表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘学メンズラブシリーズ"nihil"  作者:
第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/180

Verse 3-12

 ルイスとニコライは通路から直接本拠地に入る。南の大きな庭園に面した廊下に出た二人は、突然襲撃を受けた。目の前に煙が広がり、潮の匂いが辺りに満ちる。ルイスは慌てて宙返りをして後ろに下がると、腰からリボルバーを引き抜いた。


「あーもう! なんで襲ってくるんだよ面倒だな!」


 太腿のベルトからナイフを取り出して、ニコライは一歩踏み込んで煙の向こうの海水を切り割く。海水が爆発を起こして跡形もなくなくなった。煙の中から一人の少年が躍り出てニコライにレイピアを振り上げたが、その姿を見とめるとぴたりと止まる。


「ちょっとリーズ、この人連れてくるとか聞いてないんだけど。」


「うっさい黙れ。」


 足元に銃弾を一発撃ち込んで、ルイスはリボルバーを腰に戻した。少年もレイピアを鞘にしまうと、庭園に視線を向ける。


「来てくれるって言うからお茶用意しておいたよ。」


 二人もつられて庭園を見ると、白いガーデンテーブルの上にケーキスタンドやらポットやらが置いてあった。ニコライはナイフを投げ捨てると少年に言う。


「そんな暇はない。」


 無機質な声音に少年はくすぐったそうに笑った。


「まぁそう言わずに食べていきなよ、陛下。」


 少年は二人を席に案内すると、自らも椅子に座る。ポットが宙に浮かんでカップに茶を注ぐ様子を見ながら、少年は切り出した。


「そっちはどう? って言っても、もう現状把握とかどうでもいいくらいはちゃめちゃだからやっぱいいわ。」


 ルイスは半眼になって机に顎を乗せる。


「アグラヴェインあのねぇ……まぁ実際そうなんだけど。人が集まり過ぎてボクらの真の目的の方は収束に向かうどころか膠着状態だし。正直ここだけの件はどうでもいいでしょ?」


 なみなみに注がれたティーカップを掴むと、ルイスは背筋を伸ばした。その件だけど、とアグラヴェインと呼ばれた少年は紅茶の水面を見つめる。


「神託っていうか予言? そう遠くない未来にここ滅ぶって。」


 顔色一つ変えないニコライに対して、ルイスはソーサーの上にカップを落とした。


「ちょ、それは困るよ! ダレだよその予言したの!?」


「[全智神]。」


 息を呑んでルイスは思わず立ち上がる。しかし、やり場のない感情にへなへなと座り込んだ。


「僕らもどうにかしたいところだけど、身動きとれないから……。」


 呆然としていたリーズは、爆音で顔を上げる。ニコライは爆音がした正面玄関の方向へ顔を動かす。


「行った方がいいかも……。」


 アグラヴェインは深刻そうに言った。


 時間は少し巻き戻る。アーサーのルートは驚く程なにもなかった。通路を無事に通過して本拠地に入り、本拠地の一部を爆破するためのスイッチ式爆弾を取り付けながらゆうゆうと正面玄関までの道を進んでいく。辿り着いたの正面玄関のホールは、その反対側が中央庭園に面していた。


「でけぇ屋敷だなほんと。王宮レベルじゃねぇか。」


 正面庭園の面している部分は壁画で覆われている。聖杯に手を伸ばす三人の騎士が描かれていた。その壁画に手を滑らせる。


「ガラハッドと……パーシヴァルと……。」


 もう一人の名前が思い出せずにアーサーは顔をしかめた。すると、一つの入り口からジェームズ達がホールに入ってくる。足音だけでそれを判断すると、小喬については言及せずにアーサーはジェームズに尋ねた。


「おいジェームズ。アーサー王伝説に出てくる聖杯探索に成功した三人の騎士、ガラハッドとパーシヴァルとあと誰だ?」


 振り返ったアーサーにジェームズは疑問で答えた。


「ボールス卿?」


 突如、床が震える。よろめいた小喬を支えて、大喬は壁の方を見た。音を立てて壁画が崩れていく。アーサーも瞠目して壁画から離れた。


「なん……だ?」


 壁画の大部分が崩れると、そこから陽の光にも負けない光が漏れ出す。アーサーは腕で眩しさから目を庇った。駆け付けてきたルイスとニコライは、壁の向こう側にあるものを見てアーサーと同じく瞠目する。


「カリス?」


 呟いたニコライは一歩踏み出す。カリスとは、キリスト教のミサでキリストの血である葡萄酒を注ぐ器である。しかし、今輝いているものはそれより更に豪奢であった。


「[聖杯]顕現でここの空間が壊れ始めてるよニッキー!早く兄さんをこっちに来させないと!」


 駆け出そうとしたルイスの手首をニコライが掴んだ。振り返ったルイスに彼は首を振る。


「ルイス、これは……チャンス。彼は収集できなかった唯一の[聖遺物]だ。」


 ルイスは目を見開いて輝きの根源を見つめた。誘われるようにしてアーサーが光へ手を伸ばす。彼が杯に手を触れると、更に輝きが増した。


「掴め、フィリップ!」


 珍しく声を張り上げたニコライの声に押されて、アーサーは光から目を背けながらそれを手に取った。まるで辺りが昼のように明るくなると、その光は一瞬にして、杯とともに消え去る。


「兄さん!」


 崩れて地面に倒れ伏しかけた兄を見て、ルイスは駆け出した。ニコライもその手首を離す。しかし、あともう少しのところで、女がそれを遮った。


「あらあら、ついに手にしてしまったのね。折角汚してこっちのものにしようと思ったのに。」


 蝙蝠羽の音とともにリーズは足を止めて後ろに跳躍する。橙色に近い金髪のツインテールを揺らして、一人の女が玄関ホールに降り立った。


「[リリス]!」


 大喬の叫びとともにジェームズがフリントロック式の銃を放つ。煩わしそうにそれをよけて、[リリス]と呼ばれた女性はゆっくりとジェームズに視線をやった。


「あらあら、おいたが過ぎるのね。下らない抵抗はおやめなさいな。」


 [リリス]が手を一振りすると、無数の蝙蝠が玄関ホールに羽ばたいてくる。その様子を満足げに眺めて、彼女はゆっくりと振り返った。倒れたアーサーの前に仁王立ちする小喬に薄く笑う。


「さぁ、その男を私に渡しなさい!」


 一歩踏み出した[リリス]は、しかしそれ以上進めなかった。撃鉄を起こす音が耳に届く。目の前でニコライが、彼女のこめかみに銃口を当てていた。


「黙れ娼婦。」


 銃声が玄関ホールに鳴り響く。


 * * *

毎日夜0時に次話更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