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年の瀬の弁天さまとシロちゃん

来年は巳年ということで、滑り込み投稿にチャレンジ。

 冬です。


 普段はお稽古で忙しくお座敷の座布団から動かないとウワサのニンゲンのお師匠サン達も走るのが風物詩の12月になりました。


 そのせいなのでしょうか?


 最近の弁天さまは縫い物や編み物でとてもお忙しいのです。


 弁天さまの身近でお仕えするへびのシロちゃんはちまちました手芸が得意ではないので、他の眷属達に比べてお手伝いすることが少なく寂しいです。



 そんなある日弁天さまがおっしゃいました。


 「最近は()()()()()()()の規制とかがうるさいからわたしも楽な格好を人前でしにくくなるのかしら?」


 弁天さまは筆舌につくしがたいほどお美しいお方なので、金襴緞子に贅を凝らした刺繍のお召し物も難なく着こなせますが、暑がりでもいらっしゃるので、特に夏は過ごしやすいお肌が透けるような蜻蛉の羽根のようなお召し物も羽織られることがあり、それがまたたいそうお似合いになるのです。


 しかもニンゲンが肌をあらわにした水着なんて物を着るようになる前から、玉の肌を惜しげもなくさらす大胆なお姿にもなられてニンゲンたちの前に姿を現されます。


 そんな時は弁天さまにお仕えするへびはごくお近くで弁天さまに近寄ろうとする不心得なやつばら共に睨みをきかせるお役目を頂くのが常なのです。


 そんな名誉なお役目も無くなってしまうのでしょうか?


 シロちゃんはこれからの寂しさを想像して泣き始めてしまいました。



 手をお忙しく動かす弁天さまは、ほろほろほろほろと白い珠のような涙を流し続けるシロちゃんに気が付かずにお言葉を続けられました。


 「でもわたし達は今の世でいうところの()()()()系だから夏は涼しいところにいて、冬は暖かくしていればいいんだわ。」


 「この頃は暑い日が長く続いて年末近くになっていきなり寒くなるんですもの。あなた方の冬支度が間に合わなくてごめんなさいね?」


 そう仰りながらも弁天さまは色んなサイズのふわふわのマフラーやかわいい刺繍飾りの入った上着の仕上げに余念がないのでした。


 シロちゃんの涙で一杯の目にもそのうちの幾つかはシロちゃんサイズのように見えて仕方がありません。


「みんなでそろうとお揃いだなって気がつくさり気ない()()()()()()()を目指しているのよ。そしてみんなで新しい一張羅を着て新しい年をお迎えしましょう」


 なんと弁天さまが忙しかったのは、ご自分やシロちゃんたち眷属全員でお洒落して仲良く年を越したかったからなのです!

 暖かいふわふわのマフラーや当世風のダウンジャケット風だのキルテッドジャケット風だのも、みんなみんな弁天さまのお手になるものなのです!



 まだ自分がはらはらと涙を流していると気が付かないままシロちゃんは弁天さまを見上げました。


 「あらあらなんで泣いちゃったのかしら?」


 弁天さまはそう仰り、手を止めてシロちゃんの涙を掬って下さいました。


 「()()()()()というやつかしら?それともそろそろおねむかしら?」


 弁天さまが触れたシロちゃんの流した涙はたいへん美事な白く輝く珠に変じました。


 「とてもきれいな珠だわ。これをおまえの帽子につけてあげましょうか」


 弁天さまのおやさしいお言葉ですが、シロちゃんは前のようにお近くに侍れないのではという思いがぬぐえないままでしたので、がんばってお願いしました。


 「あなた様のお身を飾るものとしてお使い下さい。弁天さまは素晴らしい飾り物を沢山お持ちなので、その賑やかしになればシロはうれしうございます……」


 シロちゃんの必死さに弁天さまも何かを感じられたのでしょう。


 「もしかしておまえはわたしから離れるつもりなのかしら」


 そんなつもりは毛頭ございませんとシロちゃんは首をふるふるとふりました。


 「わたしがおまえをどこかに追いやってしまうとでも思ったの?おバカさんねえ?わたしたちはずっと一緒でしょう。これまでもこれからも」


 「ほんとうでございますか?」


 「かわいいお前と離れたいとわたしが思う訳などないでしょう」


 弁天さまのお言葉が嬉しくシロちゃんはまたほろほろと涙を流しました。


 「ずっと一緒なのは変わりませんが、そろそろおまえも泣き止んでくれないと、わたし困ってしまうわ」


 そして弁天さまは悪戯っぽく微笑みました。


 「おまえの涙の珠が増えすぎて、そろそろわたしだけで使い切れる量ではなくなってきましたよ?わたしや眷属皆の毛糸の帽子や一張羅の飾りに使っても余ってしまいそうだわ」


 弁天さまのからかうような口調に、シロちゃんは恥ずかしさの余りピンク色に染まってしまいました。

 そのせいでしょうか?最後の何個かの涙の珠はたいそうかわいらしい薄桃色の珠に変じました。


 弁天さまはお言葉通り、ご自分やシロちゃん達の冬支度や一張羅のワンポイントの飾りとして白い珠のほとんどをお使いになりました。


 残りの白珠を連ねて瓔珞や耳璫をお作りになり、薄桃色の球は冠の飾りとなさいました。


 そしてその飾りをお使いになる度にシロちゃんを手招きしてささやいて下さるのです。

 「ずうっとずうっと一緒でしょう?」

 と。

弁天さま「くしゃん!あら風邪かしら?それとも誰かが噂をしているのかしら?」


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