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神秘学メンズラブシリーズ"nihil"  作者:
第四巻『血を流し死で洗い 命枯らすまで 荊棘たれ。』(CoSH Exc.2)

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Examle 2-29

 夜、ニコライと部屋で夕食をとってシャワーを浴びた後、バスカヴィルはベッドの上でニコライの筆跡の音を聞きながらノートを広げて掲げていた。


(課題、か。)


 バスカヴィルが提出した組織改革の一つの大きな特徴は、現在完全に分かれている軍事と官僚の枠を一部分で同一化する事だった。つまり、例えば軍事大佐と官僚大佐を同じ人間に受け持ってもらう。そうすれば年棒として支払っている金を大幅にカット出来る。理由としては、近年帝國では目立った紛争がなく、軍としての機能を殆ど失っているからだ。地域内の戦争は、殆どが自治軍やROZENの警察部門が鎮静出来るくらいになっている。


(まあ考えていないわけではなかったが、こう突き付けられると未熟さを思い知るな。)


 課題としては、その改革を早急に行う場合、多くの軍人が退職に追い込まれる事が一つあげられる。更に、年棒を減らす事で皇帝からいただく予算が一気に減少しかねない。急な同一化はさらに下士官の混乱を呼ぶ。あらゆる面で、慎重に事を進めなければいけないだろう。


「要するに軍縮化という事か。」


「そうだね。帝國にはもうここまで巨大な軍はいらないと思うよ。」


 自習を終えたニコライは開口一番そう言った。夕食の時に見せられたノートについて、彼は風呂の間ずっと考えていた。


「軍縮の反発は大きい。不安も起こる。拡大するには金と人しか問題にならないけど、軍縮は感情も入ってくる。」


 もぞもぞと布団に入って、ニコライは自分の側の火を消した。


「バスカヴィル。ロベルトの件だけど、慎重になって欲しい。私はそう言う事しか出来ない。」


 そろそろ夜が冷えるようになってきた。バスカヴィルも灯火を消して布団に鼻まで入った。


「出来る限りそうするよ。」


 スイスの山中の空は、星がさんさんと輝きを振り撒いていた。


 * * *


 まるで座れとばかりに、荷物はもう置いていなかった。二回目に来た時はまず存在がそこにあった事自体驚いたし、三回目は毎回律儀に同じ席に座っている事に驚いた。四回目で、隣を毎回きちんと空けている事に驚いた。


「……座っても?」


「空いているが。」


 ついにバスカヴィルは我慢が出来なかった。このロベルトという男は一体なんの為に毎回律儀に隣の席を空けているのだろうか。ガイダンス時にはあれだけ不遜に荷物を広げていたと言うのに。


「私に、隣に座って欲しいのか……?」


 ガイダンスの時と違い、三回目くらいからもう教室は丁度いい人数で、空き席も少しだけ目立つくらいになっていた。


「はっ、だれが座ろうと同じ事だ。」


 驚きを通り越して戸惑いだったが、一人で受けるのもなんとなく心細かった。教官はまた二人が隣同士で座ってるのを見てギョッとした。二人は教本と普段使っているノートを開けた。盗み見たロベルトの字は乱雑ではあったが整っている。罫線などお構いなしに左に右に斜めっているが、それでも読みやすい文字を書く男だった。


「えーでは、前回に引き続き決闘の意義について。フランスではドイツやイギリスに比べてこのフェンシングや銃を使った決闘文化が随分と長く続いた。教本の三十二ページを開いて欲しい。」


 教本は端的な説明の他に、分かりやすく沢山の図説が並んでいた。教官が指示したページには、フェンシングで決闘する銅版画や、フリントロック式の銃で決闘する様子の絵が印刷されている。


「イギリスはパブリックスクールでスポーツが行われたり法律に関する勉強が行われたので、大抵の人間は裁判で名誉を回復した。それに対して、フランスでは長い間名誉を回復するのには裁判ではなく決闘が相応しいとされた。なぜなら、名誉を傷つけられた事を裁判で公表されてしまうのは非常に恥ずかしい事だとされていたからだ。その他にも——」


 教官が話を続けるなか、バスカヴィルはぼそりと疑問を口にした。


「ROZENでは……どうなんだ?」


 板書を見たままのバスカヴィルの横顔を、ロベルトはその言葉でちらりとみた。端正な顔が困惑している。成長するにつれ男らしくなっていくバスカヴィルの顔は美しかったが、雄々しいと言うよりはまだ繊細だった。


「ROZEN自体では決闘文化はそうないが、筆頭家となると決闘を申し出るの奴のほうが多い。現在校内にはファラレーエフ以外の全筆頭家がいる。来年度までは……いや、一つ上が卒業するまでは見物だな。」


 きらり、とバスカヴィルの黄昏色の瞳が光った。この男は筆頭家の事をよく知っている。


「……お前は?」


 バスカヴィルは思った。この男を仲間に引き入れる事が出来れば、どれだけの知識が自分に入るだろうか。入らずとも、どれだけ行動範囲が広がるだろうか。ニコライのロマノフスキー家も勿論重要だが、それ以上に五大筆頭家の同期は重要だった。ROZENの明文化されないしきたりを知り、更には影の部分まで詳らかに出来る男など、バスカヴィルの隣には彼以外いなかった。


「俺か。」


(あるいは……。)


 なにもかも犠牲にするのであれば、この男は生涯に置いて最大の武器になるだろう。


「決闘なんぞくたばれと思っている。」


 * * *

毎日夜0時に次話更新です。

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