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うっかりシロちゃんと龍神さま2

ネタバレになるので注意事項を後書きに書いています。

 シロちゃんは仙水が流れる見事なお庭へ龍神さまをご案内し、他の眷属の皆さんにお手伝い頂きながら、まず茶菓をお勧めしました。


 シロちゃんと比べると、龍神さまは沢山ものを召し上がられる方ですので、お菓子は多めに差し上げます。


 人形焼きと同じ型で作ったベビーカステラを混ぜたのはシロちゃんの発案ですが、弁天さまの厨房のみなさん方はノリノリで焼いて下さいました。


 ここだけのお話ですが、龍の皆様やその眷属は卵の入ったお菓子を好まれる方が多いのです。


 同じような好みはへびの皆様にも言えるようですが、ニンゲンの間ではその好みばかりが有名になり過ぎているせいで、ちょっと他の美味しいものも食べたいという我儘なお悩みをお持ちの方もいるようです。


 「中身が餡だけかと思うたら、春庭餹(カステイラ)のようなものもあるのか。口が飽きずに良いのう。」


 龍神さまも喜ばれてひょいひょいぱくっと摘んではお口に運ばれます。


 「この季節は弁天さまをお祭りしているお(やしろ)のまわりに市が立つのです。」


 シロちゃんは弁天さまのお側から眺める様々なお宮に祭礼の度に立つ屋台に興味津々なのです。

 おもちゃを売っている屋台。

 ニンゲンの暦を売っていたり吉凶を占ってくれる屋台。

 お酒や焼き魚を食べさせてくれる屋台。

 卵と小麦粉を混ぜた生地に野菜や魚介の切れっぱしを入れて色んな形に焼く屋台。

 そしてお菓子の屋台!

 飴やチョコレートを果物にかけたもの、甘い飲み物、お団子、たい焼き、アイスクリーム、そしてベビーカステラなどいろんなお菓子の屋台がそこかしこに立つのです。


 「冬の夜でも屋台の中だけ陽炎が立つほど熱々の鉄の型から出てくる綺麗な焼き色がついたベビーカステラがほんとうに美味しそうなのです。でも境内からほど近いお店の人形焼きは冷えてもふっくらとしている様子が忘れられません。餡子の量も重くもなく軽すぎもしないそうなのです。」


 シロちゃんの熱のこもった説明に龍神さまもお菓子を召上がる手を止めて、愉快そうなお顔で顎髭をしごかれました。


 「我ら龍と(えにし)がある社や宮にもそのような屋台が立つのう。確かに大晦日(おおつごもり)は夜っぴてベイビィカステイラなる物を焼いておる者たちがおったわ」


 「しかしシロも屋台の酒や焼き魚が気にかかるとは、やはり我らや(くちなわ)の舌じゃのう」


 「そういものなのでごさいますか?」


 「うむ、ヒトの間でも飲兵衛のことを蟒蛇(ウワバミ)と呼ぶくらいに知れ渡っておるようじゃ。魚もまた酒によく合う肴よ」


 どうやら龍とお酒はへびと卵の贅沢な我儘とはちょっと違う関係を築いているようです。


 もしかしたら龍の皆様方はニンゲンからお酒をいくら奉納されても飽きるということが無いのやもしれません。


 「甘いものに(ささ)などは如何ですか?」


 お酒のお話が出たところでシロちゃんは龍神さまにお茶を取り替えようと身じろぎしました。


 「あいや、それには及ばぬ。」


 龍神さまはシロちゃんを押し留められました。


 「この後にも挨拶回りがあっての。他の若いへび達の様子も見なくてはならぬ。きっとそれぞれそなたのベイビィカステイラと人形焼きのような愛らしい趣向を凝らしたもてなしをしてくれるでな、腹はちと空けておきたい」


 「お忙しいところわざわざおいで頂きありがたく存じます」


 「そのように鯱鉾ばるでない、シロや。そなたが弁天のもとで幸せに過ごしている様子を見れただけでも(おとな)った甲斐はあったわ」


 おやさしそうな微笑みを浮かべ龍神さまはシロちゃんの頭を撫でながらこうおっしゃいました。


 「ふふふ。弁天に託した折はまだ天地の精を受けた小さな卵だったシロやが儂の接遇を一人でこなせるようになるとはのう。幸せに育っておるようで安堵致した。中々弁天も粋な計らいをしてくれたものじゃ」


 もしかして、今日いきなり龍神さまを一人でおもてなしすることになったのは、弁天さまの元からのお考えなのでしょうか?

