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神秘学メンズラブシリーズ"nihil"  作者:
第四巻『血を流し死で洗い 命枯らすまで 荊棘たれ。』(CoSH Exc.2)

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Example 2-26

 バスカヴィルが私邸に帰宅した時には人ももうまばらで、ちょうどパーティがお開きになる数分前だった。ニコライとパーシヴァルはそれぞれの家族と合流して屋敷を去り、バスカヴィルもまた部屋に帰ってベッドに落ち着いた。


(懐に入って……。)


 入学初日の口論を思い出す。ニコライの隣に立った体躯の良い男だった。卑屈そうな表情で、バスカヴィルより身長は幾分か高く見えた。赤褐色の髪をよく覚えている。


(分からない……。)


 シーツに埋もれてバスカヴィルは目を閉じた。もう半月で夏季休暇も終わる、少し暑い夜だった。


 * * *


 一週間、アウロラ家とも親交を深めて、残りの日々は上期の復習に費やした。ハワードは相変わらず元気で、年が近いおかげでお互いに勉学を教えあった。オーウェンは重そうな医学書を部屋に運んでいくのを見かけた。そうして、一年の夏が終わった。


「これからどんどん早くなるんだよなあ。夏休みがさあ、うんと短くなってさ。」


 二人の兄弟と共に、バスカヴィルは寝台列車に乗り込んだ。アウロラ家への礼の手紙を、士官学校での寮の場所と共にドロシーに預ける。


「やはりそういうものなんですか?」


「いやもう一ヶ月とか言ってるけどさ、終わってみたら一週間……いや五日!」


 五日という事はないが、と言いつつオーウェンも頷いた。年を重ねるにつれ休暇はどんどんと早くなる。


「兄上は来年はもう学校寝泊まり勢かもしれないし。」


「なるだろうな、いちいち帰ってる時間が今年でさえ惜しい。」


 四年から五年生の多くは、軍位試験で多くの時間を勉学に費やさざる終えない。オーウェンのように最初から中将を目指すというのなら尚更だった。


「では、来年からハワード先輩が少しずつ屋敷を取り仕切るんでしょうか。」


「うわ~悪夢だぁ! 絶対ヴィルに色々手伝ってもらわらなきゃ出来ないよ!![#「!!」は縦中横]」


 肩を震わせて笑うバスカヴィルと頭を抱えるハワードに、オーウェンは兄のように微笑んだ。


「最初は二人でやればいい。バスカヴィルだってやって損のない仕事だ。」


 そう言ってすたすたと自分の寝台がある部屋に帰っていってしまったオーウェンの背中を見届けて、バスカヴィルとハワードは顔を見合わせた。


「なんか兄ちゃんみたいだった……。」


「そう、ですね。」


 * * *


 ニコライと再会し、クラヴェーリに休暇の事を話した。クラヴェーリはクラヴェーリで、寮室に毎日帰りつつも士官学校から徒歩や馬を借りて行ける範囲で色々な村や町に繰り出したらしく、有意義な休暇を過ごしたようだった。


「下期は二講座くらいは選択で取れるのかな。」


 休暇の話をして喜んでいたのも束の間で、三人は取得講座の取り捨て選択ですっかりぐったりしていた。


「取れる実技は早くやっておいたほうがいい。後々に回すと面倒になったり疲れたりするから。」


 ガイダンスで貰ったプリントでは、実技は実技で全て纏められていた。


「応急処置でもやろうかな。」


 説明によれば、在学期間内のいずれかの半期で必ず取らなければならず、半分が座学、半分が実習だった。


「いいな~、オレもう志望の選択でパッツパツだわ。ん? 応急処置ってうち必修だったよな?」


「二年次……でもそれは諜報志望の話だけ。」


 元帥必修の講座を取ろうとしたが、五年間設計のモデルを見ると大抵は三年次から仕込んで事足りていた。バスカヴィルはそれを二年次から取る事にして、一年は取り敢えず他の研鑽を積む事にした。応急処置は比較的単位数は軽く、もう一つ選択で取れるようだった。


「なんか面白そうなの……あ、これなんてどうだ? 軍人の基本。」


「哲学……。」


 いかにも必修そうな文言で、実際のところは選択に書かれていた。但し書きも特になく、自由の取る事の出来る講座らしい。


「ならそれにしてみようかな。」


 二つの講座を選択項目に書き入れて、バスカヴィルは封筒にそれを閉まった。後は講義を受けて、寮の監督室手前に置かれているポストに突っ込んでおくだけだ。


 * * *

毎日夜0時に次話更新です。

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