うっかりシロちゃんと龍神さま1
というわけで、二千二十四年十二月三十一日の二回目の投稿です。
御湯殿から出たあとのミルクセーキはなんと美味しい飲み物でしょうか。
外の冬景色を眺めながら出で湯に浸かって身体を温めるのと比肩する贅沢なことだとシロちゃんはしみじみ味わいます。
ミルクに生卵が入っているというだけでも素晴らしい飲み物なのに、甘い味がついているのです。
甘味料のなかでも、蜂蜜入りやカエデのシロップなどは天上の美味もかくやというお味ですが、どことなく懐かしさを感じるようほろりとした味わいの和三盆も格別です。
今日は美容に良いという噂のトゲトゲ植物のシロップで味付けしてあったようですが、シロちゃんは皆さんがたと美味しく頂きました。
ご一緒はできませんでしたが、弁天さまもミルクセーキにちょっと西洋の火酒を香り付けに垂らしたものを召し上がられたようです。
お客様がおいでになる前に、ちょっと腹塞ぎに何かしら頂いておくと、お客様にお出しするお菓子が美味しそうに見えることも減るかもしれません。
シロちゃんは、弁天さまのおそばに侍るものとして、キリッとした自らの姿を龍神さまにご覧頂くつもりです。
きっと龍神さまもシロちゃんをお褒め下さるでしょう。
龍神はお約束の刻限においでになりました。
しかしながら、ご到着と前後して弁天さまの親しい福神仲間の方々もご相談にお見えになられてしまったのです。
こちらの皆さまは例年これくらいの時期にお集まりになっては「誰が年始の例のおめでたい船に乗るべきか」という議題を肴に飲むので先触れは要らないもの同然の仲。さりとて、宴でもないのに大玄関でお客様同士が鉢合わせしてしまうとなると、少しだけタイミングが悪かったかもしれません。
「皆々さま、ようこそ。大晦日にわざわざ拙洞に足をお運び頂き嬉しうございす」
「毎年この時期のレア福神の集まりが楽しみなんだよ」
「レアとはゲームかや?この集まりで来年のメジャーではない第八の福神は誰かを決めるとわらわは思うておったぞ?」
「なんとなんと、宝船に乗る前の福神衆にお目にかかれるとは!来年は良い年になりそうじゃな」
「龍神さまもお口がお上手でいらっしゃる、我らはただの気楽な福の神でございます」
眷属を伴ってお迎えした弁天さまは、福神仲間と龍神さまとお玄関の広間で慌ただしくも賑やかに年の瀬のご挨拶を交わされました。そしてシロちゃんの方に向き直って仰るのです。
「シロ、龍神さまのおもてなしはお前に頼みますよ」
シロちゃんはいきなり考えてもいないお役目を頂いてびっくりしてしまいました。
「弁天の、シロやを暫し借りるぞい。どうせそなたらのうち何人かは宝船ポスター撮影には出ないのじゃろう?」
龍神さまも呵呵大笑なさって、福神様方に冗談を仰います。
「わたくしどもが皆で宝船に乗ってしまったら、八福神以上になってしまいますもの」
弁天さまの大親友の吉祥天さまが嫋やかに微笑みながらお答えになりました。
「いつも宝船にお乗りになる面々は今頃鳩首して手配に頭を抱えていらっしゃる、あたくし達は好き勝手なことをほざく外野でございまして」
「外野とは野球にも詳しいようじゃな、お多福の」
「あれまあ、おこたでテレビ観戦する程度ですよう」
「皆さまをご案内するお部屋のお支度が整ったようですので」
愛嬌のある福神ジョークに当世風のスポーツの話題も飛び交ったところで、弁天さまがさりげなく皆さまを酒肴の整った応接間へ行こうと促されました。
「シロ?いつもこの季節に龍神さまをご案内する応接間にお連れして。心を込めておもてなしするのですよ」
そして弁天さまをはじめとする福神の皆さまは龍神さまに一礼すると広間から別のお部屋へと向かわれてしまいました。
弁天さまのお側に居たい半分、龍神さまにカッコいいおのれの姿を見て頂きたい半分で、シロちゃんはとても複雑な気持ちです。
龍神さま「来年のことを話すと鬼が笑うそうじゃが、去年のエピソードとやらを新年に投稿すると誰が笑うんじゃろう?」
???「龍神さま、そんな場合は当世では『まだまだ続くんじゃよ』と目配せして流すそうですよ」