 弁天さまの深いお考えなどシロちゃんのような若輩者にはうかがい知り得ないことでしょうけれども。


「きっと福神仲間と戯れていても、弁天は内心歯噛みしておるやもしれぬのう、」

 「シロやが一人で大役をやり仰たところをその場で見れずに悔しいとな」


 そう仰って龍神さまは肩をゆすりもう一度呵呵大笑なさってから、席をお立ちになりました。


 「そろそろ次の約束があるのでな、酒は次の機会に所望しようぞ」



 龍神さまをシロちゃんはお玄関までお見送りします。


 「シロや、ところでそなたは気がついてはおらぬのか?」


 玄関でお別れを申し上げようとしたシロちゃんに、龍神さまが茶目っ気たっぷりにウィンクなさいました。


 「なににでございましょう?」


 シロちゃんはもう一度首をかしげました。


 「矢張りそなたも去年の若い龍のような反応じゃのう」


 「大晦日の後は正月が来る。辰年の後は巳年が来るという事じゃ。」


 なんという不始末でしょう!シロちゃんはすっかり(たつ)のあとの干支のことを失念していました!!


「そなたらへびの者達の名を冠した年ゆえ、シロやも弁天の膝元で心して励めよ」


 「は、はいっ!」


 龍神さまの厳かなお声にシロちゃんは上擦った声でお応えしました。


 そのあと龍神さまは愉快げに切れ長の龍眼を細められ、声を潜めて教えて下さいました。


 「実はな、儂がうんと若い龍だった頃にはそのような暦のしきたりなんぞ無くてのう、月の満ち欠けに従う暦と十二支を組み合わせ始めた頃はいきなり今年は龍の受け持ちだと謂れて困ったものじゃ」


 「近ごろは太陽の動きに従う新しい暦で月日を数えるゆえ、年の瀬頃から若い者達の顔を見て回っていけば、月の暦の新年に間に合う寸法よ。」


 ニンゲンの新暦の師走ごろから新年の心構えを若い世代の者達に説いて周り、それが終わるのが旧暦の新年の頃とはなんと龍神さまの眷属やへびの皆様方の数が多いのでしょう。


 そして弁天さまにお仕えしているシロちゃんも、その数多の若者達の一人(ひとたり)だと仰せなのです。


 巳年の大きなお役目に驚きつつ、龍神さまのお言葉にへびの一員として誇らしい気持ちでシロちゃんは頭を垂れました。


 「睦月は弁天も儂も忙しいゆえ、次に会えるとしたら如月か弥生の候であろうか?」


 「お日様とお月様が明けましておめでとうとふれ回って下さったあとでございますね……あとお星様達もです!市の暦売りや占い師達が星の動きも大事だと話していたのが聞こえましたから!」


 「日月星辰(じつげつせいしん)寿(ことほ)ぐ新年か、シロやは縁起が良い事を言うのう」


 嬉しそうに善哉善哉と繰り返しおっしゃって、龍神さまはお玄関からお出になられ、雲に乗って次のお約束へとお向かいになりました。


 おもてなしはきっとうまくいったのでしょう。


 弁天さまもお褒めくださるかもしれません。


弁天さま「シロちゃん、暦売りの話していたことを覚えていたのはぐっじょぶよ!でもやっぱり巳年はへびが引っ張りだこの年だって忘れていたのね。んもう……うっかりさんなんだから」


 注;シロちゃんは想像上かつ弁天さまにお仕えしてるへびなのでニンゲンの考える飲酒制限には引っかかりませんが、お子様舌気味です。あと各種お好み焼きとたこ焼きは簡単にひとくくりにカテゴライズしています。

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