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Red Forest  作者: ziem
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出会い

どこかの世界のどこかの場所に、とても広大な森があった。樹々は天空に届くほど高く、風が吹き抜けると葉が囁き合い、静かな音楽を奏でていた。そこには、遥か昔からエルフ族が住んでいた。彼らは自然と共に生き、森を神聖な場所として守り続けていた。しかし、森の周囲に広がる人間の町との争いは、決して絶えることがなかった。


その争いの原因は、森の地下に眠る貴重な資源だった。人々は町の繁栄のためにその資源を求め、森を掘り起こし荒らした。エルフたちは森を守るために人々と対立し、激しい衝突を繰り返していた。しかし、今のところエルフたちは人々を殺すことはせず、せいぜい森から追い返す程度にとどめていた。だが、その中でも一人だけ、過激な行動を取るエルフがいた。


そのエルフは、森で唯一のダークエルフだった。彼女の名はイシュタル。黒く艶やかな髪は夜の闇のように美しく、その美貌は一瞬で人を虜にするほどだった。しかし、その冷たい瞳には決して人間を信じることのできない氷のような鋭さが宿っていた。


エルフたちと共存はしていたものの、イシュタルは村で疎まれていた。ダークエルフという希少で異質な存在であることが、他のエルフたちから距離を置かせていたのだ。彼女は孤独だったが、それを気にしている様子はなく、むしろその孤独を自ら望んでいるかのようだった。


ある日、イシュタルはいつものように森を見回りしていた。彼女は森の守護者として、侵入者を追い払うことを日々の務めとしていた。その日も、見慣れない人間の姿を発見した。森の中で迷い込んでいるように見えたその人間は、若い人間の男だった。


イシュタルは、即座にダガーを手に取り、密かにその男に近づいた。追い払うために攻撃の準備をしていたが、ふと彼女の動きが止まった。男は足元に横たわる怪我をした小動物を手当てしていたのだ。その姿を見て、イシュタルは無意識にダガーをしまい込んだ。人間にしては、珍しい光景だった。


彼女が立ち去ろうとしたその時、不意に踏んだ枝が乾いた音を立てた。彼は驚き、振り返った。その目がイシュタルと合った瞬間、彼の顔には恐怖が浮かんだ。


「ご、ごめんなさい!何もするつもりはないんです!」彼は腰を抜かし、震える声で言った。


イシュタルは冷静に彼を見下ろし、その震える姿に少しの同情も感じなかった。しかし、彼の手が血に染まっていることに気づき、無言で近づいた。


「血が出ている。見せろ。」彼女は無表情で言い、怪我の治療を始めた。地質学者は驚きと気まずさで固まったが、ようやく「ありがとう」と小さな声で感謝を述べた。


最初、彼をただの侵入者として扱おうとしていた。しかし、怪我をした動物を手当てする彼の姿に心が動かされたことで、彼女は武器を収めた。それは、彼女にとって予想外の行動だった。


「何者だ?」イシュタルは冷たい声で問いかけた。彼女の目には警戒心が宿っていたが、攻撃の意図は感じられなかった。


彼は怯えた様子で少し身を引き、答えた。「僕は、ただの地質学者だよ。戦うつもりなんて全然ない。君が思っているような危険な存在じゃないんだ。」


「地質学者?」イシュタルはその言葉を聞き慣れず、少し警戒した。


彼はイシュタルと反対に少しだけリラックスし、彼女の疑問に答えるように続けた。「僕は土や石を調べる学者なんだ。自然がどのように形成されてきたかを知るために、地層や鉱物を研究している。…名前はレイ・エヴァンス。町からこの森の地質を調べに来たんだ。」


レイはそう言いながら、イシュタルを正面から見つめた。その瞳には誠実さが感じられ、嘘をついているようには見えなかった。彼は恐れを感じつつも、彼女に対して敵意を抱いていないことを示そうと努めていた。


「地質を調べに来た?」イシュタルは眉をひそめた。「この森にはエルフが住んでいることを知っているはずだ。それを承知で侵入するとはどういうつもりだ?」


レイは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。「正直に言えば、僕がここに来たのは政府の指示なんだ。彼らはこの森に眠る資源を欲しがっている。でも、僕自身はこの美しい森を壊したくないんだ。実際、僕はただ自然を理解したいだけで、森を侵略する意図は全くない。」


彼の言葉には、偽りがないように思えた。彼は自然に対して敬意を持ち、その中で生きる生物を大切にしている様子だった。


イシュタルはしばらく沈黙し、彼をじっと見つめた。レイはその視線に少し緊張したが、逃げることなく彼女の目を見返していた。やがて、イシュタルは短く息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。


「私はイシュタル。この森の守護者の一人だ。あなたのような人間は、これまで森に害をもたらす者ばかりだった。だが…少しはあなたの言葉を信じてみよう。だが、裏切ればその時は容赦しない。」


レイはその言葉に頷き、安心した表情を浮かべた。「ありがとう。信じてもらえて嬉しいよ。僕は本当に森に害を与えるつもりはないんだ。ただ、この場所の美しさや秘密を知りたいだけなんだ。」


こうして二人は出会い、少しずつお互いに心を開いていくきっかけを作った。

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