Verse 3-14
薄暗い階段を下がっていくと、巨大な書庫が現れる。アーサーは手をつけよう、とその膨大な資料を前に一度気合の為に柏手を打った。
「探してるのは皇族についての最近の歴史と、あと基礎の書の該当部分だ。フランシス帝が即位してから。」
アーサーの声に従って、ジークフリートは的確に歩みを進めた。思い当たる本を山のように積み上げて、アーサーの座っている席の横に置いていく。
「おーあったあった。ここからだ。」
全て積み終わって、ジークフリートはアーサーの隣に座った。アーサーが指さす部分に目をやる。
「ほらこれだ。皇位継承者だったレイ皇太子が死んでる。ここからだ。」
「死んでる?なぜ。」
口笛を吹きながら続きを読み始めたアーサーに、ジークフリートはそっと問うた。アーサーは指をぽんぽんと箇所に当てながら読み進め、区切りがいい所でそれをやめる。
「お前も聞いた事くらいあるんじゃねぇの?薄暮の瞳……皇族だけが持ち得る七つの大罪に由来した特別な力。今のフランシス帝は、その暴走で両親二人を殺した。」
「皇太子にも暴走した事件があったな。レイ皇太子は暴走で死んだ……そういう事か?」
頷いたアーサーは、読み進めた箇所を指でなぞる。ジークフリートも納得したように頷いた。しかし、アーサーはそこでにやりと笑う。
「だが俺の憶測が合ってるなら、皇太子殿下は死んでない。そいつは皇帝の兄に引き取られてるはずだ。つまり……俺達の元帥に。」
本から目を離して、ジークフリートは首を傾げる。アーサーも上体を起こした。そして、両手の人差し指を立てる。
「俺の所に一つの確かな情報がある。分家は、薄暮の瞳の力を狙ってるって事だ。目的までは不明だけどな。そして、俺達が士官学校に入学、ROZENに入ってから前代未聞の事件が起きてる。士官学校襲撃事件、基礎の書強奪事件。全て分家が関わってる。それに、この基礎の書の記述見てみろよ。皇族の歴史を書いたその本が合ってるなら、レイ皇太子が死んだこの日。この日付に、基礎の書ではバスカヴィル元帥が息子を引き取ってる。名前はレイだ。偶然にしちゃあ、出来過ぎじゃねぇのか?」
示された記述を見ながら、ジークフリートは顔をしかめる。
「あのな、レイなんて名前どこにでもあるし、これだけ膨大な数のレイが同じこの日に産まれてるんだぞ。」
言い聞かせるようして小さく怒鳴ったジークフリートは、それに更に付け加える。
「それに、レイは元帥の嫡子だと聞いてる。」
アーサーは驚いた顔でジークフリートを見た。
「はぁ?レイは養子だろ?元帥の家に実子はいねぇ。」
寂しげな顔でジークフリートはアーサーを見つめる。基礎の書は嘘をつかない。だからジークフリートも、それが真実である事を十分承知した。アーサーは彼の表情を見て絶句する。
「もしかしてレイの奴が、自分から言ってんのか?まさかなんも知らねぇなんて事は……。」
頭にみるみる蘇るバスカヴィルのレイへの態度に、ジークフリートは首を振った。
「レイは、なにも言われてない。元帥の息子だと思い込んでる、思い込まされてる。もしレイが、それを知ってたらきっと……皇太子に復帰してる筈だ。」
分厚い本を閉じて、アーサーは驚愕の表情を浮かべる。
「おい馬鹿言えよ。あの年頃で何も伝えられてねぇって……マジなのか?」
ジークフリートは沈黙を守ったままだった。
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