設ける。両陣営の投資家を呼び出し、共倒れの危険を説いて停戦を探った。バルドとひかり、メルティナが安全確保と調整に奔走するが、交渉は不穏な空気に包まれた。
「金になるからと言って、やりすぎたようだな。戦場を拡大すれば、そのぶん死者が増える。配当がどうこうという話じゃなくなるぞ」
「でも、投資家の思惑が複雑に絡んで、止めるに止められないんです」
ひかりが必死に説得しようとするが、敵対勢力の代表は冷笑するだけだった。
そんな中、何者かが放った火矢が交渉の場に飛び込み、周囲の火薬箱へ引火。凄まじい爆発を起こしてテーブルもろとも吹き飛ばす。
「うわっ!」
衝撃波に巻き込まれ、銭丸は地面を転がる。火の粉があちこちに散り、投資家や傭兵が一斉にパニックに陥る。暴れだした兵士同士が剣を抜いて混戦になり、もはや停戦どころではなかった。
「離れろ! 危ない!」
バルドが叫ぶが、別方向から爆発の連鎖が起き、さらに混乱が深まる。メルティナが薬品の箱を抱えて走るが、火の手が迫ってどうにもならない。ひかりも瓦礫に阻まれて動きが鈍る。
「くそっ、また爆死かよ……!」
銭丸は裂けた地面に足を取られ、さらに爆炎に巻き込まれて大きく吹き飛ばされる。空中で一瞬意識が途切れ、次の瞬間には崖の下へと叩きつけられた。
「ぐあああああっ!」
激しい衝撃とともに視界が真っ白になる。周囲の喧噪が遠ざかり、焼け焦げた草の臭いだけが鼻を突く。砕けた石の隙間に挟まれるように倒れ込んだ銭丸は、血の滲む口でうめくように言葉を吐く。
「カ……カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。傭兵株式化は……爆死ッ……!!」
悲鳴と怒号が入り混じる戦場の中で、爆音が銭丸の声をかき消す。投資家たちの買収合戦が生み出した混乱が収束するまでには、しばらくの時間を要することになる。
戦場をめちゃくちゃにしたこの企画は、結局多大な損失と惨事を招いて終わりを迎えた。出資をしていた者もほとんどが大打撃を被り、ロッシ傭兵団も重傷者が続出。銭丸のビジネスプランはまたしても瓦解した。
◇
その後、銭丸はなぜかいつものように生還し、どこかの街で新しい商売を思案していると噂される。人々は呆れながらも「あの男は本当に死なない」と囁き合う。
莫大な利益が見えかけても、最後には必ず爆死と破滅へなだれ込む。誰もが首をかしげるばかりだが、彼が再び立ち上がって別の儲け話を試みる日も、きっとそう遠くないだろう。
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