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神秘学メンズラブシリーズ"nihil"  作者:
第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)

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Verse 2-6

 思いがけない事に、翌日の夕方近くにアルフレッドの部屋に来訪者が来た。ジャックとロビンである。


「司馬懿が行けって言うから来ました。」


 不服そうなジャックの顔に、取り敢えずアルフレッドは二人を客間に通した。客間では既にフェリクスが午後の紅茶を嗜んでいて、二人がやってくると座ったまま頭を下げた。


「昨夜お会いしましたよ、ユーサー陛下に。」


「あ、マジで? じゃあ俺帰るわ。」


 座った途端に立ち上がったジャックのワイシャツの裾を掴み、ロビンは無理矢理ソファーに引き摺り下ろした。


「ソロモン王から言われた事をもう忘れたとは言わせませんよ。」


「ごめんなさい。」


 こめかみに血管が浮きそうなロビンのストレスを察し、アルフレッドはリラックスの出来るハーブティーを二人に渡した。


「続けてよろしいですか? ユーサー陛下の目的は、目的の人物を探す事だそうです。という事は、探すまで人間界に居座り続けますから、[天使]に復帰させるチャンスはごまんとあります。」


「チャンスはごまん……。」


 フェリクスが言った言葉をおうむ返しして、ジャックは紅茶の水面を見つめた。


「お二人が来た事ですし、昨日やった事を、今回は二人組で手分けしてやるのがよろしいかと僕は思います。ね、アルフレッド。」


 突然話題を振られて、ぼんやりと話を聞いていたアルフレッドは我に返った。


「あ、はい! いいと思うよ! と、取り敢えず二人が泊まる部屋に案内してから話そう!」


 少し驚いたフェリクスは放って、アルフレッドは二人が持ってきた旅行鞄を手に寝室へ案内する。ジャックの、別室がいい、と言う希望から、二人はそれぞれ隣の部屋に案内された。




 二人組のメンバーも決まり、夜空が広がりかけた時間。アルフレッドがテラスで涼んでいると、ジャックが隣にやってきた。


「お疲れ様。リチャードの件も色々あったろうが、まぁ俺がサボってるのによく頑張るわ。」


 世界創世から存在したジャックから見れば、新参の一人であるアルフレッドはとても眩しく見えた。


「えぇまぁ。彼の苦しみと比べれば僕の多忙さなんて昆虫のアリですよ。」


「それ言ったら俺は塵芥以下になっちゃうな……。」


 遠い目でバーボンをあおるジャックに、アルフレッドは苦笑する。彼も彼とて死ぬ気で身を潜めてここまで来たのである。


「一つ聞いていいですか?」


 アルフレッドは黒ビールを飲み干すと、ジャックと同じように柵にもたれた。どうぞ、とジャックは返す。


「僕はユーサー王について、いや[ルシファー]についてあまり知らないんですよ。良ければお聞かせ願えますか?」


 飲もうとしてグラスが空になっているのに気付き、ジャックはそのまま腕を下ろした。


「あーあれね。要するに失楽園の件ね。うん。いや、他人事みたいに言うようだけどあれは酷かった。」


 [シシャ]達の共有の暦、神暦。その一〇八〇年に、[天使]達を束ねていた[ルシフェル]とその協調者達による一斉蜂起は起こった。蜂起理由は、エデンの園で生活していたアダムとイヴの二人を排除する為の請願が却下された事にある。


「最初は信じたくなかったんだけどなぁ。まぁあたふたしてたら、神殿の中に入られちゃうから、取り敢えずロビンとかランスロット達に迎撃して貰ったんだ。破竹の勢いだったよ。凄まじかった。ランスロットの力とロビンのゲリラ戦法を持ってすれば多勢に無勢なんて言葉はなかった。ユーサーはあっさりと負けて、俺はその処罰の為に彼らに地獄を与えたんだ。でも、その次が悲惨だった。大人しくしてたら謹慎みたいな感じで早く戻してあげたかったんだけど——」


「唆しちゃったんですね。」


 苦笑するジャックは酷く悲しげだった。


「やめときゃいいのに、どうして、俺達はそれをしちゃいけないと分かっている筈のなのに、ユーサーはやっちゃったかなぁって。地獄も最初は[冥府]みたいな感じで、まあある程度制約は儲けてたけど自由に出入り出来たんだ。だからユーサーはエデンの園に侵入出来た。もうそこまで来たらどうする事もできなかったんだ。彼らは完全に罰さなければいけなかったんだ。[人間]を追放して、[堕天使]というレッテルを反逆者達に貼らなくちゃいけなかったんだ。地獄は最早許可なく出入りする事を完全に禁止された檻になり、彼らの白い羽毛はすっかり腐り落ちて蝙蝠羽になってしまった。あの惨状は、俺もまだ、まざまざと覚えてるよ。ロビンも、よく夢に出てうなされてる。」


 アルフレッドはジャックの方を向いた。いつの間にか柵の上に肘をついて、彼は額に組んだ両手をつけている。


「あんなに綺麗な羽だったのに、自分から邪魔だと言って目の前で羽毛を引き千切ったのが、まだ記憶に焼きついて離れないんだ。」




 すっかり夜も更けて、アルフレッドはジャックと、フェリクスはロビンと、それぞれ手分けをしてユーサー王を探す事になった。


「しかし、こう夜になってもまだまだ寒いですね。ロビンさんは寒くないですか?」


 街頭に照らし出される街中を歩きながら、フェリクスは空を見上げた。まだ星は若干見えるくらいには空気が澄んでいるようだ。


「帝國での失態の後始末だ。寒かろうが暑かろうがやらなければ。」


 意気込んで足を出したロビンの肩は、いつの間にか伸びてきていたフェリクスにがっしりと掴まれていた。くるりと体の向きを反転させられると、フェリクスは人差し指を立てた。


「一度深呼吸しましょう。はい、すー、はー。」


「すー、は……ってこんな事してる場合か!」


 謀られたように思えて、ロビンは思わずフェリクスに詰め寄る。


「えぇ、確かに時間は惜しいですね。でももっとリラックスしませんと。そんなにずっと眉間に皺を寄せていては、いつか倒れてしまいますよ。」


 フェリクスの言う事は最もである。渋々ともう一度、申し訳程度に深呼吸をすると、フェリクスも漸く手を離した。


「それでは行きましょうか。大丈夫、きっと見つかりますよ。」


 このお気楽な貴族はロビンの癪にたまに触ったが、大丈夫、という一言は、彼が今まで背負ってきた全てを、一度どこかに置いておけるくらいの安心感があった。

毎日夜0時に次話更新です。

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